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連載

#39 金曜日の永田町

岸田さんに届かなかった地方幹部の心配 金権疑惑説明しなくていい?

「古くさい国に元通り」にしないために

取材に応じる自民党の岸田文雄総裁=2021年10月1日午後4時17分、東京・永田町の自民党本部、上田幸一撮影
取材に応じる自民党の岸田文雄総裁=2021年10月1日午後4時17分、東京・永田町の自民党本部、上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.39) 2021.10.2】
菅義偉首相の後任である第100代の首相に、安倍政権で政調会長などを務めた岸田文雄氏が就任することになりました。ただ、人事は「30年ぶりの宏池会政権」という願い通りに進まず、「岸田さんの顔をした安倍内閣」とも呼ばれる状態に――。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
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「黙っていたことが国家の噓を許した」

10月2日、政治とメディアの問題をえぐりだす映画『コレクティブ 国家の嘘』(アレクサンダー・ナナウ監督)の日本版の上映が始まりました。

舞台は東欧・ルーマニア。2015年のライブハウス「コレクティブ」での火災で、一命を取り留めたはずの入院患者まで次々と死亡していくことに疑問を感じたスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」のジャーナリストたちが、巨大医療汚職事件の闇に迫る姿を映したドキュメンタリー作品です。『スポットライト 世紀のスクープ』のリアル版とも称され、世界各国の映画祭で受賞を重ねています。

「現時点で危険はない」「メディアが騒いでも問題は解決しません」

「ガゼタ・スポルトゥリロル」の報道を打ち消そうとする政府に対し、粘り強く調査報道を続ける編集長・トロンタンはある日、テレビの討論番組に出演します。そこで自分の子どもから「こういう記事は医師には負担だよ。暴露記事なんかやめて」と言われたと明かします。

「あなたの答えは?」

「『これが私の仕事だ』と。その後、私はある結論に達しました。火事のあと、皆が黙っていたことが国の噓を許したんです」

届かなかった地方幹部の警鐘

さて、永田町では9月29日、自民党総裁選の投開票が行われ、菅さんの後任の新総裁に、安倍政権で外相や政調会長を務めた岸田文雄さんが選出されました。10月4日に始まる臨時国会で、第100代の首相に選ばれる予定です。

4月の衆参両院の補選・再選挙での全敗、8月の横浜市長選での大敗……。今回の総裁選では、衆院選を前に菅政権の支持率低迷にあわてた自民党内で「菅おろし」が広がり、菅さんが不出馬に追い込まれました。

総裁選の告示後、自民党の都道府県連幹部を対象にしたアンケートを行いましたが、安倍政権の官房長官だった菅さんが圧勝した1年前の回答とは様変わりしていました。

それは、安倍政権・菅政権の政治路線に対する見方です。

昨年9月のアンケートでは、「安倍政権の路線を継続」を求めたのが28都道県と約6割を占めていました。ところが今回、「安倍前首相や菅首相の路線を引き継ぐ方がよいと思いますか」と尋ねると、「引き継ぐ方がよい」と答えたのは5県どまり。「引き継がない方がいい」の6府県よりも少なく、「どちらともいえない」が32都道府県にのぼりました。

とくに不満が強いのが、相次ぐ「政治とカネ」問題などで浮き彫りになった説明責任の欠如でした。

「いまの政権は、国民の声が届いておらず、説明責任も果たされていない。言い訳ばかりの体質を変えなくてはいけない」

これは岸田さんの地元・広島県連の幹部の指摘です。河井克行・案里夫妻が2019年の参院選広島選挙区でおこなった大規模買収事件に関する安倍・菅政権の説明への不信感が込められています。

森友学園・加計学園問題や「桜を見る会」前夜祭問題などについての意見も相次ぎました。

「森友問題は(公文書改ざんを苦にした)職員が亡くなっていることもあり、なおざりにはできない」

「説明責任が薄かった。長期政権のひずみで甘くなった結果、政治とカネの問題、加計や桜を見る会の問題も出た。そこはきっちりと直していただきたい。長期政権や派閥絡みで閉塞感、しがらみが出ている」

「モリカケ、桜のような疑念を国民に抱かせない、クリーンな政治をやってほしい」

「菅首相がかばっているように見えてマイナスだった。この路線の踏襲では、国民もついてこないのではないか」

石破茂元幹事長らと連携した河野太郎行政改革相が世論調査で支持を広げていたことについても、次のような分析がありました。

「改革的な人が望まれているのかと思う。裏を返せば、これまでの自民党の政治の進め方が、国民に隠し事があるような感覚を抱かせてしまっている。透明感のある説明をしたうえで、安定的に政策を進めることが国民に信頼される一歩につながる」

首相官邸前で抗議の声をあげる人たち=2018年3月30日夜、東京・永田町、角野貴之撮影
首相官邸前で抗議の声をあげる人たち=2018年3月30日夜、東京・永田町、角野貴之撮影 出典: 朝日新聞

「国会での約束はどうしたのか」

しかし、「菅退陣」とメディアジャックで支持率を回復した自民党の国会議員たちが選んだのは、「政治に国民の声が届かない」「民主主義が危機にある」と語りながらも、森友学園をめぐる公文書改ざん問題の再調査に否定的な岸田さんでした。

そして、岸田さんは財務相として森友問題の再調査を拒んできた麻生太郎副総理を副総裁に、麻生派の甘利明氏を幹事長に起用する人事を決めました。

安倍晋三前首相が支援した高市早苗前総務相が政調会長に起用されるなど、「3A」と呼ばれる安倍、麻生、甘利3氏の意向が強く反映した体制です。

さっそく与野党から「岸田さんの顔をした安倍内閣」(立憲民主党の安住淳国会対策委員長)などと疑問の声があがっています。
とくに疑問視されているのが、甘利さんです。

安倍政権の経済再生相だった2016年、自身や元秘書が都市再生機構(UR)と土地の補償交渉をしていた業者からの現金計600万円を大臣室などで受領していたことが発覚し、閣僚を辞任。検察の捜査では、甘利さんも元秘書も嫌疑不十分で不起訴処分となりましたが、国会などでのきちんとした説明がなされていないからです。

野党はさっそく甘利さんの国会での説明を求める構えですが、甘利さんは10月1日の幹事長就任会見で「秘書がURと接触していたこと自体を知らされてないんです。だから私は寝耳に水」と主張。そして、こう訴えました。

「強制権を持っている捜査機関が出した結論以上のものは出せない」

しかし、捜査機関が調べた「刑事責任」の有無と、公職者として問われている「説明責任」は別物です。甘利さんの説明が通れば、安倍政権下の検察当局の判断によって、佐川宣寿・元財務省理財局長らが「不起訴」となった公文書改ざん問題もはじめ、多くの疑惑に関する説明責任はすべてうやむやになってしまいます。

さらに、甘利さんは野党が求める国会招致については、「それは国会がお決めになることであります」と答えました。自民党が多数を握ったいまの国会では、自民党幹事長に国会運営の主導権があります。実態としては、「自分が決める」といっているようなものです。

甘利さんは現金授受問題の発覚直後、「精査したらちゃんと申し上げます。逃げ切るということは一切言っていません」と国会で答弁していました。

この答弁を引き出した共産党の田村智子さんは「直後に『睡眠障害』ということで国会の場に出てこなくなった。国会での約束はどうしたのか。金権疑惑は説明しなくていいということを露骨に示す人事だ」と批判しました。

記者会見に臨む自民党の甘利明幹事長=2021年10月1日午後2時53分、東京・永田町の党本部、関田航撮影
記者会見に臨む自民党の甘利明幹事長=2021年10月1日午後2時53分、東京・永田町の党本部、関田航撮影 出典: 朝日新聞

森友調査を批判した領袖の死

さて、岸田さんが甘利さんと新政権の人事構想を進めていた9月30日、岸田派(宏池会)と同じビルにある竹下派(平成研究会)の事務所では、ある政治家を追悼する記帳台がもうけられていました。

9月17日夜、食道がんのため死去した同派会長の竹下亘さんです。74歳でした。

竹下さんは2017年に森友問題が発覚したときには国会対策委員長で、「安倍総理に対する侮辱だ」と懲罰的な意味合いを含んだ発言をして、学園理事長の証人喚問に踏み切るなど、物議を醸したことがあります。

ただ、2018年の公文書改ざんが発覚後、総務会長として、「誰がどう指示をして、動機は何だったのか、ストンと落ちなかった」と財務省の調査結果を批判。政調会長だった岸田さんと相談し、党としての検証を模索していました。

「役所の不祥事も、最終的には内閣総理大臣である安倍晋三総理の責任だ。それぞれの担当の政治家がしっかりと真っ正面から受け止めるのが政治のあるべき姿だ」

「なかなか政策では、支持率が落ちることがあっても、回復することはありません。やっぱり『あいつは信用できる』『あの党が言うことは信用できる』という安心感を国民に持って頂けるかが非常に大きな要素だ」

人事の進め方、変わっていたかも

竹下さんは各地での講演でも、自民党に向けられる「不信」を直視した訴えを繰り返していました。そして、安倍さんの出身派閥で党内最大派閥である清和会(現・細田派)への対抗心を胸に秘め、「いつまでも平成研が清和会の言いなりになっているわけにいかない」と周囲に語っていました。

安倍さんが3選を果たした2018年9月の総裁選では、石破さんの支援に回りましたが、その前段では岸田さんの総裁選出馬にも期待をしていました。

「かつて田中(角栄)・大平(正芳)連合がありましたが、あの連合の原点はリベラル。自民党内のリベラルなグループが(竹下派の源流である)田中派であり、(岸田派の源流である)大平派であるということであり、政策的に一番近いのは、岸田さんのところと感じている」

岸田派が出した「K-WISH」という政策集についても、「第一印象は『うぃっしゅ!』というのは、(大甥の)DAIGOのセリフで横取りするな」と冗談を交えながら、「中を読んでみて、リベラルな人だ、リベラルなグループだな、と改めて感じた」と語り、「兄弟派閥」としての親近感を表明していました。

私は、竹下さんとは学生時代からの因縁があります。11年前の朝日新聞の連載「探訪保守」に記したので、今回は省略しますが、いわば「対決」をした過去です。

しかし、30年ぶりの宏池会政権ができたいま、生前の竹下語録を思い浮かべながら、宏池会の頼りになる兄弟派閥の領袖が健在だったら、岸田さんの総裁選の戦い方や人事の進め方も「3A」頼みとは違ったのではないかと感じました。

竹下派が輩出した兄・登さん、橋本龍太郎さん、小渕恵三さんという3人の歴代首相の写真とともに掲げられた遺影に手を合わせた後、竹下さんとゆかりの深い議員に話しました。

「岸田さんにとっても、いま、竹下さんがいれば心強かったでしょうね」

竹下亘自民党総務会長=2018年6月13日、東京都千代田区、岩尾真宏撮影
竹下亘自民党総務会長=2018年6月13日、東京都千代田区、岩尾真宏撮影 出典: 朝日新聞

「投票率が低ければ元通りだ」

岸田さんの立候補表明から1カ月以上続いた自民党総裁選では、「安倍1強」と呼ばれた自民党に、異なる考え方が混在しているということが連日報じられました。

ただ、結果が示すとおり、岸田さんが訴えた「民主主義の危機」にある政治を着実に変えていくには、総裁選という内部の自浄作用だけでは難しく、衆院選の投票で市民の民意を国会に注ぎ込むことが王道です。

冒頭に紹介した映画『コレクティブ国家の嘘』では、ジャーナリストの動きを追う一方、政府内部で改革をめざす大臣がもう一人の主人公になっています。大臣の台詞が印象的でした。

「国の機能不全が時に個人をおしつぶす。あなたは壊れた国が及ぼす被害をまともに受けた。この国の行政の9割が深い部分で腐敗し、人々の気持ちをくじいている。投票率が低ければ(旧勢力が)勝つだろう。そして彼らは他の保守勢力と手を組み、全部元に戻したがるだろう。古くさい国に元通りだ」

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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