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ネットの話題

「おかねはおとなになったときでいいよ」焼き肉店の粋な貼り紙に感動

「これは宣伝じゃない」店主の熱い思い

焼き肉店の店内に掲出された貼り紙。その内容が、粋で優しいと、ネット上で好評を博しています。
焼き肉店の店内に掲出された貼り紙。その内容が、粋で優しいと、ネット上で好評を博しています。 出典: 宮よし提供

目次

「おかねはおとなになったときでいいよ」――。とある焼肉店の店内に掲示された、手書きの貼り紙が、ネット上で注目を集めています。全てひらがなでつづられたメッセージに、心動かされる人々が、続出しているのです。新型コロナウイルスの流行と、急激な売り上げの減少。予期せぬ困難に抗いながら、人助けを続ける店主の男性に、話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

「無償の愛」を示した貼り紙

貼り紙の書き出しは、「こどもたちへ!!」という呼びかけです。そして模造紙3枚にわたって、こんな文章が連なります。

こどもたちへ!!

がっこうがはじまるまでのまいにち
おひる11じ30分から よる7時まで
こどもべんとう をはじめました。

だいたい200えんで おかねがたりなかったりしても、
たべたいものをおみせのひとにいってみてね!

おかねはあとでもいいし、おとなになったときでもいいよ!

おとなになったときに『宮(みや)よし』がなかったら
こまっているひとのためにつかったり、きふしたりしてね。

末尾に添えられているのは、クマの顔のイラストと、「大人の方は普通のお弁当をお願いします 店主」との一文です。

「何度も読み返し、心温まった。店主の心意気に拍手」「とても粋。これが無償の愛だ」。8月に入り、画像がツイッター上に広まると、称賛のコメントが相次ぎました。

貼り紙の文字数は、模造紙3枚ほどの分量だ。
貼り紙の文字数は、模造紙3枚ほどの分量だ。 出典: 宮よし提供

常連客に恵まれた店の決意

この取り組みを行っているのは、埼玉県所沢市の焼き肉店・宮よし。七輪に乗せ炭火であぶる、ジューシーなホルモン焼きが名物です。今年で創業13年目を迎え、東京・青梅の系列店と共に、肉好きたちの胃袋を満たしてきました。

常連客に恵まれた店が、なぜ子どもへの情報発信に踏み切ったのか。「宣伝のためにやっているわけではないから」ということで、匿名を条件に、店長の40代男性を取材しました。

刺激受けた「先例」と3年前の記憶

ことは、昨春にまでさかのぼります。新型コロナウイルスの流行抑止のため、政府は全国の小中高校に休校を要請しました。そして日中、子どもが自宅にとどまる一方、親は仕事で外出する、といった家庭が激増していきます。

やがて、ウイルス禍で収入が減り、給食にも頼れない困窮家庭の暮らし向きが悪化しました。こうした中、東京都内の飲食店が、子ども向けに弁当販売を始めます。店頭に掲示された、メッセージシートの画像が、SNS上で広く拡散されました。

この「先例」に、男性は刺激を受けます。そして、もう一つ、貼り紙の作成を決めた理由があったのです。

3年ほど前のある日。小学生くらいのきょうだいが、突然店を訪ねてきました。午後8時を回った頃で、知人が店内にいるわけでもないようです。事情を聞くと、「親の帰りが遅く、ご飯を食べていない」との答えが返ってきました。

見かねた男性は、手ずから弁当を作ります。豚カルビに甘いタレをかけ、ご飯の上に乗せただけの、シンプルなメニューです。二人は喜んで持ち帰りました。

東京の飲食店の一件から、この記憶が呼び起こされた男性。「自分は字が汚いから」とスタッフの女性に書いてもらった文章を、昨年4月に店内で公開しました。

「200円」なのに無料で渡す理由

「こどもべんとう」も、3年前に作ったもの同様、豚肉や牛肉を甘めに調理しています。一方、店の看板であるホルモンは、独特の歯ごたえがあるため、積極的には取り扱わないそうです。

貼り紙の公開に合わせて売り出すと、小さなお客さんが、ちらほら店先に現れました。男性は、店舗の外で肉を焼いてみせるなど、話しかけやすい雰囲気づくりに努めます。興味を持ってくれた子どもには、自らあいさつすることも意識しました。

「うちは地域密着でやってきたので、近所では名が知れています。店舗が入るビル内に学習塾があったり、地域の学校関係者が店に立ち寄ったり、といった状況もありました。このことが幸いし、周囲の大人たちも安心して見守ってくれたんです」

男性はスタッフと協力し、毎日弁当を作り続けました。一週間欠かさずやって来る子に、友達と誘い合って来店する子。親子一緒に顔を見せるケースもあります。家庭での様子は、あえて聞きません。その姿勢が良かったのか、次第に来訪者は増えていきました。

弁当の販売数は、多いときで一日10個ほどです。今年に限ると、既に200個以上提供しました。名目上は料金を取ることになっているものの、男性いわく、無料で振る舞う場面も少なくないといいます。一体、どうしてでしょうか?

「『こどもべんとう』を知った常連さんたちが、資金を寄付してくれました。『子どもたちを食べさせてあげて』と、お金を送ってくださる方々もいます。そのおかげで、実質的には出費がないんです」

「もちろん原価を考えれば、料金をいただいたほうがいい。完全にタダとするのも、気が引けます。しかし周りの手助けがあってこそ、今日まで事業を続けてこられました。ウイルスの影響で仕事がなくなってしまった親御さんや、食べられない子どものため、できることをやりたいと思っています」

新型コロナウイルスの流行後、宮よしが子どもたちに振る舞っている「こどもべんとう」。3年前、きょうだいに出したものと同じく、ご飯に肉を乗せただけのシンプルなメニューだ。
新型コロナウイルスの流行後、宮よしが子どもたちに振る舞っている「こどもべんとう」。3年前、きょうだいに出したものと同じく、ご飯に肉を乗せただけのシンプルなメニューだ。 出典: 宮よし提供

閉店間際に子どもからもらった「手紙」

一連の活動は、子どもたちから時折届く「手紙」にも支えられています。先日も、忘れがたい出来事がありました。

夕方に店のドアをくぐってきたのは、小学校高学年くらいの女の子たち。焼き肉定食をたいらげた後、お代を払おうとした二人に、男性は「お金は大丈夫。常連さんからもらっているから」と伝えました。

少女たちは閉店時間の20時近くまで、店内に残りました。「何をしているんだろう?」。不思議がる男性に、二人は小さな紙を渡し、帰路に就いたのです。その紙はノートの切れ端で、感謝の言葉がイラストと一緒につづられていました。

「『食べさせてくれてありがとう』『大きくなったら、お金をいっぱい使いに来る』。そう書かれた紙が、店のポストに入っていたこともあります。親御さんに言われてのことなら、恐らく便箋(びんせん)を使うでしょう。きっと自分の意志で持ってきてくれたんですね」

子どもたちをサポートしているつもりが、いつの間にか背中を押されている――。そのことを実感するたび、男性たちは、「こどもべんとう」を作り続ける決意を新たにするといいます。

「お店がある限り、永久的にやる」

とはいえ、店の経営は良好と言えません。ウイルス禍のため、今年の売り上げは、2年前と比べ8割ほど減少。政府や自治体の指示で、営業時間短縮や酒類提供の停止を余儀なくされ、客足も遠のきました。

それでも、弁当を大量に注文するといった形で、地域の人々が買い支えてくれています。更に国からの給付金を活用し、何とか営業を続けているのです。こうした状況下でも、男性は、子どもたちへの支援を続けたいと語りました。

「この活動は、商売とは全く別物なんです。お店がある限り、永久的にやる。これからの社会を担う世代を、弁当一つで助けられるのですから。ウイルスの影響がなくなっても、やめません」

ところで、店内の貼り紙は昨年末、新たなデザインに差し替えられました。そこには、こんな文章が掲載されています。

こどもたちへ

おうちにごはんがなかったり
おなかがすいていたりしたら
いつでも おみせにおいで

こども弁当・こども定食を
100円で どうぞ!!
(お金なかったらいってね)

店の取り組みに興味を持った人々に対し、何かメッセージはありますか――。そう尋ねてみると、男性は次のように答えてくれました。

「特に飲食店を経営する方にお伝えしたいのが、『ぜひうちに続いてもらいたい』ということ。僕自身、別のお店の後ろを追いかける形で、今日まで行動してきました。北海道から沖縄まで、色々な場所に、子どもたちに弁当を出す拠点が増えて欲しいんです」

「そうして配慮を受けた子たちは、いつか絶対に、同じように他人を思いやってくれる。僕は、そう確信しています」

今はこちらの貼り紙が、来店する子どもたちを出迎えている。
今はこちらの貼り紙が、来店する子どもたちを出迎えている。 出典: 宮よし提供
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