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空間除菌「イメージ戦略」行政に波及、炎上で“誰も得しない”てん末

さまざまな「除菌」をうたう用品があるが……。※画像はイメージ
さまざまな「除菌」をうたう用品があるが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

コロナ禍で話題になった空間除菌用品ですが、人への有効性や安全性は未確立であり、さまざまな問題点が指摘されています。その一つが、薬機法に違反するため「コロナ対策」とうたえないメーカー側による「イメージ戦略」です。

「効きそう」なイメージを巧みに宣伝した結果、行政も導入する事態に。しかしその結果、行政が勝手に「コロナ対策」をうたってしまい、炎上するケースも重なりました。結果として“誰も得をしない”てん末を振り返ります。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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スポーツ庁、富田林市が…

人への有効性や安全性が未確立であるため、医薬品や医療機器として認められていない空間除菌を、スポーツ庁や大阪府富田林市が「コロナ対策」として打ち出す、という出来事が続きました。

まず、スポーツ庁の事例について見ていきます。同庁は令和2年度の第3次補正予算で「国立競技場等における新型コロナウイルス感染症対策」として20億円を計上し、方法に「空間除菌等」を含めていました。

この予算はオリンピック期間中に執行され、所管の独立行政法人を通じて国立競技場の会議室などに空間除菌をうたう複数台の空気清浄機が設置されました。総額は数十万円規模となりました。

同庁の担当者は記者の取材に、検討途中で厚労省などが空間除菌を推奨していないと気づき「空間除菌に対する認識が甘かった」ことを認めた上で、空気清浄機の設置については「できるだけ換気をすることは必要だと考えた」と回答しています。

次に、富田林市の事例です。同市は2021年2月、約5万の全世帯に向けて「『選べるコロナ対策用品』をお届けします」とするカタログを配布しましたが、その中には約2万個の空間除菌用品(クレベリン)が含まれていました。

購入に使われた税金は約4000万円とみられます。プロジェクトの進行にあたって、業者からの提案をもとに選定したということです。準備されたクレベリンを含むAセットは約8割が支給されたそうです。

同市担当者は当時のプロジェクトメンバーから聞き取りをして「ドラッグストアなどで普通に販売されているため、それ自体が問題あるものだとは思っていませんでした。とにかく“できることから始める”という気持ちだった、ということでした」と経緯を説明しました。

アダになる“前向きな気持ち”

共通するのは“前向きな気持ち”です。スポーツ庁も富田林市も「できるだけ」「できることから」といった言葉を、空間除菌の家電を導入したり、雑貨を配布したりした理由に挙げています。

これらの出来事は、いずれも新型コロナウイルス感染拡大の“第3波”の時期に起きました。当時は現在のように一般へのワクチン接種も進まず、「コロナ対策」に有効な手立てが見出しにくかったと言えます。

行政としては、まさに手詰まりだったことでしょう。それでも、スポーツ庁は五輪開催を控え、富田林市は多数の市民を抱えています。まさに、「できるだけ」「できることから」対策をする必要に迫られていました。そんなニーズと合致したのが空間除菌用品だったということになります。

ただし、対策にはコストがかかります。行政が払うコストとは、すなわち税金です。その対策が果たして本当に効果があるものか、という点は、厳しい目にさらされざるを得ません。

ここで重要なのは、厚生労働省によると、現在、医薬品医療機器法(薬機法)に基づいて新型コロナウイルス対策を標ぼうできる空間除菌の家電や雑貨はないということです。

つまり、現在「空間除菌」をうたって販売されている用品は、(人への)「コロナ対策」としての効能効果が国に認められている医療機器や医薬品ではないので、薬機法上「コロナ対策」とうたえません。

一方、販売するメーカー側は、実験室などの特殊な環境下での実験結果を根拠に、人への効果があるとは言えないけれど、人への効果に期待しているし、人への効果があると思わせたい、という矛盾を抱えています。その結果、薬機法に抵触しない範囲で宣伝に工夫を凝らしている実態があります。

巧みすぎた「イメージ戦略」

厚労省などが注意喚起をしていても、同じ行政にそれが浸透していない現実。スポーツ庁と富田林市の事例は、担当者がメーカー側の宣伝に影響され、それが実際の対策にも反映されてしまう可能性を示しています。

例えば「人の周りに病原体が飛び交っていて、それらが特定の商品で解消するかのようなイメージ映像」のCMが流れているのを見かけたことがないでしょうか。こうしたCMをよくチェックすると、ウイルス・菌といった総称しか​​用いられていません。薬機法上、許されるとする範囲の表現に留まっています。

しかし、こうした「効きそう」なイメージ戦略が実際に成果を上げた結果、薬機法にメーカーほど詳しくないスポーツ庁や富田林市が、これらを「コロナ対策」として代わりに紹介してしまう、という現象につながりました。

一方で、こうした事例が明るみになれば、大きな批判を集めます。いわゆる炎上としてSNS上でネガティブな反応が広がれば、商品の宣伝としては失敗とも言えるでしょう。

実際、代表的な空間除菌をうたう雑貨である「クレベリン」を製造・販売する大幸薬品が21年8月に発表した「通期連結業績予想の修正」などのお知らせによると、同社の売上高予想は2月に比べて100億円近く下がっています。また、31億円の黒字予想が一転して28億円の赤字になりそうだとも発表されています。

同社はこの理由を「除菌関連市場は、新型コロナウイルス感染症流行の長期化による不安度の鈍化やワクチン接種による効果への期待等から、他社の商品を含め店頭等での市場在庫の消化が進んでいない状態」と説明しています。​​

このようにメーカー側のイメージ戦略は、巧みであるがゆえに、結果的に“誰も得しない”てん末を招いたとも言えるでしょう。
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