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イオンモール全店踏破のイオンマニア ジャスコの名残に感じるロマン
「つくづく自分は、イオニストではないと実感する」
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「つくづく自分は、イオニストではないと実感する」
全国を回ってイオンモール全店踏破を成し遂げた、筋金入りのイオンマニアがいる。名古屋市在住の「イオえもん」さん。イオンの何が彼を駆り立てるのか? 理由を聞くと、イオンモールが万人に愛される要因、そして全ての小売業に通じる課題が見えてきた。(北林慎也)
イオえもんさんは、医療機関に勤める29歳の男性。
9月2日、Twitterでこんな報告をした。
Twitterのプロフィールを見ると、ただならぬイオン愛が伝わってくる。
何がイオえもんさんを突き動かすのか? DMでコンタクトを取り、メールと電話で聞いた。
「イオン巡り自体は2008年の夏ごろから始めました。
最初は全国のイオンを全て巡ってやる! みたいな感情ではなく、行ったことがないイオンに行ってみよう、という程度でしたが」
昨年4月から、Twitterで探訪記を開始。撮りためた写真や資料を自分ひとりで楽しむのは「もったいない」と思ったからだ。
店舗巡りの報告や、イオングループの事業展開についての考察をこまめに投稿している。
これまでに訪れた店舗数を聞いてみた。
「恥ずかしい話ですが、まだ(イオングループ全体で)350店ほどしか巡れていません。
どうしても、閉店や新規オープンなど、自分が気になる店舗を優先して巡っているので、こうなってしまいました」
昨年ぐらいから全国のイオンモールで、フロアガイド冊子の削減・廃止の動きが加速する。
そこで、限られた数のフロアガイドを確保するため、イオンモールを重点的に回り始めた。その結果、足掛け10年で営業中の全店踏破に至った。
Twitterではイオえもんさん以外にも、スーパーや百貨店、家電量販店などの商業施設巡りを趣味として、訪問先を報告しているアカウントがいくつもある。
思い入れのある店舗は人それぞれ。探求分野はニッチに分岐するが、お互いにリスペクトをもってフォローし合ったりRTしたりしている。
イオえもんさん自身の関心はもっぱら、企業グループとしてのイオンにある。
三重県四日市市で創業した岡田屋以来の複雑過ぎる合従連衡の歴史が、この国内小売り最大手グループの特徴だ。
「イオンを知るには、傘下のダイエーや旧マイカルの歴史の勉強も欠かせません」
そのため、これらの店舗を専門とするウォッチャーとの交流は重要だ。
イオえもんさんとイオンとの出会いは、旧ジャスコだった。
「小さい頃、毎週日曜日は、家族で近所のジャスコに行くことが生活に組み込まれていました。
そこでは、祖父母とゲームセンターで遊び、食玩は300円分まで買ってもらえるなど、とにかく楽しかった思い出があります」
そんな近所のジャスコの他にも、世の中にはたくさんのイオンがあることに、やがて気づく。
「どこのイオンが、名古屋で一番大きいかな?」
高1の冬に友達と交わした他愛ない会話がきっかけで、店舗間の差異やイオンの成り立ち自体へと興味関心が向かった。
「愛知県はイオンモールの数が最も多く、イオン発祥の地である四日市に近いことから、古いイオンから最新のイオンまで触れることができ、よりイオンを知る環境が整っていたと感じます。
もしかしたら、今も味の食べ比べと同じ感覚で、イオン巡りをしているのかもしれないですね」
イオえもんさんはTwitterで、こうつぶやいている。
「つくづく自分は、イオンマニアではあるがイオニストではないと実感する」
時間と商品の消費行動として近くのイオンモールに通う「イオニスト」とは違う。
自身にとってイオンはあくまで、探求の対象だという。
「そもそも私の趣味は“イオン”であって、イオン巡りはイオンを知る手段の一つに過ぎません。
全国イオン制覇を達成したいがあまり、一つひとつの店舗を見るのが疎かになったら本末転倒だと思っています」
遠征先でのお目当てスポットも多岐にわたる。
自転車専門店などグループ傘下のあらゆる業種の店舗の他、全国に点在する物流センターや事業会社の事務所までも訪ね、写真に収める。
新しくオープンした店舗だけでなく、店じまいの報を聞きつけた店舗にも駆け付ける。
古い店舗では、旧ジャスコやサティといった、リニューアル前のロゴが片隅に残っていることもある。
特に、従業員が利用するバックヤード付近で、店舗名の変遷をしのばせる往時の備品を見つけやすいという。
そんな昔のブランドの残り香を味わうのが、旧ジャスコ以来の店舗の歴史やロマンを感じるイオン巡りの妙味でもある。
ライフワークのイオン巡りは、コロナ禍でペースダウンを余儀なくされた。
その分、図書館でイオングループの歴史を調べるのに時間を割けたのは、皮肉な幸いだった。
「創業者の岡田卓也名誉会長が『タヌキやキツネの出る場所に出店せよ』と言ったように、都市部に店舗が多いダイエーとは対照的に、ジャスコは郊外に多く出店してきた経緯があります」
そのうえで、イオえもんさんはイオンの強さをこう分析する。
「無意識のうちに生活にイオンが溶け込んでいることが、多くの人に選ばれる存在になれている理由なのではないかと思っています」
一方、コロナ禍で残念なのは、植樹イベントなど市民参加型の主催事業が減ったことだという。
出店計画などについて役員らに直接聞ける、貴重な機会だからだ。
ひときわ口惜しいのが、株主総会のオンライン化。Twitterに招集通知の写真を添えて、こうつぶやいた。
「自分にとってイオンの株主総会はアイドルのライブやコンサートみたいなものだから、(会場に)行けないのは悲しい」
地方では百貨店の閉店が相次ぐ。
栄枯転変の岐路に立つのは、多店舗展開のイオンも同じだ。
「国内では2000年以降、急速にイオンモールが増えました。
あと10年も経つと、築年数が30年を超える建物が急増し、増築・建て替え・縮小・撤退を迫られます。
その時、新たにどう変わっていくのかが、ショッピングセンターの命運を左右しそうです」
これから必要なのは、店舗間の差別化だとイオえもんさんは指摘する。
「超高齢社会と人口減少によって、従来のような、判で押したようなショッピングをするだけの施設では、もうダメな時代が来ると思います。
特にイオンマニアでもない知人が、沖縄旅行の際に、イオンモール沖縄ライカムに行ったという話を聞き、イオンモール自体がハワイのアラモアナセンターのように、観光スポットになっているのではないか? と思いました。
最近では、イオンモール新利府にできた新感覚のスポーツ施設『VS PARK』のような、わざわざそこを選んで足を運んでもらう工夫が、必要になってくるのではないでしょうか」
そんな差別化戦略が際立つ、イチオシの店舗はどこか? 最後にイオえもんさんに聞いた。
「個人的に最も感動したのは、イオンモール岡山です。
岡山駅直結で、入ってすぐに見えてくるコンサートホールのような吹き抜けには目を奪われるはずです。
従来のイオンモールとは大きく異なり、屋上ガーデン、多目的ホールやTVスタジオなど、次世代の“ネオ・イオンモール”を感じられます。
ぜひ行ってみてください!」
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