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三村マサカズが開拓した“魂のツッコミ” 追い込まれて爆発!の系譜
動画で異能ぶりを発揮、ライス・関町
バラエティーでしばしば見掛けるのが、追い込まれた状況で爆笑をとる芸人の姿だ。さまぁ~ず(旧コンビ名はバカルディ)・三村マサカズのツッコミをひな型として発展した“魂のツッコミ”。その流れは、YouTube動画での新たなキャラクターが注目されているライス・関町知弘のような、若手芸人に脈々と引き継がれている。(ライター・鈴木旭)
体を張る“リアクション芸人”とは別に、追い込まれた状況から爆笑を生む芸人と言えば、さまぁ~ず・三村マサカズが真っ先に思い浮かぶ。
とはいえ、駆け出し時代からスポットが当たったわけではない。バカルディ時代の代表的なコント「美容室」を見ても、無表情のまま飄々とボケる大竹一樹によって笑いを生んでいる。1990年初頭、まだ関東ではツッコミの文化が確立されていなかったことも大きいだろう。
この件について三村は、2020年11月に放送された『さまぁ~ず論』(テレビ朝日系)の中でこう語っている
「(ダウンタウン・浜田雅功を)高校とか、『お笑いをやろう』っていう時に見て。でも勉強になるっていうか、やっぱ関西の方だし、ちょっと真似はできないかなって。一番オレ、近いのはいかりや長(介)さんかなってずっと思ってんの。(『8時だョ!全員集合』(TBS系)のコントで、いかりやが)『(志村)けん!』って、あの……なんか言うじゃん。『バカ!』とかって(笑)。だから、よく言う“魂のツッコミ”っていうの? 『○○の○○じゃないんだから』じゃないほうの『うるせぇ!』っていう(笑)。結局、そこに勝てるもんがなかったりすんのよね」
語感やイントネーションの面白さでは関西弁に勝てない。ならば気持ちの乗ったシンプルなツッコミに徹しようというのが三村の選択だった。
この先に「○○かよ!」「○○じゃねぇよ!」といった定番のフレーズが生まれ、1990年代中盤の『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でも、「関東ナンバーワンのツッコミ」としてたびたび取り上げられるようになった。この時期から、三村のツッコミは注目を浴びるようになったのだ。
追い込まれた状況にこそ、“魂のツッコミ”は持ち味を発揮する。自由奔放なボケに振り回され、「ん……」とツッコむ前に感情を溜め込む三村のスタイルは、後の芸人にも影響を与えた。
たとえば、ハライチ・澤部佑もその1人だ。「M-1グランプリ2009」の決勝進出で注目を浴びた“ノリボケ漫才”もそうだが、ここ最近披露しているオーソドックスな漫才では、三村の影響が如実に現れている。相方の岩井勇気のボケに対し、ここぞというタイミングで「うぅ……」「ん……」と溜めを作り、時にしどろもどろになりながらツッコむなど、三村と重なるところは多い。
澤部自身、先述の『さまぁ~ず論』の中で「そもそもやっぱ三村さんのツッコミとかをちょっとこう意識したトコがあった」と語っている。やはり根底には、三村の存在があったようだ。
また、「キングオブコント2012」で優勝したバイきんぐ・小峠英二は、三村のツッコミをさらに拡張した。感情を溜めて嘆くように放たれる「なんて日だ!」というフレーズは知られたところだが、小峠はこれに加えて「圧倒的なトラウマ植え付けてやろうか!」といったインパクトの強いワード、掛け合いのリズムにこだわってコントを作っている。このことでネタ自体の強度が増し、関西弁にも負けないパワフルなツッコミを確立した。
そのほか直接的な影響こそ感じないが、怒りを爆発させるカンニング竹山の“キレ芸”、タカアンドトシの「欧米か!」といったシステマチックなツッコミが出てきやすい土壌を作ったのも間違いないだろう。いずれにしろ、“魂のツッコミ”は標準語でネタを作る芸人のスタンダードとして、脈々と引き継がれているのだ。
三村のツッコミが影響を与えたのは、漫才やコントだけではない。バラエティーにおいても流用され、定番化した。
2000年代中盤から後半に掛けてよく見られた、ハリセンボン・近藤春菜の「○○じゃねぇよ!」もその一つだ。複数の共演者から「あれ、『渡る世間』に出てましたよね?」などと振られ、春菜が「角野卓造じゃねぇよ!」と否定し続ける例のやり取りである。このブームがひと区切りすると、クッキーで有名なステラおばさんや映画監督のマイケル・ムーアなど、大喜利のように振りのバリエーションも増えていった。
アンジャッシュ・児嶋一哉の「児嶋だよ!」も同様のパッケージだ。どちらも共演者の振りに追い込まれ、感情を爆発させるようにツッコむことで笑いを生んでいる。この点を考えると、おいでやす小田のツッコミにスポットが当たるのは必然だったのかもしれない。
春菜と児嶋に共通するのは、ネタとは別に“魂のツッコミ”によってバラエティーでのポジションが定着したことだ。三村のスタイルは、非常に汎用性が高かったと言えるだろう。
追い込まれた状況を生むには、うまい“追い込み屋”の存在が欠かせない。「角野卓造じゃねぇよ!」はロンドンブーツ1号2号・田村淳の振りをきっかけに誕生しているし、「児嶋だよ!」は“ザキヤマ”ことアンタッチャブル・山崎弘也、有吉弘行といったバラエティーの達人がいたからこそ世間に浸透したと言える。
このケースに当てはまり、ジワジワと注目を浴びつつあるのがライス・関町知弘だ。追い込み屋は、さらば青春の光・森田哲矢である。この関係性は、YouTubeチャンネル「さらば青春の光Official Youtube Channel」内の企画によって明るみに出た。
韓流ドラマ好きの関町に電話し、大ヒットした『梨泰院クラス』の内容を10分ほどで聞き出そうとする森田。当然のごとく関町は「ふざけんなよ!」と渋るが、結局は人柄のよさが仇となり、森田に乗せられてラストまで語り尽くしてしまう。また、別の動画で『愛の不時着』においても内容を聞き出されたあげく、後日になって“(違法動画である)ファスト映画と同じような犯罪に当たる”と警察を装った森田から電話が掛かってくるドッキリ企画の仕打ちにまで遭っている。
いずれの企画も、森田に振り回されつつ、慎重かつ素朴な反応を見せる関町が実に面白い。動画を見た視聴者からも、「関町さんが出るときは全部神回」といった声が多く寄せられている。評判は上々のようだ。
「キングオブコント2016」の優勝後、いまいちブレークできなかったライス。さらば青春の光のYouTube動画によって、関町のキャラクターが浸透し、“魂のツッコミ”の継承者としてテレビでもスポットが当たることを切に期待している。