連載
#6 コウエツさんのことばなし
校閲記者が〝やりらふぃー〟に出会った日 ギャル語と言葉の賞味期限
「これ記事で使えるのか…?」
ある日、見つけたネットの書き込みにあった謎の言葉。「好きな人がやりらふぃーで」「あーやりらふぃーか」「でも好きならいいんじゃないですか?」。私が戸惑っている間にも、会話は進んでいきます。え、ちょっと、「やりらふぃー」って何? 調べてみるとギャル語と〝言葉の賞味期限〟の深い関係が見えてきました。(朝日新聞校閲センター・田辺詩織)
「やりらふぃー」を見つけたのは、ふらっと入ったLINEのオープンチャット※でのことでした。
※LINEオープンチャット:メッセージアプリLINE内の誰でも入れるチャットルーム。友達やグループになっていなくても参加できる。2019年8月に開始。
1995年生まれの26歳。年上ばかりの職場にいるせいか、ずっと自分のことを若者だと思っていました。
大人に「住民票」を移してはや数年。この日、人生で初めて若者言葉をネット検索しました。
謎のワード「やりらふぃー」。元ネタは、2017年に当時高校生のノルウェー男子2人組が作った曲「CHERNOBYL 2017」のなかにありました。
曲に合わせて踊った動画が投稿されると、サビ部分の歌詞「Jeg vil at vi」が「やりらふぃー」と聞こえると話題に。4年越しで昨年、TikTok※日本ユーザーの間で大流行しました。
※TikTok:ショートビデオを投稿して交流するSNS。米国などでは若者がメイン利用者となっているが、意外にも日本では幅広い層の利用者がいる。
この曲はYouTubeでの再生回数が2021年9月時点で、2千万回を超えています。「Jeg vil at vi」は、英語にすると「I want us」。歌詞は「みんなに新しいことを体験してほしい」と続きます。
SNSでの盛り上がりに伴って、「やりらふぃー」はコンテンツそのものを指すだけでなく、盛り上がったときに「かけ声」として発するなど、様々な使い方をする言葉になりました。ひと昔前でいうなら「わっしょい」とか「うぇーい」でしょうか。
さらに転じて、「パリピ」に代わって「軽いノリのひとたち」という意味で使われるようにも。……パリピって死語なんですか?
ということは、冒頭に紹介した「好きな人がやりらふぃーで」は「好きなんだけど、なんだかノリが軽くて」「チャラくて」といった感じでしょうか。
実はこの「やりらふぃー」、2020年ギャル流行語大賞で堂々の1位でした。
……とここでさらなる疑問が。ギャル流行語大賞って何?
どうやら2009年から続いているようです。
「なう」「ぽよ」「おこ」――2010年代前半のランキングには、たしかに私が高校生のころに使っていた言葉が。な、懐かしすぎる。
「ギャル流行語大賞」は、ガールズカルチャーに関する分析やタブロイドの発行などを手がけるGRP by TWIN PLANETが、年に1度発表する「ギャル界」の流行語ランキング。
流行に敏感なギャルやZ世代※を中心に実施したアンケートをもとに、その年の流行やトレンドを分析しながら大賞を決定しています。
※Z世代:1990年代中頃~2010年ごろに生まれた世代。インターネットやスマートフォン、SNSを幼い頃から日常的に使いこなしているとされる。
ランキングには毎年新しい言葉がランクインする一方、09年1位の「アゲ」と10年1位の「アゲぽよ」、18年3位の「あげみざわ」などは、「あげ(上げ)」という同じ言葉がもとになっているように見えます。どれも「テンションが上がる」という文脈で使われそうです。
「やりらふぃー」も、仲間内で盛り上がりたい時に、気分を上げるのにぴったりな言葉ということでしょうか。
「ギャル流行語大賞」実行委員会の安部舞紗さんに、お話を伺ってみました。
◇
――流行語、ギャル語について、どう考えていますか。
「ギャルのトレンドやバイブス※にも流れがあるように、ギャル語にも『鮮度』があります。私たちが生きるとともに時間を消費しているように、ギャル語にも必ず『賞味期限』が付き物というべきかもしれません」
※バイブス:気分、ノリ。
――たった数年でそんなに変わってしまうんですね。
「意味合いはほぼ似ていますが、例えば今『アゲ~!』などと発言したら、かなり恥ずかしく滑稽な感じになりますよね」
――滑稽……確かに。ギャル語、若者ことばの魅力はどこにあるのでしょうか。
「ギャル流行語大賞を通して私たちが思うギャルの魅力は、発信力・情報収集力・共有力の強さです」
パワフルな生き方と、可愛いと思ったものを常に追いかけ続ける探求心もギャルならでは。実は安部さん自身も「元ギャル」といいます。
「私は今年39歳になるのですが、私たちの時代のギャルは、見た目で判断しやすかったんです。(髪の毛の)メッシュや金髪、日焼けした黒肌に白ラインのメイクなど、『ヤマンバ』全盛期で、とにかくド派手なギャルが多く、大人世代からも“ギャル”だと一目で認識できたはずです」
◇
安部さんによれば、そんなギャルたちの様子も、2008年ごろから変わってきたといいます。
「昔と比べると、見た目や生息する場所も変わりました。が、ギャルたちの発信力・情報収集力・共有力の強さは変わらないんですよね」
日焼けや派手なメイクはなりを潜めても、SNSという強力なツールを手に、センスある言動をその時々に発揮していくことで、影響力を持ち続けていると言えそうです。
今はコロナ禍でもあり、渋谷や原宿など流行の発信地にギャルたちが集まることは、あまりなくなったかもしれません。しかし、雑踏という「リアルのストリート」から、SNSという「ネット上のストリート」に場所を変え、今でも変わらずパワフルに発信し続けている。それが「いまどきのギャル」のようです。
年齢や世代、住んでいる場所、学校や職場ーー自分の属性や身を置くコミュニティーによって、使う言葉は変わります。世界は刻々と変化し、今日もどこかで新しい言葉が生まれ、そしてすたれていきます。言葉は新しい事象を表す便利なツールではありますが、言葉自体が見慣れなかったり、分かりにくかったりして通じないことも。私にとっては、今回の「やりらふぃー」がまさにそれでした。
校閲記者は、目新しい言葉に出会うと「これは記事のなかでそのまま使っていいだろうか」、それとも「まだ一般に浸透していないから、別の分かりやすい言葉に変えたほうがいいかも」、あるいは「ひとこと注釈を加えたほうがいいかな」などと議論を重ねます。「より多くの人々に、正確に、分かりやすく伝わるように」と意を尽くして整えていくのが、大切な仕事の一つです。
こう書くと堅苦しい人間の集まりのようですが、新語や変わった言い回しを見つけ出すのは大好き。「やりらふぃー」に私が遭遇した時も、「やりらふぃーって何!?」とリアルに叫んでしまいました。
ちなみに「ことばなし」で今回、「やりらふぃー」を取り上げようと相談した校閲職場のデスク(40代男性)は「それってメトニミー※? いや違うか?」と食いついてきました。
新しい言葉を見るとこねくりまわしたくなるのは、校閲記者のサガのようです。
※メトニミー:あるものを言い表す時、それと深く関連するものに置き換えて伝える比喩表現の一つ。アメリカの大統領官邸を指して「ホワイトハウス」と言ったりするたぐい。
2021年度のギャル流行語大賞は、12月初旬に発表予定。今年はどんな流行語が選ばれるのか、今から楽しみです。
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