連載
#3 若者どこに投票すれば?
若者、どこに投票すれば? 維新、しがらみなくデジタル化を推進
課題はジェンダー 音喜多駿さんに聞く
衆議院議員選挙を控え、主要6政党の若者政策を進める国会議員にインタビューするシリーズ。話を聞いたのは日本維新の会、参議院議員の音喜多駿(おときた・しゅん)さんです。今年に入って、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに国会議員と行政機関とのやりとりのオンライン化を進めたのが音喜多議員です。日本維新の会でマニフェストづくりの責任者も務めています。どんな若者政策を考えているのか、YouTubeたかまつななチャンネルで聞きました。
――これまで質疑の準備は官僚が議員を直接訪ねてレクチャーをすることが一般的でしたが、新型コロナの感染拡大をきっかけにオンラインで行うことが原則となりました。特に日本維新の会はデジタル化が進んでいると聞いています。どうしてですか?
僕は37歳で日本維新の会では最も若くて、スマホやパソコンに慣れているのですが、2年前に国会に来たときはアナログな世界で驚きました。打ち合わせは全部官僚を呼ばなきゃいけなくて、1つの部署を呼ぶと10人くらい来てくれて、みんな廊下で立って待っているんですよね。
非効率の極みだなと思って「オンラインでいいですよ」と言っても「そんな失礼なことはできません。ご説明に伺います」と言われるのが常識だったんです。それが、コロナをきっかけに「来なくていいです」と言うと来なくなりました。それで一気にオンラインに舵を切ることができました。
もうひとつの理由は、日本維新の会の本部が東京ではなく大阪にあるためです。コロナの前から大阪で行われる会議には東京の国会議員がウェブで参加することがあったので、機材などの設備が一通りあったんです。それもあって年配の議員も含めデジタル化にはそれほど抵抗感がありませんでした。
――議員事務所と連絡すると、まだFAXとか使っていて信じられないと思うことがあります。国会全体で見たら、これまでなぜデジタル対応が遅れてきたんですか?
年配の議員の意識が低いということもあると思うんですけど、僕は究極的にはデジタル化したら困る人たちがいるからだと思います。オンラインで審議や採決ができるようになると、次に何ができるかというとネット選挙です。
ネットでの選挙が解禁されたら、めちゃくちゃ勢力図が変わるかもしれないし、ベテランの議員は居場所をなくすかもしれません。そういう恐怖からあらかじめ防波堤を作って「国会の審議は神聖なものだから集まらなきゃだめだ」と言って守りに入っているのではないかと思います。
密を作ると命に関わると言われますが、彼らにとっても政治生命がかかっているわけですね。これは僕の仮説ですが、正しいと思っています。
――あれだけ皆さんに自粛をお願いして、何で国会だけ人が集まってるんだというのが国民の目線だと思うんですけど、選挙につながっていると考えられているんですね。
――若者からすると、どこも似たようなことを言っていて、何が違うのという感覚があると思うのですが、日本維新の会の若者政策は、他の党とどう違うのでしょうか。
教育の無償化を一番最初に言い出して実行したのは日本維新の会だと自負しています。われわれは大阪で政権与党として約10年間行政を担っていますけど、所得制限はついているものの幼児教育無償化や私立高校の授業料無償化など実現しましたし、維新が大阪府知事と大阪市長を取ってから、子どもに対する予算を以前の8倍に増やしています。
具体的には、いわゆるシルバーパス(大阪では敬老パス)を有料にして50円だけ負担してもらい、その財源を教育の無償化と子どもたちのために使ってきました。
――HPやマニフェストにも、大きく教育の無償化とかかれていますもんね。そもそも、なぜ教育の無償化に力を入れているんですか?
我々の創始者である橋下徹さんが、生まれた環境で差ができてはいけないと「機会の平等」の重要性をずっと言っています。お金がある家庭で育った人は、相対的に大学など高等教育を受けやすいけれど、お金がない家庭で育つと経済的な理由でそういったチャンスを得られない。
僕らの政党は競争とか成長を重視しているので、冷たいとか弱肉強食と思われがちなんですけど、スタート地点では機会の不平等があってはいけないと思っています。
――若い人の声をすいあげて政策を考える仕組みはあるんですか?
若者の声は当然、若者協議会などいろんな団体とコミュニケーションしながら聞いています。仕組みとしてはホームページやご意見箱みたいなものがあります。ご連絡をいただければ当然会うようにしていますし、僕はSNSに寄せられた声も全部見て、若者の声を拾い上げることはしています。
最近は大学の入学金や給食費など、授業料だけでなく付随するものも無償化すべきだという陳情もいただいていますので、細かな政策を作っていくときに反映しています。
――いま特に力を入れている若者政策はありますか?
例えば選挙制度の被選挙権年齢の引き下げです。被選挙権の年齢はいま、衆議院が25歳、参議院が30歳、首長も30歳ということですが、なぜこの年齢設定になっているかというと根拠がないんですね。明治時代の文献まで遡って調べてみても、「これぐらいが成熟しているでしょ」みたいな。令和の時代に適した年齢にするために党内ですごく議論しています。
あと先進的だと自負しているのは、ドメイン制度です。これは子どもも含めて全年齢に投票権をあげましょうという制度です。子どもには当然、意思決定する能力がないので、18歳になるまでは親権者が代行します。だから、子どもが1人いる人は2票になるわけですね。
子どもの数だけ親が投票できる仕組みです。これは、ポール・ドメインさんという学者が提唱したのでドメイン制度と呼ばれています。少子高齢化の日本では1人1票では若者の声を反映できないのではないかという発想から、マニフェストにも載せようといま調整しています。
――維新は実現力に乏しいとの評価が多かったです。やっぱり実現しないと意味がないんじゃないかなという気持ちが有権者の中にあると思うんですよね。維新がどれだけ素晴らしいことを掲げていても、学者や評論家がやればいいんじゃないのかとも感じます。維新はどういう役割があると思いますか?
僕ら是々非々なので、野党も正直な話国会にいると、いわゆる野党が言うと実現しなくなっちゃうことは、やっぱりあります。「あいつらが言うことはやめた」と背を向けられてしまいます。
でも、日本維新の会は、是々非々なので、僕らが言うことを与党が飲んでくれる可能性は、結構あるわけです。これは、国民民主党さんもそうじゃないかと推察はしてるんですけども、最終的に実現は当然与党がやったことになるけれども、裏側で後押しをしていく役割は完全に反面に回っている野党にはできない、われわれのポジションの一つの強みだと思います。
――日本維新の会での若者政策の課題はどんなところにあると感じますか?
例えば性教育の分野や女性にまつわるところは、正直まだ弱点だと思っています。議員の世代間で温度差があります。上の世代はあまり知らないので、「それは問題だといわれるけど、ほんま?」「そんな困ってる人は周りにおらへんけどな」と言われます。
あとは、一部野党が言い出すと実現しないということがこの世界にはよくあります。例えば性教育の分野は左派的なイメージがあるので、そんなことを言ったら「何だ、維新は左派になったのか」と思われかねないし、「あの党と一緒にやりたくないから大々的に打ち出すのはやめておこう」みたいな。そういう論理的ではないことがけっこうありますね。
――それでも日本維新の会は強い組織票があるわけではないので、主要6政党の中で、若者の政策を一番やりやすいイメージがあります。特定の団体に支持されていないので、風が吹いたら当選できる側面が結構強いと思うんですよね。だから若者の政策をやったら結構得する、唯一の主要政党じゃないかって気がします。
そうですね、やりやすいのは確かです。次回の衆議院選挙のマニフェストも近いうちに発表されるので期待していただきたいです。今回は僕がマニフェストプロジェクトチーム事務局長なので、責任者として作っています。若者政策はかなり増やしました。しかも党内で反対も出なくて「若い音喜多がやりたいならやろう」みたいな感じでした。今回、画期的な項目がいっぱい入ると思います。
――若者政策を進める上での難しさはどういうところにありますか?
若者政策は、総論みんな賛成だと思うんですよね。でも、選挙では高齢者の方がボリュームが多いから票にならないです。だから、党内の合議で若者政策が真ん中にはなりにくいです。突破していくためには、党内でも若手が権力を持ち意思決定をしないといけません。
ちょっとマニフェストの端っこに書いときましたじゃ説得力もないし、やっぱり実現しないと思うんですよね。簡単に「世代交代」と言いますが、実際にするのは難しいです。若い人の登用を「お前の党はできてるのか?」と聞かれたら、共同代表だって相当ベテランですし、完璧にはできていません。そのために、党内の体制や打ち出し方も変えないといけないです。
――今の世代より将来の世代に向けるってことは、私はやっぱり今すぐやらなきゃいけないと思うんですけども、それってどうしたら実現できると思いますか。
政治の世界に入って8年になりますが、政治家の強いインセンティブは何かと言うと、やはり票やお金になることです。例えば、道路を引くことはいろいろな業界団体が紐づいているのでお金になりますし、実績になるのですぐに票になります。
しかし、教育政策は20年後30年後まで結果が出ないし、子どもは票を持っていないので後回しになってしまう。だから政治家は「僕がやったらこうなります」「実際にやった自治体では実現しました」といったことを伝えていくことが重要だと考えています。現状では、若者と政治家双方のコミュニケーションが不足していると思います。
――最後に、なぜ日本維新の会がオススメなのか教えてください。
日本維新の会の特徴は、特定の企業や団体とのしがらみがないことです。良くも悪くも「ふわっとした民意」をつかみ取ってここまでやってきました。最もタブーが少ない政党は我々だと思いますので、維新の政策に注目していただきたいと思います。
この4年間、国政で維新の実行力が弱かったことは真摯に受け止めなきゃいけないので、なぜできなかったのか、今回はなぜできると言えるのかを、選挙でしっかりと説明できるように頑張っていきます。
日本維新の会の特徴は、組織票がなく、若者政策をやりやすい土壌にある。だから、国会議員1期目の経験が浅い音喜多さんでも、比較的自由にマニフェストに入れられるのだと思った。若者に目を向けて、「支持してくれている高齢者が怒るからやめよう」ということが少ないのだろう。
若者向けの政策では、他の政党に比べると踏み込んだ内容が多い一方で、理想論にとどまり、実現に乏しいものが目立つのも事実だ。マニフェストを見ても、被選挙年齢の引き下げ、憲法改正や議員定数の削減など、実現していないものが目立つ。
まだできていないことに対する〝宿題〟について、音喜多さんは、「我々は是々非々の政党だから、与党が提案を聞いてくれる」と話す。
現在は、与党と真っ向から対立すると政策論争が深まらなかったり、一部のジェンダー政策が党派の争いという関係のないところに巻き込まれたりしてしまう現実がある。そんなのは、国民にとってとばっちりだ。
日本維新の会は、その点、合理的に考えられるからこそ、会議のオンライン化なども進んでいるのだろう。国会でいい質問をぶつけていることも多いと感じる。
被選挙権年齢の引き下げの実現にも熱心だ。一見すると、立候補する政治家しか関係ないと思うかもしれないが、世代交代や意思決定者に若い世代当事者がいることは、若者にメリットがある。「若者は未熟だから権限移譲をしたくない」ではなく、若者の政治参加を大事にする姿勢は他党も見習ってほしい。
ただ、維新では、それを組織化しているのではなく、個々の議員の頑張りに委ねるレベルにとどまっていないだろうか。若者向けの政策を考える議員の声をいかに党として後押しできるのか。一部の議員が若者の声をSNS熱心に拾う段階から次に行けるのかに注目したい。
1/31枚