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ネットの話題

「こんな絵かけないなぁ」寿命を迎えたカブトムシ、息子が描いた一枚

父が残したかった「思い出を全部」

素朴な印象を受ける、カブトムシのイラスト。この一枚を生み出した親子の、ひと夏のストーリーが、多くの人々の心を打っています。
素朴な印象を受ける、カブトムシのイラスト。この一枚を生み出した親子の、ひと夏のストーリーが、多くの人々の心を打っています。 出典: 遠山貴史さんのツイッター(@TakashiTohyama)

目次

ひと夏をともに過ごしたカブトムシが、寿命を迎えた――。そう報告するツイートが、話題を呼んでいます。亡き「相棒」の姿を、絵に描いて追悼する息子。その思いを受けた、父親の粋な計らいが注目を集めたのです。「どこまでいっても、親の自己満足。それでも、記録に残したい瞬間だった」。印象深いエピソードが生まれた経緯について、投稿した父親に取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)

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人々に尊さ感じさせた投稿

今月13日、こんな文章がツイッター上に登場しました。

息子が初めてお世話したカブトムシが寿命を全うして死んでしまいました。

息子は、カブトムシ君を忘れないように、声を上げて泣きながら必死に絵を書きました。それがあまりにも素敵だったので、息子に頼んで作品にしました。

こんな絵かけないなぁ。

添付された画像に写っているのは、真っ白な正方形のパネル。シンプルな線で構成された、素朴な絵柄のカブトムシが2匹。中央で並んでいます。そして、その下に、”One Summer Life(一夏の思い出)”という一文が配されているのです。

「つらいけれど貴重な体験だと思った」「世界でたった一つの作品だ」「尊くて素敵」。コメント欄には、投稿内容に寄り添うような、優しい感想が数多く連なりました。

「相棒」の死期を息子に伝える

21日時点で13万5千超の「いいね」もついている、今回のツイート。背景には、どのような物語があったのでしょうか。現役看護師で、デザイナー活動にも取り組む、遠山貴史さん(@TakashiTohyama・37)に話を聞きました。

遠山さんが自宅にカブトムシを迎えたのは、今年7月のことです。「たくさん飼っていて部屋がいっぱいになった。良かったらもらって」。知人から言われ、オスを2匹譲り受けました。特に興味を示したのが、小学1年の長男(6)です。

毎朝起きがけに、飼育かごのマットを湿らすため、霧吹きで水をかけたり、餌のゼリーをあげたり。元気に過ごしているか、弟と一緒に、虫かごの中をのぞきに行くこともありました。遠山さんが当時を振り返ります。

「それまでにも、通っていた保育園近くの森から、カブトムシが飛んでくるのを見たことはあったようです。生き物も好きな方だと思います。ただ、まだ小さいので、本人が関心を持てる作業だけ任せました。おがくず交換や、虫かごの掃除などは、僕の役割です」

9月に入ると、異変が起きます。二匹のうち、一方の動きが鈍くなり、餌も十分に食べなくなったのです。「そろそろ寿命かな」。死期を悟った遠山さんは、7日の夜、夕飯を済ませた息子に語りかけました。

「カブトムシ君、もう元気がないから、多分死んじゃうと思う。彼は本当なら、自然の中で過ごせた方が良かったかもしれない。でも縁あって、うちに来てくれた。今までいっぱい遊んでくれたよね。だから、『ありがとう』って言おう」

遠山さん親子は、この夏、二匹のカブトムシを育てた(画像はイメージ)
遠山さん親子は、この夏、二匹のカブトムシを育てた(画像はイメージ) 出典: Getty Images

「思い出を全部残したい」

リビングに置いた虫かごの中を、確認する親子。そこには、既に息絶え、仰向けのまま動かないカブトムシの姿がありました。

「長男は最初、ひょうひょうとしているように見えました。でも妻が『会えなくなっちゃったね。ありがとうって言おうね』と伝えると、部屋の外に走っていった。ほどなく戻ってきたと思ったら、クッションの下に隠れ、涙を流していました」

彼なりに感情を整理しているのだろう――。そう考えた遠山さんは、話しかけず、傍らで過ごすことにしました。30分ほど経った頃、長男が筆記用具を求めるしぐさをみせます。手近にあったスケッチブックを渡すと、鉛筆を走らせました。

「これまでにも感情が高まると、チラシや折り紙の裏に文章をしたためることがあったんです。『カブトムシ君、ありがとう』などとつづるのかな、と思ったら、絵を描いていた。時々、虫かごの方まで行き、実物の形を確かめていたようです」

遠山さんが絵を見て驚いたのは、二匹が並んでいた点でした。どちらかだけではなく、一緒がいい。そんな願いを感じ取った瞬間、「この思い出を全部残してあげたい」と考えたそうです。

すぐにスキャンし、自分のパソコン上でデータ化。デザイナーとして付き合いがある印刷業者に、その日のうちにパネル化を依頼しました。そして3日後、キャンバス生地で作られた、20センチ四方の完成品が届くと、玄関の壁に貼り付けたのです。

長男が手掛けたカブトムシイラストの「原画」。スケッチブックに、鉛筆で描かれている。
長男が手掛けたカブトムシイラストの「原画」。スケッチブックに、鉛筆で描かれている。 出典: 遠山貴史さん提供

親子に共通する喪失体験

カブトムシの死を、感情をあらわにして嘆き悲しんだ息子。その反応を見て、遠山さんは「意外だったが、初めて死の意味を理解したのだろうと思う」と述懐します。

「可愛がってはいましたが、その度合いが甚だしかったわけではありません。むしろ餌を食べたり、目の前で元気に動いたりしている生き物が死ぬことに衝撃を受けたのでは。言葉にできない複雑な感情がわいたからこそ、絵に描いたのでしょう」

こうした反応は、夫妻の教育に由来するかもしれません。使い古したおもちゃを捨てるとき「今までありがとう」と声をかけさせる。形ある物は必ず壊れると包み隠さず伝える。医療従事者として、命と向き合ってきた経験も織り込まれています。

それだけに、長男が死別について知ったことを、肯定的に受け止めているとも語ります。

「実は僕自身、小学校高学年の頃、生き物にまつわる忘れがたい体験をしました。公園で傷ついた子猫を見つけ、自宅に持ち帰ったんです。母親から戻すよう言われ、元いた場所に返した時、従来抱いたことのないような悲しみを感じました」

「当時のことは、今も胸に残っています。息子も今回、喪失・別れのつらさを実感したはずです。今後、何らかの形で死に触れたとき、きっとその感覚を思い出すでしょう。僕たち夫婦が考えたことを共有できる点でも、ホッとしています」

自宅の玄関先に飾られた、カブトムシイラストのパネル。上に載せる形で、造花が手向けられている。
自宅の玄関先に飾られた、カブトムシイラストのパネル。上に載せる形で、造花が手向けられている。 出典:遠山貴史さんのツイッター(@TakashiTohyama)

一緒に年を取ってくれる利点

パネルを見た長男は、うれしいような、恥ずかしいような表情を見せたそう。一方、そのデザインには、批判も寄せられました。

”One Summer Life”という、父親が自作した一文を添えることで、作品が子供のものではなくなったのではないか、との指摘です。この意見について、遠山さんは次のように語ります。

「パネル化したことを含めて、ご指摘の通りだと思います。ただ単に、僕がすごく素敵だと思った瞬間を形に残したかった。本質は親の自己満足であり、利己的な行為なんです」

「長男は今回の出来事を、いずれ忘れてしまうでしょう。しかし絵が手元にあれば、それがきっかけで思い出せる。一緒に年を取ってくれるという利点もあります。処分するかどうかと合わせ、どう扱うかは、将来の彼に委ねたいです」

長男は後日、庭に生えている猫じゃらしをつみ、パネルの上に飾りました。今は、3年前の母の日、長男が保育園で作った、赤いカーネーションの造花が置かれています。

その見栄えの良さと、長男の心意気に「デザイナーとして、正直嫉妬した」と苦笑する遠山さん。最後に、こう話しました。

「自分と共に、時間を過ごしてくれる物がある。今回の一件を通じて、そのことの価値に気付けました。画像を見た皆さんが、感想を述べてくださったお陰です。思い出を形に残す経験を、他の方々にもして頂けたなら、うれしく思います」

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