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連載

#24 WEB編集者の教科書

SNSに「編集者は無力」Web編集に求められる〝まっすぐ見ない価値〟

しょせん生まれたての世界、定義や文化もまだできていない

誰もが発信者になれる時代に、編集者はどのような役割が求められるのか。Webメディアに長く携わってきた3人の編集者が語り合いました(画像はイメージ)
誰もが発信者になれる時代に、編集者はどのような役割が求められるのか。Webメディアに長く携わってきた3人の編集者が語り合いました(画像はイメージ) 出典: Getty Images

目次

【17日オンライン開催】広告と報道のプロが語り合う Webで価値ある情報を発信する"編集力"のこと

インターネット、SNSの広がりにより、個人や組織の発信手段は多様化しました。誰もが発信者になれる時代に、編集者はどのような役割が求められるのか。Webメディアに長く携わってきた3人の編集者が語り合いました。

広がる編集の概念

鼎談したのは、Yahoo!ニュースの前田明彦さん、編集プロダクション・ノオト代表の宮脇淳さんとwithnewsの奥山晶二郎編集長です。withnewsの連載を書籍化した『現場で使える Web編集の教科書』の刊行記念イベントとして、Twitter Spacesで行われました。
奥山:この本は、プラットフォーム、編集プロダクション、メディアという、Web編集でのプレイヤーが一緒になって作りました。これは、すごく大事なことだと思っていて。誰でも発信できる時代だからこそ、それぞれの役割を再確認することができたと思うんです。

宮脇さんは編集プロダクションの立場から、改めてプラットフォーム、メディアを見て気づいたことは、ありますか?

宮脇:私の会社はいわゆる編プロ、コンテンツメーカーと呼んでいます。自社でメディアも持っていますが、基本はコンテンツ単位で仕事をしています。

その際、どこかのメディアのコンテンツをつくることが多いですが、今回取材させていただいたのも、メディアという「家」を持っている方たち。編プロはよそもの、プロ野球でいう助っ人のようなもので、そういった立ち位置の違いは感じています。

奥山:私が新聞社に入った後、Webの部署に移ったときの感覚に似ていますね。紙面であれば社会面・経済面・地域面などと持ち場があるのですが、Webだとそれがバラバラになって紙面という「家」がなくなって放り出されたようになり、「自分の記事で何とかせい」というルールに変わったなと思って。だから余計に編集の役割を意識するようになりました。

前田さんはプラットフォームの立場から、改めて編集プロダクション、メディアを見て気づいたことは、ありますか。

前田:Yahoo!ニュースは1日7千本の記事配信をいただいているのですが、1本1本が積み重なって7千本あるからこそ。多くのユーザーに見に来ていただいて、送客という形でメディアにお戻しする。やっていることは泥臭く、メディアからの1本1本がないと、何も生み出せないというのは、常に感じていることですね。

奥山:プラットフォームというのが、Webならではのプレイヤーですよね。

前田:そうですね。本を通して思ったのが、メディアはどのように発信していくかという意思が明確だということ。

プラットフォームは、ユーザーが記事を見に来る土台です。そこでの編集者の役割は「その日載せるニュースは何?」ということになる。「この課題を伝えないといけない」と挙げたものに、しっかりと関わることができる余地は、メディアの方があると思います。

宮脇:面白いなと思ったのは、Yahoo!ニュースさんは新しいWeb編集の仕事を作っているんです。色々な記事をトピックスにピックアップ、14.5文字のタイトルをつけて再編集をすると、見るユーザーの数が爆発的に変わります。プラットフォームとして成立しているけど、明らかにメディアの「顔」もある。

これもWeb編集だと思うんですね。従来の編集からすると、違うと言う人もいますが、私は新しい編集だと思います。それがプラットフォームから生まれているのは、改めて勉強になりました。

そもそも、この企画のきっかけの一つに「Web編集者のキャリアパスを考えよう」ということがありました。いま、転職などで人材の行き来があるじゃないですか。Webメディアの編集をやっていたり、出版社で編集者だったりした人が、事業会社に転職して広報やマーケティングの仕事をやっているケースもあると思います。

そうしたときに、編集のスキルが生かされている。この本をつくるにあたって、色んな媒体や編集者を取材して、メディアの境界線が溶けてきたなというのを感じました。

奥山:新しい編集の概念、編集の定義が割と広がっているぞというのは、本作りを通じて再確認したところですね。

求められる「企画」と「整理」

奥山:ネットの良さは、誰でも情報発信ができることです。まさに、いまイベントをしているTwitterを使えば、全世界に発信できてしまいます。

さて、宮脇さん。このように発信手段が多様化した時、編集者はどんな役割が求められるのでしょうか? これまでの経験や本を作るなかで気づいたことがあれば教えてください。

宮脇:ネットで情報発信をする際はもう、編集者はいらないという考え方はあると思います。個人の場合は特に。芸能人の場合は編集者が横についているかもしれませんが、大抵は個人が一人でやっていますよね。

一方、紙での発信、例えば本では編集、校閲・校正、営業が関わって一冊ができる。同じ編集でも、違う分野です。

編集者の役割について、よく聞かれるのですが、私が業界に入って一番最初に言われたのは「編集とは、企画を出すこと。企画を出せないやつは編集者じゃない」。Webにしても紙にしても、これは大事だと思っていて、周りにもいまだに伝えています。

個人で発信をしている人は、編集者的な役割もしていると思うんですね。企画をして、文字や写真をつけて投稿している。ただ、その練度は、色々な編集を経験をしているかなどで変わってきます。個人で完結していても、編集の力はそれなりに必要だと思います。

奥山:個人で完結する人もいるなか、編集者しかできないことは何でしょうか?

宮脇:編集の業界にいると、物の見方がゆがむじゃないですか。真っすぐには見なくなることによって、面白い視点からの企画が生まれる。

それがネットやSNSによって、一般の人たちもそういう訓練をしているような気がします。自分にしかできないことは何か。編集者も進化していかなきゃいけない。

そこをどういう風にしていけばいいのか。連載で取材したメディアの人たちは、それぞれのやり方で形にしているけど、正解はないですよね。

奥山:前田さんはプラットフォームという立場で、様々な媒体から記事の提供を受けていると思います。一方で、UGC(User Generated Content:一般ユーザーによって作り出されるコンテンツ)のようにユーザーが直接発信する場所も抱えています。編集を経た情報の役割と、ダイレクトに発信される情報の役割。それぞれ、どのように考えていますか?

前田:インターネットが登場する前は、情報を欲しい人に新聞やテレビが大きな役割を果たしていました。いまは、情報が飽和したなかで、UGCなどが「欲しい情報はここにありますよ」とアナウンスする機能を果たしています。例えば、コメントがまとまってありますよと印象づけて、そこを目的にして訪れてもらい、本体の記事を見てもらう。

可処分時間の奪い合いのなかで、Yahoo!のニュース編集の腕の見せどころとなるのは、「今日見ておくべきニュース」を置いておくこと。UGC目的でも、情報もちゃんとあるんだと思ってもらって、また来てもらうサイクルがあると思います。

奥山:一義的には、ニュースが起点になるということですか?

前田:ニュースもですが、検索もそうですし、情報がちゃんとありますよというのを知ってもらう。UGCはそういったところで機能していますが、いまは個人の発信が加速する時代。UGCよりは直接発信をどうまとめるかも問われてきています。コロナの影響を受けて、専門性や信頼性が高く求められるようになったので。

宮脇:個人の発信で言うと、いまはスマホがあるので、事件や事故などの写真は一般の方がSNSにアップするようになりました。誰でも撮れる時代だからこそ、どううまく活用するか、どういうコンテンツをつくるのかが、編集者の腕の見せどころになるんだと思っています。

奥山:withnewsの特集に、駅の空間に座り込めないような突起があったり、街中のベンチに仕切りがあったりという「排除アート」に関するものがあるのですが、Twitterがきっかけでした。

特集では、ホームレスを支援する人や、ベンチを制作した当事者、公園側の事情などを記事にまとめています。発信されたツイートを深掘りして、情報をどう整理するかといった役割もメディアには求められている気はしますね。

とは言っても、マスメディアにとってスクープも醍醐味で、文春さんはすごいなとも思っています。

宮脇:「PVとスクープは似ている」と話してくれたのが、文春オンラインの編集長ですよね。

奥山:文春オンラインでは、数字に向き合う時間を必ず作っているんですよね。編集長が言っていたのは「PVだけでは記事の価値は計れないということは分かっている。でも、競い合いがないとイノベーションは生まれない」。説得力ある言葉だと思いました。
『現場で使える Web編集の教科書』(朝日新聞出版)

SNS時代のメディアの意義

話題は、Web編集の役割から、SNSの向き合い方に移ります。きっかけは、宮脇さんが最近、「発信を控えている」という近況からでした。
奥山:イベントの前に打ち合わせをしたんですが、そこで宮脇さんが言っていた「最近、SNSで発信していないんですよ」という言葉が気になりました。私も、SNSでの発信に積極的かと言われたら実はそうでもなく、今のSNSやネットの雰囲気に少しギスギスしたものを感じているのも事実です。

悩んじゃうと、SNSをしない方が良いとなってしまいますが、それももったいないことだなと。宮脇さんはなんで、発信を控えるようになったんでしょうか?

宮脇:私は編集者なので、アカウントのツイート数はもともと多いほうではありません。同業者に向けて、役に立つことをツイートするようにしていました。

だけど、もうすぐオリンピックが開幕するけど(鼎談は7月20日)、ネガティブなニュースや投稿だらけ。1年延長したことに加えて、負の部分ばかりが出ています。

そうしたニュースに親しい人まで乗っかっていることがあって。持論を言うのは自由ですが、それが先鋭的、攻撃的になると、その空間に入っていきづらい。自分が好きなインターネットじゃないな、と距離を取るようになってしまいました。

だから最近、「日本地図をなぞって楽しむ 地図なぞり」(ダイヤモンド社)を上梓したデイリーポータルZの林(雄司)さんがひたすら地図をなぞっているツイートを見ると、すごくほっとします(笑)。

かといって、自分が何ができるかというと、SNSは編集の力が通用しないのではと思ってしまう。Web編集者としては無力さを感じています。

奥山:前田さん、この状況にはどう向き合っていったらいいのでしょうか?

前田:プラットフォームにいる編集者としては、SNSの自由な発信のカウンターパートがニュースサイト・メディアにあると思っています。SNSで広がった社会課題に対し、メディアが理解や共感を大事にしたコンテンツを届けなければいけない。SNSのような短い文章で理解、共感を生むのは相当難しいと思うんですよね。

ALSの患者さんが、偽医師に自殺を依頼したとされる事件で、本人の「死にたい」という言葉に対してSNSでは「生きるべきか死ぬべきか」という論争が起きました。そこに京都新聞は、本人が死にたいと言うのは、コミュニケーションのなかで漏らす弱音で、「生きたいの裏返しなんだ」という記事を書いた。SNSでの論争とは、別の次元の話として丁寧に伝えていたんです。

SNSでわきあがる論争のカウンターとして、長文でなければ伝わらない、それをどう届けるかということが、いま編集がやるべき仕事なのかなと思っています。

宮脇:本当にそうですよね。メディアをやっていると、そういう仕事は大事なので、意識を持っていなきゃいけない。

だけど、SNSに引っ張られちゃう。それは、編集者としては良くないなと話を聞いていて思いました。

奥山:個人の思いがSNSではダイレクトに出てくる。ある意味いいところでもあります。

それが極端に振れたときは、論争のようになることもあるので、それをどう解釈、橋渡しするような形にできるのか。私自身もよく考えますね。

宮脇:あとはコロナ禍なので、編集者同士、ライターとの直接的なコミュニケーションが、以前と比べて格段に減っています。

オンラインでの情報収集とやり取り、良いところもたくさんあるけど、共有しきれなかったり、意見交換が足りなかったりしています。

先ほどの社会的な話もそうですし、Web編集の企画の立て方にも影響が出てきている気がします。どう乗り越えていくかは、これから課題になるかなと思っています。

奥山:リモートがデフォルトになったことで、withnewsは子育てメンバーもいるので働きやすくなった面はあります。ただ、新しく入ったメンバーと同じような関係値をリモートでつくれるのか。自信は正直ないですね。

編集者とライターの関係性は

奥山:宮脇さんが触れていましたけど、編集者とライターのコミュニケーションについて。紙からネットへの変化やコロナもあるなかで、どうコミュニケーションをとろうとしていますか?

宮脇:私がというより、社員が全員編集者なのでライターとやりとりしていますが、直接のやりとりは減っちゃいましたね。

でも、オンラインになったことで、インタビューをする際に距離を気にする必要はなくなりました。福岡のライターが北海道に住んでいる有識者にインタビューができる。そういうやり方は普及しました。

なので、東京以外に住んでいるライターにも仕事が依頼できるようになっています。ここはコロナが落ち着いても、戻る必要はなくて、良い形で今後も継続させていきたいと思います。

関係性の作り方という意味では、編集者がライターを下請け的に捉えるのはダメだと、社内で伝えています。ネットはフラットですから、対等な視点でコンテンツを作っていくのが重要です。

奥山:新しい出会いや仕事のきっかけについてはいかがですか? 編集プロダクションの立場から、勉強会も積極的にされていたと思います。今はどんな感じですか?

宮脇:コロナ後は、ライター交流会もWeb上でやりましたが、イベントが全部Web化しましたよね。

数が増え過ぎちゃって、みんな飽きちゃったというか。なかなか人が集まらない事態も発生しました。そこは課題ですね。

何というか、新たな出会いをこちらから作るのは難しいかもしれないですね。売り込んでもらった方がありがたい。そうしたアプローチに対応しようとは思っています。

奥山:地域の縛りがなくなっている中で、提案があると、せっかくだからやってみようか、となりやすいかもしれませんね。

宮脇:その際には、自分ならではの「プラスアルファ」があると、仕事につながりやすいかもしれません。

奥山:Yahoo!ニュースは1日7千本の記事が届いていて、その中で前田さんの記憶に残ったり、ライターらしい仕事をしているなと思ったりする記事の特徴や共通点はありますか。

前田:プラットフォームという部分だと、記者やライターと仕事する機会が少ないので、Yahoo!ニュース 個人を例に出したいと思います。

Yahoo!ニュース 個人で発信する人のなかに、水難学会の会長がいるのですが、ため池での事故が起きたときに、なぜ、ため池に落ちると命を落とす危険があるのかを動画とともに書いた記事がとても読まれました。

私も新聞社にいたので分かるんですけど、メディアだと「去年もあったと思うけど、今年も報じるんだっけ?」となってしまう部分も出てきます。一方、専門家は「大事だから絶対伝えたい」という思いで、同じような内容でも繰り返し注意喚起をします。

宮脇:お伺いしたいんですけれども、ため池の記事はなぜ読まれたのか。編集者がいたんですか?

前田:ため池の記事は水難学会が公開している映像のインパクトがきっかけとなり、Twitterなどで拡散。その後Yahoo!ニューストピックスにもこの記事が掲載され、さらに多くの方に広がっていきました。その後、この記事と続報記事をYahoo!ニュースのトピックスで掲出したことから多くの方に広がっていきました。

Yahoo!ニュース 個人では書き手に対し、季節性のある話題(注意喚起など)やネット上などで話題になっているものについて専門的切り口からの解説を依頼しています。

マスメディアの視点からすると、自分が知っていて毎年繰り返されることでもあると、価値判断が落ちることもあるのですが、専門家が危ないと伝えてもらうことによって、まだ知らない人たちへの反響があり、ニュースバリューが高いと再認識しました。目から鱗の現象でしたね。

奥山:新聞は事件がありましたと伝えて、「読んだ人が後はくみ取ってね」となるんですよね。

前田:今回のように、専門性を持って発信するユーザーに出会える場所というのは、さらに加速すると思います。

宮脇:本来は編集者が探してきて、書いてもらう。そこを一足飛びに出てきているのは、衝撃ですね。Web編集ではこういう人を増やす流れというのは、記事を見ていると思います。

一方、一次情報を専門家が発信するとき、うまく伝わらなかったり、余計なことまで書いて炎上したりすることもありうると思います。

企画を攻めの編集としたときに、守りの編集もWebで大事だと思っていて。ノオトはめちゃめちゃ守りが堅いんですよ。そういう技術もWeb編集者には必要です。

キャリアパスはこれから

奥山:様々なWeb編集者を連載では紹介しましたが、印象に残った部分はありますか?

宮脇:ノオトが担当した記事で、ウェブライダー代表の松尾茂起さんへのインタビューがあります。会社としては割と近い、編プロ的な組織ですが、SEOに精通しているイメージが強いのでやっていることは全然違うと思っていたんです。

それが、話を聞かせていただいて、「検索者の悩みを解決する」という言葉に、ゴールは一緒なんだなと思いました。こういう意識を持った作り手が増えると、コンテンツは良くなるし、希望が持てます。

奥山:前田さんが印象に残った部分はありますか?

前田:宮脇さんが書いたあとがきですね。Web編集という領域ができたのはこの20年ぐらいとしていて、Yahoo!ニュースも始まって25年。しょせん20年、25年の世界なんですよね。定義や文化もまだできていないというのは、改めて感じました。

キャリアパスがこれからつくられ、文化ができては新陳代謝していく。それらを見据えたうえで、2021年のWeb編集のいまを知っておくのは役に立つかなと思います。
【17日オンライン開催】広告と報道のプロが語り合う Webで価値ある情報を発信する"編集力"のこと
 

【9月17日19時からオンラインイベント】連載「WEB編集者の教科書」が『現場で使える Web編集の教科書』というタイトルで書籍になりました。刊行を記念して、トークイベントを開催します。

ゲストは、著書『広告がなくなる日』で広告業界に一石を投じているのが牧野圭太さんです。牧野さんは、クレヨンしんちゃんが「かあちゃんの夏休みはいつなんだろう」とつぶやくたった1枚のポスターで話題を作り、ライバルのマクドナルドへメッセージを送るバーガーキングの広告でも注目されました。

膨大な広告費をかけることだけが広告ではないと訴える牧野さん。ジェンダーや環境など社会的メッセージが広告でも評価される時代に、Webメディアにとっても、その姿勢は無視できません。

そんな牧野さんと、『Web編集の教科書』の編集に携わった奥山晶二郎withnews編集長が、広告と報道、それぞれの立場から、これからの時代に必要な編集力について語り合います。

ライター、編集力、宣伝、広報、個人で発信する人まで、Webの発信に関わる人に必見のトークです。【イベント申し込みはこちら】
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