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千葉の新生児死亡「他人事ではない」迫る医療崩壊、妊産婦の不安

息子に濃厚接触の可能性、隔離出産した女性

「濃厚接触」の疑いの中出産した女性は、千葉の新生児死亡について「他人事ではない」と語った ※写真はイメージです=Getty Images
「濃厚接触」の疑いの中出産した女性は、千葉の新生児死亡について「他人事ではない」と語った ※写真はイメージです=Getty Images

目次

千葉県柏市で、新型コロナウイルスに感染した30代の妊娠8カ月の女性が、入院先が決まらないまま自宅で出産し、新生児が死亡していたことがわかりました。ニュースを知って「他人事とは思えない」と話すのは、家族に「濃厚接触者」の可能性が出る中、8月3日に出産を経験した女性です。〝医療崩壊〟が現実味を帯びる中、妊産婦が直面している不安について聞きました。

長男に濃厚接触者の可能性

話を聞いたのは都内に住む30代の女性です。

出産予定日は8月1日。保育園に通う長男が濃厚接触者の可能性があることを告げられたのは前日の7月31日のことでした。

当時は、東京五輪が開催される中、全国で感染者が連日1万人を超えていました。

園からは「保健所はすでに業務がパンクしており、園内全員の濃厚接触者の調査がいつになるか、社会的PCR検査の対象者が誰に当たるかはわからない」と言われたという女性。

出産を予定していた病院には先天性の疾患などを持つ子どもも入院・通院していました。予定日に生まれなかった場合、2日後の8月3日には入院して誘発分娩(ぶんべん)を予定していたそうです。

そのため、「病院に情報共有をするのは早ければ早い方がいいだろう」と思い、7月31日の午前中には病院に連絡。3日の入院予定は一旦延期になりました。もし入院前に陣痛や破水があった場合はPCR検査をすることになり、結果次第では対応が変わってくると告げられました。

出産直前、長男に「濃厚接触者」の可能性が出て… ※写真はイメージです=Getty Images
出産直前、長男に「濃厚接触者」の可能性が出て… ※写真はイメージです=Getty Images

首相の「楽観バイアス」に違和感

女性が心配したのは「入院前に陣痛や破水が起きた場合、どうなるのか?」です。

医師からは「救急外来でのお産になる可能性がある」と説明されました。

通常なら、産科病棟まで移動して、陣痛からお産までの時間を過ごします。しかし、PCR検査の結果を待つ時間を考えると、お産の進みが早かった場合、結果が出るまでに出産が始まってしまう可能性があります。そのため、病棟に入れないかもしれないと言われたそうです。

「イレギュラーなお産になってしまって大変ですが…」「お産だけに集中できない状況ですよね」。不安に寄り添おうとする医師からのそんな声がけに、女性は「とても安心感を抱きました」と振り返ります。

一方で、7月30日に菅首相が記者会見で話した内容は、「楽観バイアス」に基づくメッセージ発信でした。

都内の新規感染者が3千人を超えてもなお、「高齢者のワクチン摂取が進んでいる」ことだけを頼りにした、どこか気の緩みを招くようなメッセージ。小池百合子・東京都知事も「五輪はステイホームを」という強気な発言ばかりが目立ちました。

女性は「私は感染拡大に危機感を感じているのに、政治家が発するどのメッセージも、ある意味で『コロナ感染者を抑え込める』『コロナ感染者さえ抑え込めれば問題ない』といった、楽観的なニュアンスに聞こえました」と言います。

4府県に緊急事態宣言が追加され、菅義偉首相らの会見で挙手する記者たち=2021年7月30日午後7時38分、首相官邸、上田幸一撮影
4府県に緊急事態宣言が追加され、菅義偉首相らの会見で挙手する記者たち=2021年7月30日午後7時38分、首相官邸、上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

ビニールに囲まれて出産

政治家の言葉とは対称的に、自分が置かれた現状は、出産を抜きにしても、完全に非日常の世界でした。

息子は感染者が出たことで保育園は休園になり、それに伴い夫も仕事の調整に追われました。

女性は自分でコントロールできない出産のタイミングにハラハラさせられ、場合によっては自然分娩が帝王切開になる可能性もありました。そんな中、2日に破水し、赤ちゃんが産まれたのは予定日から2日遅れの8月3日でした。

PCR検査を受けた上で出産した場所は、分娩室ではありましたが、感染防止のため周囲をビニールで覆われる異常な状態でした。

付き添いの家族も入れず、一人での出産。産まれたのは3000グラム超の元気な女の子でしたが、すぐに別室に移され、その後19時間もの間、見ることも触れることもできませんでした。女性が受けた2度のPCR検査の結果が陰性だったことなどを踏まえ、病院が「陽性者ではない」と判断するまでの対応でしたが、「とても不安な時間でした」と女性は話します。

「もし、病院への連絡が遅れていたら…」

こうして、出産から1カ月も経たないうちに、コロナに感染したため自宅出産を余儀なくされ、赤ちゃんが亡くなってしまったといういたましいニュースを聞いたのでした。

「自分は、早めに病院へ連絡を入れることができたので、医師から具体的なシミュレーションも共有することができ不安を取り除くことができました」

「でも……」と女性は続けます。

「出産のタイミングは基本的に自分でコントロールできるものではありません。もし、病院への連絡が遅れ、受け入れ体制が整っていなかったらと思うと、他人事とは思えません」

現在、女性が懸念するのは「ただでさえ不安が尽きない妊婦やその家族が、コロナによって、より心配事の多い日々を送る状況がこれ以上続くこと。そして、医療現場にこれ以上負担がかかることです」。

また、女性の夫は「生まれたばかりの赤ちゃんに何か異変が起きて救急搬送が必要になっても、病院が受け入れられない体制になってしまっているのではないか」と不安を口にしているそうです。

今回、「濃厚接触の可能性がある家族がいる妊婦」という立場で、普段ではあり得ない対応を迫られた女性。「陽性と判明した妊婦の対応がどれだけ困難であったか、想像するに難くありません」。平時とは全く変わってしまった医療現場の状況を身をもって体験した今、「政治家には、安心できる具体的な医療体制の整備を実行してほしい」と訴えます。

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