多くの政治家たちに切り込んできたジャーナリストの田原総一朗さん(87)。withnewsでは、田原さんもこれまであまり接点がないような「次世代を担う人材」と対談する企画「相席なま田原」を配信しています。環境や社会に配慮した企業を選ぶ「エシカル就活」に取り組む大学生起業家の勝見仁泰さん(22)と、就活やSDGsについて語り合いました。対談の一部を紹介します。
田原さん:いまや環境問題が本当に深刻な問題となってきた。具体化して大問題になるのは、10年、15年先で直面するのは若い世代。勝見さんが何をしようとしているのかお聞きしたいと思います。
ところで勝見さんは小学校から高校まで野球少年だったのですね。
勝見さん:そうです。
田原さん:ポジションは?
勝見さん:色々していたんですけど、主に内野、ショートです。
田原さん:有名なのは(読売ジャイアンツで活躍した)広岡達朗だ。
勝見さん:時代が……そうですね(笑)
田原さん:その勝見さんが、高校時代にフィリピンでショックを受けて考えが変わった。どういうショックを受けたんですか?
勝見さん:人生で初めての海外だったんです。高校3年生の夏ですね。バックパックを背負って、一週間旅をしていた のですけど、学校に行けない子供たちが、ゴミ山の中から有価物になりうるものを拾って、両親にゴミを渡していた光景を見た。
僕自身はずっとこれまで野球をしてきて、野球選手になるためのプロセスを踏んでたんですけど、世界にはこんなにも悲しい出来事が起きてるんだと思ったんです。
田原さん:貧困がこんなに広い範囲にあると。
勝見さん:僕が行ったのはスラム街だったんですけど、農業従事者の方が多かったんです。その年、台風とスコールが同時に襲ったせいで、作物がだめになり、地方から都市のマニラに出稼ぎに行かないといけなくなっていました。本来だったらある程度、自給自足できていたらしいんですが、気候変動の影響が生活環境も脅かしていました。
それがきっかけでSDGsに関心を持って、大学生のときに「エシカル就活」を考えて、Allesgoodという会社を作りました。
田原さん:「エシカル就活」とはなんですか?
勝見さん:エシカルには「倫理的な」「道徳上の」といった意味があります。環境や人権、社会的配慮をしている企業に入りたい学生の就職活動が「エシカル就活」です。
田原さん:Allesgoodってどういう意味?何語?
勝見さん:ドイツ語です。僕がドイツに留学していたんですね。当時、英語はしゃべれたのですがドイツ語はしゃべれなかったんですよ。
ルームメイトのドイツ人がひたすらドイツ語で話しかけてくれてたんですが、全然分からなかったんです。「何でも使えるワードをほしい」と言ったらその大学の教授から「Allesgoodだ」と言われて。Allesgoodは「すべてOK、絶好調」といった意味だと。
田原さん:つまりAll good
勝見さん:その通りです。Allesgoodと言えば何とかなると使っていたんですけど、ある授業で、今ビジネス界で必要な考え方は、「Allesgoodだ」って聞いたんです。
日本では「三方よし」ってあるじゃないですか。売り手・買い手・市場の三方よしって、All goodだな、って。自分が会社を立ち上げようと思った時に、すごく大事な哲学だなと思いました。それに気づかせてくれたのがドイツだったので、この気持ちを忘れないでいようとAllesgoodと名づけました。
田原さん:勝見さんの「エシカル就活」はどんなサービスなの?
勝見さん:就職活動をしている学生と、採用したい企業のWebプラットフォームです。企業側はそこで学生に出会え、学生側はAllesgoodが厳選した企業を知ることができます。
田原さん:まったく、ウソ!
勝見さん:どういうことですか!?(笑)
田原さん:日本の大学生が、就活でどういう企業を選ぶかと言うと、1に倒産しない企業、2に給料の良い企業、3に残業の少ない企業。自分が何をやりたいか、社会にとってこの企業が良いか悪いかはまったく関係ないのでは。
勝見さん:関係ないとはどういうことですか?
田原さん:建前では色々言っていても、本音は倒産しない、給料良い企業に入社したい、という。
勝見さん:ただですね、田原さん。今はちょっと変わってるんです。
昔は「倒産しない企業」と言っていたんですけど、それって終身雇用の考え方なんですよ。
僕らが考える「就職」って、その会社で得るものが自分のためになるか否かです。企業が倒産しても、「得るものがあったら働いて、その後は転職すればいいや」って考えなんですね。昔と今とで、就職に対する考え方の一番最初に来るものが変わってきているんじゃないかなと思います。
田原さん:安倍晋三さんの産業構造改革案もまさにそこで、今までの日本は年功序列、終身雇用を転換することだった。
勝見さん:自分が就職活動をしようと思った時、企業のSDGsの取り組みやESG投資の情報が一元化されていませんでした。考えてない企業と考えている企業が同じ情報になっていた。同じような課題感を抱えている学生が非常に多くて、僕らが「エシカル就活」を立ち上げたきっかけでもあります。
就活生は毎年40万人いますが、その5人に1人が、最初に気にすることは企業理念、次が事業内容、その次にSDGsの取り組みと答えています。
田原さん:そうなの!?
勝見さん:そうなんですよ。本当に、社会課題とキャリアをマッチさせたいというニーズがめちゃくちゃ増えているんですよ。 SDGsの流れもそうですし、新型コロナでもそれがすごく顕在化しました。企業がどう有事対応するのかもあると思いますが、就活生の考え方、企業選びの軸もおそらく5年前とも違っているんですよね。
田原さん:「エシカル就活」で、環境や人権を考えている会社を見分けるにはどうすればいいのだろう?
勝見さん:僕たちのプラットフォームでは、企業に情報をもらって開示しています。
エシカル企業は二つあると思っていて、一つは事業内容自体が社会課題を解決している企業。例えば、バイオエネルギーを作るなどで社会課題を解決している企業。もう一つは、企業活動におけるネガティブなインパクトを本当にできる限り最小限にしている企業です。
田原さん:ネガティブなインパクトってどういうこと?
勝見さん:例えば、サプライチェーンにおける児童労働や労働搾取で、非倫理的な取り組みを消すことに注力している企業、「人権デューデリジェンス」ですね。
ただ、「取り組んでます」って言う企業はたくさんあるんですけど、良くないのは「取り組んでることだけ」しか話さないことです。できていることしか話さない企業は、我々はしっかり精査させてもらいます。できていない課題に対しても、透明性をもって開示している企業は、変わる気概がすごくあります。
田原さん:なるほど。
勝見さん:僕がエシカル就活をつくった思いの一つが、「あなたが一番やりたいことって何ですか?」ということです。今の就活市場では、個性みたいなものをなかなか出していけないんじゃないかなと思います。
田原さん:元首相の宮沢喜一さんが面白いことを言っていた。日本の政治家は国際会議で発言できない。なんでか?英語ができないから?違う。
日本の教育は正解に答えないと怒られる。G7は正解なんかない。だからやるんだと。日本の政治家は正解のない問題に答える能力がない。宮沢さんは教育を抜本的に変えないとだめだと言った。
勝見さん:本当にそうだと思います。受験もそうですけど就活って受験の最終ゴールなんですよ。「良い大学に行って、良い所に勤めるために」っていう考え方だから、教育の一番の悪いひずみが就活に出ると思っています。
田原さん:今の若い人たちは留学したがらない、早く就職したいと思っているんじゃないですか。
勝見さん:就活で一番の課題として思っていたのは、大学での勉強の熱量を就活で削がれるということなんです。
僕も大学ですごく勉強しましたが、その熱量が、就活で全部取られてしまうんですよ。
就活で求められることって、エントリーシートを書くにしても「答え」があって、いかに企業に自分を売り込むかです。自分でプロダクトをつくって「これどうですか」と言うんじゃなく、その企業が「良い」と言ってくれるようなものをつくるだけ。これまで勉強したことへの熱量など含めて個性を家に置いていってるなと思います。
田原さん:Allesgoodの取り組みはとても大事で、大企業の経営者は賛同する人多いと思います。この間亡くなった経団連の中西宏明さんも大賛成だと思う。
中西さんは「このままじゃ日本の企業は10年先ない。抜本的に変えないといけない」と言っていた。中西さんが日立製作所の社長の時に、年功序列や終身雇用の日本的経営をやめちゃった。
勝見さんのようなエシカルの意見は数年前までは「建前」だった。でも今は、これを「本音」にしないと日本は滅びる。大企業の経営者も、変わることに本音になってきたからチャンスだと思うよ。
勝見さん:身が引き締まる思いです。ありがとうございます。