連載
#5 #コミュ力社会がしんどい
「挙動不審になってるよ?」漫画家が悩み続ける〝空気読み〟の闘い
「いい感じ」に雑談できない本当の理由
学校や職場、交流会など、軽やかに会話する能力が求められる場面は、少なくありません。周囲の人々が、何について語らっているか。どのタイミングで輪に入るか。振ろうとしている話題は適切か……。漫画家のゆめのさんは、そんな風に〝空気〟を読んで、あれこれ思案してしまうのです。そして時には、何も話せないことも。気楽にやり取りできないのは、どうして? 自分なりにたどり着いた答えについて、描いてもらいました。
ゆめのさんにとって、悩ましい事の一つが、空気の「読み合い」。臨機応変に話そうと頑張るあまり、疲れ果ててしまうのです。過去に参加した、漫画家同士の交流会でも、考えすぎる癖がわざわいしてしまいました。
テーブルを囲む出席者たちを前に、ゆめのさんはひそかに危機感を募らせます。「『いい感じの雑談しなきゃいけない』空気が流れてる!」
こうなると、大変です。何とか乗り切ろうという気持ち以外、何も心に浮かびません。内心焦りつつ、中身のない話を続けます。「……なんか挙動不審になってるよ? 大丈夫」と、他の出席者から心配される始末です。
他人と仲良くなりたいだけなのに、なぜかいたたまれなくなる。ゆめのさんは、そんな経験を重ねてきました。学校でも、アルバイト先でも、既にできあがった人間関係に、自然になじむことができなかったのです。
そして理由を探るうち、「もう同じような状況に陥りたくない」という、自己保身への欲求が根っこにあると思い至ります。その場しのぎの、空疎な会話を繰り返す一方、コミュニケーションを本質的に楽しめていないと気付いたのでした。
他の人なら、この問題についてどう感じるだろう? 疑問に思ったゆめのさんは、知人に尋ねてみることにしました。
一人目は、人当たりが良くて社交的な男性です。うまく切り抜けてきたのかな、と予想していると、意外な答えが返ってきました。
「苦労してますねー。学生時代のバイトでは、空気読めず、同僚同士の会話にほとんど混じれず」
「飲み会ではしゃべりすぎて、先輩に『空気読め』って怒られたり……」
コミュニケーション能力があって、難なく立ち回れているように見えても、実は自分と似た苦労をしている……。ゆめのさんは、新鮮な驚きを覚えます。更に、しっかり者の女性に話を聞くと、厳しい言葉を投げかけられました。
「つらくなることもあるけど、我慢して耐えてる」
「空気読んで人に合わせて行動する、それが世の中のルール。いちいち悩んで苦しんでたら、生きていけないよ」
時に息苦しさを感じても、他人の心情を思いやりながら、誰もが日々生きている。そんな当たり前の事実を、改めて自覚したゆめのさん。アイスをほおばりながら、「できることからがんばろう」と、自分を奮い立たせるのでした。
「私の場合、空気を『読めない』ことより、『読みすぎてしまう』ことが悩みの種と感じています」。今回のエピソードについて、ゆめのさんはそのように語ります。
会話は、意思疎通のための高度な技術です。場を盛り上げたり、相手の気持ちを察してから、話しかけたりする姿勢が大切になります。ゆめのさんも、そのことを意識しながら、他者との語らいに臨んできました。
しかし、話の内容への興味以上に、「この空気をどうにかしなきゃ」という思いが先立ってしまうそうです。結果的に、仲良くなりたい人と関係が築けず、一人気落ちしてしまいがちなのだといいます。
またそんな経験をしたくない。人から嫌われたくない。自分を守りたいがため、空気を読んでいるのかもしれない。だから、言葉で感情を交わす以前の段階でつまずくのだ――。ゆめのさんは、そう自己分析していると教えてくれました。
「知人と話し合い、空気を読まなきゃいけない環境に、疲れている人は多いとわかりました。でも、社会で生きていく上で必要なのも事実ですよね。みなさんは、このことについて、どう思いますか?」
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