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ネットの話題

「この作品を読める時代に生まれて良かった」魔法が使えない魔女の恋

作者も憧れるマイナスからの大逆転劇

魔法使いを目指す少女・マホイ(左)。その恋と成長を描いた漫画が、ネット上で支持を集めています。
魔法使いを目指す少女・マホイ(左)。その恋と成長を描いた漫画が、ネット上で支持を集めています。 出典: しなぎれさんのツイッター(@sinanohaka)

目次

魔女のキャラクターなのに、魔法が使えないとしたら――。そんなテーマで描かれたファンタジー漫画が、ツイッター上で支持を集めています。〝できそこない〟を自称する主人公の、恋物語と成長譚(たん)。その爽やかな読後感が、多くの人々の心をわしづかみにしているのです。「登場人物たちに憧れている」と語る作者に、創作の背景について聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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気持ちの揺れ動き、実感できない少女

「魔法の使えない女の子と臆病な男の子の話」。7月30日、そんな文言と共に、31ページの漫画『私の魔法』がツイートされました。

主人公・マホイは、「魔法研究学園」に通う魔女の卵です。魔法使いを志す子どもたちと共に学んでいます。

魔力の源泉となるのは、情動のエネルギーです。自信、喜び、怒り、悲しみ。クラスメートは、感情を自在に操り、次々と魔法を発動させていきます。

しかしマホイだけ、何の能力も示せません。自分の気持ちの揺れ動きを、実感することができないのです。

「感情が豊かな 人間らしい子達が 新たな世代の道しるべになります」。授業の終盤、魔法学の先生が発した言葉に、彼女は一人思います。「私は、人間らしくないのか……」

漫画『私の魔法』
漫画『私の魔法』 出典:しなぎれさんのツイッター(@sinanohaka)

学校で孤立しがちなマホイを支えるのが、「委員長」と呼ばれる女子生徒です。休み時間に声をかけたり、一緒に登下校したり。何かと気にかけてくれますが、周囲はそのことをよく捉えていません。

「魔法が使えないできそこないのくせに」「この前も委員長の足手まといになったって」。級友たちが、陰口をたたきます。マホイは自らを守るように、かたくなに心を閉ざすのでした。

出典:しなぎれさんのツイッター(@sinanohaka)

「ファンです!」と話しかけてきた少年

ところがある日、一人の男子生徒が、校内で声をかけてきます。「あなたのファンです!」。予想もしない展開に、脱力するマホイ。河原へと移動し、真意を問いただすと、少し前に起きた出来事について話し始めました。

聞けば、三人の暴漢を、マホイが魔法で撃退する場面を目撃したというのです。しかし実際には、現場にいた委員長の力によるものでした。「ごめんなさい、私はできそこないだから……」。彼女は少年に真実を告げます。

「すごいよ! 魔法が使えないのに逃げ出さないなんて」「ますますファンになっちゃいそうだ」。少年は、またも意外な反応をみせました。「……マホイでいい」。微笑むマホイを前に、彼も顔をほころばせます。「僕はコノミだよ!」

出典:しなぎれさんのツイッター(@sinanohaka)

放課後、マホイと過ごすようになったコノミ。彼は、自らの気弱さにまつわる記憶を打ち明けます。マホイが暴漢に襲われているのを見て、動けなかったこと。彼女に声をかけるのに、時間がかかったこと……。

「僕……すごく弱虫なんだ」「僕のできないことをしている君を見てたら このままじゃダメだって思った」。振り絞るように、本心を語る様子を目の当たりにして、マホイは言います。

「変わろうとすることは すごく大変なことだ」「それができるコノミは もう弱虫なんかじゃない」

やっぱり、マホイはかっこいいな――。コノミがそう応じたとき、一陣の風が、二人の間を駆け抜けました。

出典:しなぎれさんのツイッター(@sinanohaka)

胸の高鳴りから始まった大逆転劇

そして、翌日の放課後、マホイは三人の男たちに囲まれていました。過去に因縁を付けてきたメンバーです。「何しても冷めた顔で見てきやがる」「気にくわねぇ」。リーダー格の男が、拳を振り上げます。

隙を突いて、マホイの前に立ちはだかり、打撃音と共に崩れ落ちるコノミ。ほおを腫らし、男に「腰抜け野郎」と罵られながらも、彼は相手につかみかかっていきました。

「変わったんだ、もうあんな思いはたくさんだから!」「マホイ! 君は僕が守る!」

直後、マホイの胸が高鳴り、周囲に疾風が起こりました。「その手を離しなさい!」。男たちは恐れをなし、逃げ出そうとします。すかさず彼女が手から魔力を放つと、三人そろって吹き飛んでしまいました。

出典:しなぎれさんのツイッター(@sinanohaka)

暴漢らを捕まえたマホイを、コノミは「やっぱかっこいいなぁ!」と褒めたたえます。「こっちのセリフだ……」。彼女は後ろを向き、顔を赤らめながらつぶやきました。

そして振り向きざま、お互い正面から見つめ合う格好に。感情が高ぶり、魔法を制御できなくなったマホイは、コノミと空高く舞い上がりました。その一部始終を、遠くから委員長が見守る場面で、物語は幕を閉じます。

出典:しなぎれさんのツイッター(@sinanohaka)

「人間の感情、爆発させたかった」

「この作品を読める時代に生まれて良かった」「自分の心を見つけたキャラが動き出す瞬間に、胸を打たれた」。漫画を載せた投稿には、読者の好意的なコメントが連なり、2万超の「いいね」もつきました。

「無愛想だけれど、好きな人の前では、恋する乙女の顔になる。そんな主人公を描きたいと考えました」。創作の経緯を振り返るのは、京都府在住の大学生で、漫画作者のしなぎれさん(21・@sinanohaka)です。

元々、友人と「同じテーマで漫画を描こう」と話し合い、最終的に魔法を題材とすることに。人間の感情が爆発するシーンをクライマックスに据えたい、と考え、逆算する形で筋書きを考案したといいます。

エピソードの鍵となる、マホイの性格については、とりわけ入念に検討したそうです。

「マホイを感情が薄い人物としたのは、コノミの『特別感』を出したかったから。魔法が使えず、コンプレックスを抱いていたところに、魔法と無関係な世界にいる少年と出会う。心の隙間をヒーローによって埋め、覚醒する、という流れを意識しました」

「彼女は、きっと恋をすることで成長するのだろうな。そこに魔法を絡めるのであれば、感情の強さが、魔力に関係してくるのかな。そのように考えながら、設定を組み立てていきました」

変化を望み、もがく姿に感じた強さ

ところで、マホイとコノミが、自分自身の変化を望みもがく姿は、読者に強い印象を残しました。この点に関して、しなぎれさんは語ります。

「これまで何本かの漫画を手掛けてきました。その中で担当編集の方から『〝寄り添う〝が作品のテーマになっている』と言われたことがあります。確かに、違う世界で生きる二人が、背中を押し合い成長していく関係性が好きだったんです」

「今回もコノミとマホイが、互いに関わり合い、それぞれが気付いていない自分の良さを知る、というくだりを描きたいと思いました」

かく言う、しなぎれさん自身、「変わりたいのに変われない」と思い悩む機会があるそう。象徴的なのが、漫画を最後まで描き切れないときです。

「なぜ自分はこんなにもできないのか」と自己嫌悪しつつも、なかなか変革につながらない――。そのような経験を重ねてきただけに、「マホイとコノミは強い子たち。二人に、少し憧れている節もあります」と笑いました。

実際、キャラクターたちの葛藤ぶりに、自らの姿を重ねる読者は少なくありません。物語に心躍らせた人々に対し、何を伝えたいか尋ねてみると、しなぎれさんは次のように話しました。

「コノミに出会うまでのマホイは、『マイナスの要素全振り』です。コノミに出会ってから、プラスが積み重なっていきます。それが恋によるものだと思うと、とてもキュンキュンしますよね」

「マホイの目が段々と揺れ動くようになり、キラキラしていく描写には、特にこだわりました。読むたびに二人を好きになり、応援してもらえたら、と思います」

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