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IT・科学

コロナ「身近なもので死滅・予防」 誤情報を生み、信じる心理とは?

水道水にまつわる誤情報もあったが……。※画像はイメージ
水道水にまつわる誤情報もあったが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

【連載「コロナ“医療デマ”の傾向と対策」】新型コロナウイルスの感染拡大から約1年半。その間にさまざまな誤情報が発生、ネットで拡散してきました。これまでに検証された誤情報には、どんな傾向があり、対策ができるのでしょうか。医療と社会心理の専門家と一緒に分析します。※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画記事です。withnewsが情報の真偽検証を行い発信しています。

コロナ禍で何度も話題になったのが、「身近な飲食物」でウイルスを死滅させたり病気を予防できたりするという誤情報です。飲食物に含まれる“成分”を拡大解釈して生まれる誤情報、そこに身近な飲食物が当てはめられる“納得”のメカニズムについて、医療と社会心理の専門家と一緒に分析しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
 
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誤情報「身近なもので…」

「(体内の)新型コロナウイルスは熱に弱いため、26〜27度のお湯を飲むと死滅する」
「(体内の)新型コロナウイルスは日本の水道水を飲むと死滅する」
「新型コロナウイルス感染症は緑茶や紅茶で予防できる」

これらは新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以降、少しずつ形を変えながら、ネットで拡散してきた新型コロナウイルスに関する誤情報です。

お湯や水道水、お茶など非常に身近なものによって、新型コロナウイルスを死滅させたり、感染症を予防できたりするなら、ここまで世界的な流行が起きるのだろうかと疑問を感じます。

しかし、これらの誤情報は実際に拡散され、信じる人もいました。こうした「身近なもの」により健康への脅威を退けたり、防いだりできるという誤情報は、なぜ発生し、どうして拡散してしまうのでしょうか。

“成分”の拡大解釈はNG

これらの情報が誤りであることについて、あらためて取材しました。話を聞いたのは、大阪大学医学部感染制御学​​講座教授で医師の忽那賢志さんです。

忽那さんは日々の診療で、患者さんの不安に向き合い、その中でこうした誤情報に触れることもあるといいます。「不安を解消したいという気持ちはわかりますが……」と、説明をしてくれました。

まず、「お湯や水道水で体内の新型コロナウイルスが死滅する」という情報については、「科学的根拠はありません」とします。

「コロナウイルスは熱で死滅させることができますが、それはモノの表面の消毒において、80℃の熱水に10分間さらした場合です。26〜27℃は体温より低い温度ですし、お湯を飲んでも体内のウイルスが直接さらされるわけでもありません。

水道水は塩素で消毒されており、コロナウイルスも塩素で消毒できますが、それは水道水の安全が保たれているということであって、水道水を飲んで体内のコロナウイルスが死滅するわけではありません」

当たり前のことですが、体の中に潜むウイルスに、口から飲んだものが直接的に作用するわけではありません。逆に、ウイルスを死滅させる効果のある消毒薬は人間の体にも害になるため、その容器などで口から飲まないように厳重に注意されています。

また、「緑茶や紅茶で新型コロナウイルス感染症が予防できる」という情報も「科学的根拠がないものです」(忽那さん)。現状で、新型コロナウイルス感染症の予防に有効であるという科学的根拠があるのは、接種の進むワクチンやマスク着用、手洗いといった、すでに知られた方法だけだと指摘します。

「コロナに限らずですが、こうした情報には注意が必要です。緑茶や紅茶だけでなく、食べ物や飲み物の“成分”が有効であると発表されることがあります。しかし、このような研究結果は、実験室の環境で、例えば自然には摂取できないような高い濃度のその“成分”を、直接ウイルスにかけるなどして得られるものです。

そうして得られた研究結果自体、本当なのかどうか、さらに検証を重ねて確かめられるべきですが、人間の体は実験室の環境よりも大変に複雑です。まず、“成分”が病原体に対して有効であるということと、それを含む食べ物や飲み物が病気に対して有効であるということには大きな乖離があることを、この機会にあらためて伝えたいです」

コロナ禍ではヨーグルトや果物、最近でも納豆などの“成分”が、繰り返し何度も注目されています。しかし、これらの飲食物を摂取しているからと安心して、適切な予防策がおろそかになるようなことがあれば、本末転倒です。

“成分”が有効であるという情報は、メディアから発信されることがあります。それが拡大解釈され、“成分”を含む食べ物や飲み物が有効であるという誤情報が出回ってしまう、という危険性が、コロナ禍であらためて浮き彫りになっています。

ブレーキをかけるには

このような誤情報はどのように発生、拡散されていくのでしょうか。東京女子大学現代教養学部教授の橋元良明さん(社会心理学)に話を聞きました。

研究者として長年に渡り“デマ”や誤情報の問題に取り組む橋元さんは「社会的危機状況下で流布されやすい」と注意喚起します。

「みなが緊張することで、人間の集合は興奮状態に陥りやすくなります。このような場合、日常の規範意識が崩れ、人間は批判能力が下がり、他者に影響されやすくなります。不安を共有したくなり、そこに今は誰でも容易に発信できるネットがある。いわゆるコロナ禍は、まさにこの状態に該当します」

これが新型コロナウイルスに関連した誤情報が発生する土台です。さらに「普段と違う感情を持ったとき、人間は自分を納得させようとします」と橋元さんは言います。

「しかし、新型感染症の流行という未曾有の事態では、わかっていないことが多すぎて、正しい情報だけではその欲求が満たされません。自分を納得させるために、誤情報を信じたり、誰かのせいにして責めたりといった行動をするようになります」

この「納得」をする上で、お湯や水道水、お茶など、身近なものが使われやすいことが考えられる、と橋元さんは分析します。たしかに、よく知らないものでは納得しづらいと言えそうです。

では、ネットで、あるいはいわゆる「井戸端」で、誤情報を拡散する心理とはどのようなものなのでしょうか。

「『運命共同体意識』と言われますが、社会的危機状況下では自分だけ不安なのは寂しいと思い、人を巻き込もうとする心理が形成されます。また、『私だけが知っている』という優越感も形成されやすく、それを誇示することが拡散につながります。

そして、新型コロナウイルスについては、自分が聞きかじったことの真偽を確かめようとして結果的に自分が誤情報の発信源になってしまうケースや、正義感から『真実を世の中に広めたい』として拡散するケースもある。後者の場合、そもそも誤情報だと思っていないことになります」

こうした誤情報の発生・拡散は、どのようにブレーキをかければいいのでしょうか。橋元さんは「それが興奮に端を発している以上、冷静になること」が必要だとします。

「自分が聞いた情報、発しようとしている情報の出どころを確かめることです。新型コロナウイルスについてであれば、まずはWHOや厚労省などの公的機関を、自分で参照することが大切です。たとえ情報に『WHO/厚労省によれば』と枕詞があっても、人は無意識のうちこうした枕詞をでっち上げることもあるので。

現代社会においては、良し悪しは別に、誤情報の発信者が吊るし上げられたり、損害賠償を請求されたりすることもあります。自分の拡散が、自分の被害・損失につながるという可能性を頭に入れておくことは、『冷静になる』上でもカギになるのではないでしょうか」
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