8月8日に行われた東京五輪の閉会式で、米選手団メンバーと見られる人たちが葉巻のようなものを吸っている姿が確認され、問題になりました。国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」を掲げているからです。
この問題について、運営側は現在どのような見解で、これまでにどんな対応をしたのでしょうか。東京五輪・パラリンピック組織委員会を取材すると、選手村にある喫煙所の様子など、「たばこのない五輪」の実態が見えてきました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
8月8日、国立競技場で行われた東京五輪の閉会式。各国の選手たちが参加しましたが、そのうち米選手団メンバーと見られる数人が葉巻のようなもの吸い、煙を吐いている姿が報道のカメラに捉えられ、問題になりました。
国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」を掲げており、東京五輪・パラリンピック組織委員会は競技会場の敷地内について加熱式たばこを含めて全面禁煙としていたためです。東京大会は近年の五輪で最も「たばこのない」環境になるはずでした。
事前の方針では「ルール違反者には注意を促す」とされていました。組織委を取材すると「参加者が閉会式で喫煙していたことは承知しています」と回答。ただし、「喫煙者の具体的な名前や立場(選手・コーチなど)は承知していません」ということで、違反者への注意はできていないことがわかりました。
組織委として、禁煙の周知については「入場の直前まで、ルールを遵守するよう声かけをさせていただいていました」、今後の再発防止については「パラリンピックに向けて、より一層禁煙についてのご理解を求めていきたいと考えております」としています。
一方で、組織委は2019年、「競技会場の敷地内について加熱式たばこを含めて全面禁煙」とする方針を発表すると同時に、選手村には「動線から離れた場所に喫煙スペースを用意する」ともしていました。理由としては、当時、滞在が長期間に及ぶことなどが挙げられました。
組織委によれば、選手村には実際に、5カ所の喫煙所があります。選手村は建物内はすべて禁煙。屋外も原則禁煙であるものの、例外として動線から離れた場所に喫煙スペースを設置していました。
「新型コロナウイルス感染症対策として、喫煙スペースでは2m以上の間隔で灰皿を設置し、利用者が十分なディスタンスを確保できる環境を提供」しており、この注意の下、人数や時間の制限はなかったとのことです。
「たばこのない五輪」を掲げつつ、選手村には喫煙所を設置していた。その延長に、“閉会式での喫煙”という問題がありました。
ここで疑問なのは、「たばこのない五輪」でなぜ、選手村は例外として喫煙所が設置されたのか、ということです。組織委にこの点について複数回、説明を求めると、最終的に以下の回答がありました。
《2019年2月、IOCの方針及び禁煙意識の高まりを踏まえ、東京2020大会は、競技会場敷地内を完全禁煙とすることとした。つまり、観客が存在するサイト(競技会場等)においては、完全禁煙とし、観客が不在のサイト(選手村等)においては、原則禁煙としつつも、動線から離れた場所に例外的に喫煙スペースを設置し、当該場所でのみ喫煙可としたもの。》
組織委としては「観客の有無」を重視した、ということになりそうです。
こうして「たばこのない五輪」には含まれなかった選手村。しかし、そんな“ほころび”が、全世界に中継される閉会式での喫煙につながってしまったのではないでしょうか。