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「新学期はきっかけにすぎない」子どものSOS 大人ができる手助けは?

不登校10万人予備軍33万人以上「まず認めて」

子どもたちからのSOSに気づいて、サポートするにはどうすれば? 子どもの教育環境改善に取り組む武田信子さんは「新学期はきっかけ、子どもは年中悩んでいる」と話します ※写真はイメージです=Getty Images
子どもたちからのSOSに気づいて、サポートするにはどうすれば? 子どもの教育環境改善に取り組む武田信子さんは「新学期はきっかけ、子どもは年中悩んでいる」と話します ※写真はイメージです=Getty Images

目次

夏休みも終わり、新学期を迎える時期は、子どもの自殺者数が多くなります。孤立しがちな当事者の子どもたちからのSOSに気づいて、サポートするにはどうすればいいのでしょうか? 臨床心理学や教師教育学を専門として、長年、子どもの教育環境改善に取り組む臨床心理士であり、一般社団法人ジェイス代表理事を務める武田信子さんに、時事YouTuberのたかまつななが話を聞きました。※笑下村塾オンラインサロン「大人の社会見学」オンラインイベントとして、8月24日にYouTubeたかまつななチャンネルにて生配信したものをもとに記事にしています。

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武田信子(たけだ・のぶこ)
一般社団法人ジェイス代表理事。臨床心理士。元武蔵大学人文学部教授。臨床心理学や教師教育学を専門とし、長年、子どもの養育環境の改善に取り組む。著書に「やりすぎ教育:商品化する子どもたち」(ポプラ社)ほか。
 

追い詰められる日本の子どもたち

日本の子どもは身体的健康が世界1位である一方、精神的幸福度は38か国中37位でワースト2位(※1)、先進7か国における15~34歳の自殺死亡率はトップだ(※2)。厚労省の調査によると、少子化が進んでいるにもかかわらず昨年の自殺者数は過去最多の499人に(※3)。子どもにとってますます生きづらい社会になっていることが数字でも示されている。

※1 ユニセフ報告書「レポートカード16」
※2 厚生労働省「自殺対策白書」(2019年版)
※3 厚生労働省「自殺の統計:地域における自殺の基礎資料」(暫定値)

武田さんは、「この時期になると自殺が話題に上るが、自殺を考える子どもは年中悩んでいる。新学期はきっかけに過ぎない」と話す。

休み明けに自殺が増えるのは、「学校に行かなければならないが、行きたくない」からだ。行かなければと思うけれど、学校に行くと「自分が無価値な人間に思える」「孤立を感じる」「理不尽でも先生の言うことを聞かなければならない」など苦しくて仕方ない。

学校は義務ではないのに、逃げてもいいのに、「逃げられない場所」と思い込まされている。一方で、学校外の居場所は少ない。最近は、小学生以下の子どもも「危険だから」と道路などで遊ぶことがなくなり、公園に行ってもお年寄りや幼い子に気を遣わなければならず、ボール遊びもままならない。

学校にも家にも居辛い中高生は、かつてはコンビニの前でたむろしたり、親が不在の家で過ごしたりしていたけれど、現代はそういったこともできなくなり、行ける場所がどんどん減っている。

さらに、コロナ禍の今は、学校が拠り所だった子どもの居場所もなくなってきており、多くの子どもたちが追い詰められているのだ。

子どもの教育環境改善に取り組む臨床心理士であり、一般社団法人ジェイス代表理事を務める武田信子さん
子どもの教育環境改善に取り組む臨床心理士であり、一般社団法人ジェイス代表理事を務める武田信子さん

「学校に行きたくない」というのは子どものSOS

では自殺を思いとどまらせるために、周囲の大人にできることは何なのか。武田さんは「子どもより先に、大人に知っていてほしいことがある」という。

「学校に行くことは義務ではなく“権利”。不登校が10万人、予備軍が30数万人いる日本で、『学校に行きたくない』と子どもが思うのは、おかしなことではない」

この事実を大人が理解することで、初めて子どもにも伝えられることがあるという。

「『学校に行きたくない』という子どもにどう対応すればよいか」という保護者の質問に武田さんは「まずは子どもが『行きたくない』と感じたことを認める。自分を信頼して話してくれたことに感謝する。そうして初めて子どもは、受け止めてくれたことに対して『自分が思ったことを言っても大丈夫なのだ』と安心できる。子どもが大人に本音を打ち明けることは簡単ではない。大人はその事実を尊重してほしい」とアドバイスする。それでも行かせたい、という大人には、「行きたい場所だったら行きたいというのに、どうして行きたくないのかと疑問に思い、我慢できないほどの何かが起きていると考えてほしい」「学校に行かなくてもしっかり社会人になって、むしろ活躍している人も少なくないこと、無理して学校に行って精神的に病んでしまう人も少なくないことを知ってほしい」と言う。

フリースクールなどに通わせることは、子どもの将来や、金銭的負担などからちゅうちょしてしまう保護者も少なくない。しかし、子どもにとって学校が「行きたくない場所」であり、行かせることで自殺したい気持ちを増幅させては意味がない。

「それまで我慢した結果として『行きたくない』とつぶやくのが子ども。親に『そんなことを言わずに行きなさい』と返されて、『それでも行きたくない』と本音で言い返せる子どもは多くはない。やはり学校が子どもに合わないのであれば、別の場所を探した方が良い」(武田さん)

一方ではこんな質問も。「不登校になった娘に対して優しく対応していたのに、万引きや飲酒・喫煙など行動がエスカレート。裏切られたと怒りを感じ、手を出してしまった」という保護者には、「バックグラウンドが分からないと何とも言えないが」と前置きした上でこう続けた。

「『私は親や学校の望むいい子を演じていただけ。期待に沿わない子どもでも愛してくれるのか。本当の自分に気づいて助けてほしい』という問いかけの可能性もある。子どもが何を訴えたいのか考え、わからなければ第3者のプロを頼ったりすることも1つ。まずは「親に何か伝えようとしている」子どもの声をよく聴いて」

探せば居場所はある

今は、学校でなくとも居場所はほかにもたくさんある。

インターネットなどで「フリースペース、居住地域名」で探すことができる他、居場所を紹介する「学校ムリでもここあるよ」というウェブサイト、18歳までが相談できる電話「チャイルドライン」(無料)、また女子中高生は「一般社団法人colabo(コラボ)」もおすすめだという。

友人などから「自殺したい」と言われた時には、どうすればいいのか。

打ち明ける側の本音は「自殺したいくらい辛い気持ちを理解して共感してほしい」というのがほとんどだという。そこで「死ぬのは良くない」と諭したり説教したりすることは、「辛い気持ちを抑えろ」と言うようなもので逆効果になりかねない。

武田さんは「『生きていてほしい』『自殺したいほど辛い思いをしているあなたのことが大事で心配だ』という気持ちを伝えてほしい」と強調する。

「とにかく傾聴して相手のことを受け入れること。そういう存在がいることが、当人にとっての救いになる」

日本の社会構造に疑問

目の前の子どもにできることする、という短期的な視点とは別に、大人には現代の社会構造について考える長期的視点も必要だ。

悩んでいる子どもをとりまく社会は、家や学校だけではない。身近な親、友達、先生などが理解してくれなくても、ご近所さんや地域の人など、意外と身近に助けてくれる人はいるものだ。しかし、人間関係が希薄になった今は、「親も学校も嫌なら、うちに来いよ」など、気軽に声を掛けてくれる人がいなくなってしまった。

また、日本では「お金がなければ生きていけない。そのためには学歴がなければいけない」といった価値観が根強い。実は、隣の韓国における子どもの自殺率も日本並みに高い。共通しているのは、教育の競争が激しいこと。目の前の子どもを死なせないためのキャンペーンは大事だが、同時に、その後ろにいる予備軍を救うために、長期的にこのような社会の構造を変えていく必要がある。

武田さんは「ユースワーク」「コミュニティワーク」が1つの活動分野・学問分野として日本に定着することが望ましいと考える。

「自分で自分の問題に立ち向かうことができなくなっている若者には、まず安全な場所を作ることが必要だ。『生きているだけでOK』と感じられる場所でこそ初めて、人は動けるようになる。ユースワークは若者を対象とするが、さらにより範囲を広げた『地域と生きる』ためのコミュニティワークもこれからますます必要になるだろう」

そもそも大人たちが希望を持って生きていなければ、子どもたちを励ますことはできない。日本の大人たちはウェルビーイング(心身共に健康な状態)だろうか。

海外では、他者との比較による成績評価をしない国もある。また、武田さんの子どもが通っていたカナダの学校では、「家族旅行のためなら何週間休んでもいい」という雰囲気があったという。

さらにデンマークでは、スポーツ専門の大学に、スポーツの“できない”さまざまな年齢の人たちが通うこともあるそうだ。「今の身体を使って、どのように楽しく生きていくことができるか」を学びに来るのだという。

最後に武田さんはこう呼びかけた。

「子どもが自殺したいというとき、先生や親やいじめた生徒など誰か個人の責任にして責めるだけれは片手落ち。エコロジカル(生態学的)システムで考えてほしい。つまり、単純に“愛情不足”“ひどい人間”によって追い詰められたという問題ではなく、その背景の社会の在り方、価値観に大きな課題がある。どうしたらいいかについて、関係者が方向性や方法を知らないことも多い。国内外の正しい知識と情報を身につけてほしい。日本が競争社会になり、死にたくなるほど頑張らなければ生きていけない現状について、このままでいいのか、今一度学んで考えてほしい」

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