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地味に過酷な「陰性証明書への道」 イタリア渡航で感じたものは…

イタリア・ベネチアの朝焼けの風景
イタリア・ベネチアの朝焼けの風景

目次

私は7月8日午前0時過ぎ、東京・羽田空港を飛び立ち、イタリア・ベネチアに向かいました。7月9~10日に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会合の取材のためです。日本を離れて、新型コロナウイルス感染症への感染対策などをみてみると、それぞれの国や人々の考え方の違いを身をもって知ることになりました。

この記事は、7月初旬に海外渡航した体験をもとに執筆しています。最新の水際対策については厚生労働省・水際対策に関するウェブサイト、日本への入国者の健康チェックについては厚生労働省・入国者健康確認センター などをご確認下さい。また、各国への入国や規制についてはそれぞれの大使館などにご確認下さい

事前手続きはいろいろ

渡航する前からヨーロッパ圏内に入る際に必要なフォームや、日本帰国時に必要な厚労省のウェブサイトへの登録作業などに追われました。また、イタリアは入国48時間前までのPCR検査の陰性証明書が必要です。飛行時間を考え、出発当日に検査しました。その陰性の結果を夕方にもらい、ようやく渡航が決まりました。PCRの検査結果などは、羽田空港でのチェックイン時に係員に見せました。

ただ、出発前の不安とは裏腹に、欧州への入国はスムーズでした。

経由地のドイツ・フランクフルトでは陰性証明書を見せると、「ベネチアへ行く理由は?」などといった一般的な質問を受けたのみで入国できました。出発した羽田空港は午後8時以降だったため、ロビーや搭乗口付近の全ての店が閉まっていました。しかし、フランクフルト空港ではカフェなどが開いており、搭乗までの時間を過ごすのも苦労しませんでした。

ベネチアの空港の様子
ベネチアの空港の様子

そして到着したイタリアはもっと驚きました。ベネチアの空港では、誰にも陰性証明書を見せることなく、荷物を受け取り到着ロビーにたどり着いたのです。

「何もないの?」。通るべき道を間違えたのかと心配になるほどでした。事前登録したEUの登録フォームを印刷したプリントは、イタリアでは誰にも見せることはありませんでした。

ベネチアの観光地のひとつのサンマルコ広場
ベネチアの観光地のひとつのサンマルコ広場

飲食店は深夜も営業

ベネチアでは、ロンドンに駐在する特派員と合流し、夕食を共にしました。訪れた当時は、陰性証明書などを提示しなくても、お店に入ることができました。思えば、今年初めて同僚と食事を楽しんだことに。現在は、飲食店や美術館などを利用する際に新型コロナウイルスのワクチンの接種や陰性の証明を提示することが義務づけられています。

現地の飲食店はアクリル板を設置したり、間隔を広げたりしていませんでした。店員や店内の客がマスクをつけることもありません。日本の飲食店の風景を想像したので、密集が気にならざるを得ませんでした。

午前0時過ぎても飲食店が開いていた
午前0時過ぎても飲食店が開いていた

渡航2日目の午前、私はG20の会場に向かいました。事務局は記者らに新型コロナの検査場を用意していました。ただ、記者向けハンドブックでPCRとしていた検査は抗原検査であったり、開設時間が記載と異なっていたりして戸惑う記者も。感染症対策はすべての関係者が気にかかるもの。もう少し丁寧に説明するべきだなと感じました。

会場に向かう際には、水上バスに乗る前と会場に入る港で陰性証明書をみせる二重チェックが行われます。港では「会場内で着用するように」とマスクが渡され、その場でつけるように求められました。プレスセンターも、アクリル板が1席ごとに設置され、それぞれの席に消毒液も用意される手厚い対策でした。

プレスセンターは一席ごとにアクリル板が設置され、マスクの着用も求められた
プレスセンターは一席ごとにアクリル板が設置され、マスクの着用も求められた

特にこのマスクの配布がありがたいものでした。G20事務局側は、事前に「会場内ではFFP2マスクを着用するように」と伝えていました。FFP2とは、欧州のマスクの規格基準。しかし、日本で探してもこのマスクはなかなか見つからなかったのです。

なんとかインターネットサイトで見つけて購入してみましたが、届いたマスクやその箱には基準に準拠しているとの明記はありませんでした。マスクがなくて取材ができない……、そんな不安があったのです。

ちなみに、私が購入したマスクと同じ型のものを、他社の記者や財務省職員が着けているのをみかけました。もしかしたら、同じような不安を感じていたかもしれません。

帰国最大の壁「陰性証明書」

この日はもう一つ、大きな任務がありました。それは「帰国するためのPCR検査を受ける」ことです。

日本に帰国する際には、出国前72時間以内に日本政府が指定する形式のPCR検査を受け、日本独自の陰性証明書を医療機関に書いてもらい、提出することが求められています。ロンドン特派員に聞くと、イギリスは入国時に新型コロナ検査の電子データをスマートフォンなどでみせれば良いというものらしい。かなり大きな違いがありました。

政府が求める形式の陰性証明書。同じ内容の記載があれば、別の書類での提出も可能だが・・・
政府が求める形式の陰性証明書。同じ内容の記載があれば、別の書類での提出も可能だが・・・

イタリアでは、新型コロナの検査は薬局などでも受けられるようでしたが、このPCR検査に対応している医療機関を探すのは困難を極めました。PCR検査といっても、日本の基準を満たさないものがあるからです。

他社の記者とも情報交換しながら、証明書がつくれそうな診療所を探しました。結局、空港にある検査場以外に、見つかったのは一つの診療所だけ。空港は水上バスで1時間半かかるので、この診療所を目指すことにしました。

水上バスが満員だったため、記者は次のバスを待つこととなった
水上バスが満員だったため、記者は次のバスを待つこととなった

ベネチアは思ったよりも人が多く、観光客は少なくありませんでした。水上バスの乗客も多く、診療所に向かうバスの1本目が満員で乗ることができないほど。街を歩いていてもドイツ語など他国のことばを話す人が多くみかけました。

マスクは持っていても、日が照りつけ汗がにじむ街中では外して、ひじにつけるような人が多く、街中では警察官もマスクをつけていない人もいました。夏場でもマスクを外さない日本の風景とは異なります。ただ街中ではマスクを外していた人たちも、水上バス内では全員マスクをつけているのが印象的でした。

当時のベネチアは感染リスクが大きくない「ホワイトゾーン」とされていたため、屋外でのマスク着用義務が解除されていました。ただ、イタリア政府は混雑した場所などでは着用を呼びかけており、水上バス内では乗客が従っていました。イタリアでは、屋内の公共の場などでのマスク着用が引き続き義務づけられているなど、各種の感染対策が呼びかけられています。

マスクを口元につけず、うでにつけて観光する人は少なくなかった
マスクを口元につけず、うでにつけて観光する人は少なくなかった

診療所にたどり着きました。検査を受ける列に並び、順番に。係員に日本政府が指定する陰性証明書の原本を見せながら、「これを作れるのか?」と何度も質問を重ねました。

係員は「日本の証明書は書いたことあるから大丈夫」「明日の午前10時に結果が出る」と話しました。これを信じて、PCR検査を受けることにしました。

診療所には検査に訪れた人が列をなした
診療所には検査に訪れた人が列をなした

翌日午前10時に再び診療所へ。「前夜にG20事務局が実施する検査でも陰性が出ていたので、すぐに終わるだろう」。そんな思いで診療所の扉を開きました。

ところが、全く想定通りにならなかったのです。

診療所に来て、検査結果をもらいに来たと伝えると、係員はすぐさまこう答えました。

「ラボからの結果が届いていない。あなたの結果は夕方以降に出ます」

がくぜんとしました。結果が出ていないというのですから。診療所は土曜日の午後と日曜日は休み。言うとおりならば、2日後の月曜日にしか証明書は書いてもらえないことになります。

すぐさま、日本にいるキャップ(上司)と、一緒に取材するロンドン特派員に「結果が夕方まででないと言い出しててバタバタしそうです」とメールしました。

特派員からは「それ、バタバタすりゃなんとかなる問題なの?」と冷静な返信が。おっしゃるとおりなのですが、バタバタするしかありませんでした。すぐに空港に行き、改めて検査をする、帰国日を遅らせるなど色んなケースを想像しながら、もう一度診療所の係員に伝えました。

「午前10時に結果が出ると言われたから検査を受けた。帰国のフライトは明日の朝。何とかならないのか」

鬼気迫る表情で伝える私に係員にもかなり困っているのが伝わったのか、「少し外で待っていてほしい。ラボに問い合わせてみる」と返してくれました。

10分ほど経った後、診療所に呼ばれました。「検査結果が出た」と話し、日本の陰性証明書も苦戦しながら書いてくれました。

バタバタしてみるもんです。

日本独自の陰性証明書作成は国としては管理しやすいのかもしれません。ただ、診療所探しや手書きをお願いするなど、ここまで入手に苦労するとは思いませんでした。

G20会場
G20会場

取材でも新型コロナの影響は少なくありませんでした。G20はベネチアに来た国とオンライン参加の国があるためか、記念撮影などの行事はありません。取材も制限がかかっており、会合の部屋には最後まで入れませんでした。オンライン参加できる関連行事もありましたが、やはり満足のいく取材ができたとは思えませんでした。

海外と日本の取材応対の違いも目の当たりにしました。最終日の午後、会合の合間を縫って、フランスとドイツの財務大臣が相次いで記者取材に応じ、記者が囲みました。今回の大きなテーマだった国際課税ルールづくりについて、多くの記者を前にそれぞれ自身の成果をアピールしていたのです。

【国際課税ルール】
これまで、工場などの物理的な拠点がない企業に対して、国は法人税を課すことができませんでした。ただ、デジタル化が進みタックスヘイブンなどに拠点を置いて活動を行う企業が増え、「課税逃れ」が問題視されていました。そこで、この約100年前にできたルールを見直し、拠点がなくても市場となる国に一部の課税権を配分する新たなルールとすることで約130カ国が合意、G20もこのルールを承認しました。また、G20は長年続いてきた法人税率の引き下げ競争を止めるべく「最低税率を15%以上」とすることでも合意。今後10月にはより具体的な合意がなされ、2023年からの制度の導入を目指しています。日本はルールづくりをはじめて国際会議で提唱し、議論を主導していきました。

麻生太郎財務相はこれまでやこの日の会合後の会見でも、日本が国際課税の議論を持ち出し、主導してきたことを話してきました。ほかの様々な取材からも、この合意に向けた日本政府の努力は感じます。

ただ、「日本印」の政策であるからこそ、海外メディアへのアピールも積極的にするべきだと思いました。フランスやドイツと違い、事前に設定された会見以外の「囲み」はなく、会合後の麻生財務相の記者会見の出席者は先ほどの囲み取材の半分に満たず、質問も日本メディアのみでした。

取材に応じるドイツのショルツ財務相
取材に応じるドイツのショルツ財務相

健康調査にそわそわする日々

すべての日程を終えて、11日早朝に帰路に向かいました。午前5時過ぎにホテルをチェックアウトし、空港へ。日本に向かう帰りの便は混雑していました。搭乗した飛行機には東京五輪・パラリンピックの代表選手や関係者と見られる人も多かったです。

この帰りの飛行機から、入国のための手続きははじまります。

厚労省のウェブ登録はしていましたが、改めて機内で再び健康に関する調査書類と自宅待機や関連するアプリの導入などについての誓約書を書きました。これらの書類は空港で提出します。

空港到着後は五輪・パラ関係者と別のルートで行動することになりました。ただ途中までは、ロープでルートを分けられたのみだったため、感染対策面でどこまで意味があるのかは疑問が残ります。また、それらのロープには「撮影禁止」との貼り紙がたびたび貼られており、なぜ撮ってはいけないのか理解できませんでした。

空港では、入国者健康居所確認アプリ(My SOS)、位置情報確認アプリ(OEL)という二つのスマホアプリの登録が必要でした。元々インストールしているCOCOAなどを含めて、四つのアプリのインストール、ウェブ登録フォーム、書類への記載などの煩雑さはEUへの入国の比ではありません。

唾液をつかった新型コロナ検査など、すべての手続きを終えるまでには2時間ほどがかかり、検査結果の待合室では周りの乗客たちも「長すぎる」とため息をついていました。対策の内容が違うとはいえ、重複する手続きも多く改善できるところがあると感じました。

帰国者は公共交通が使えないため、各自で用意したハイヤーなどを使って移動します。その後の2週間の自宅待機中は、毎日届く健康管理のメールに返信する必要があります。ほかにも登録したアプリを通じて、電話やビデオ通話など1日数回連絡がきました。

待機場所にいることの確認なので抜き打ち検査になるのは仕方ないことなのですが、いつ来るかわからず、スマホを絶えず確認する日々となりました。健康管理アプリでのビデオ通話チェック中に、位置情報確認アプリから「今すぐ現在地を報告して下さい」という通知が来て即座に対応できないことも。これはさすがに無理ゲーだと思わざるを得ませんでした。

ただ、厚生労働省によると、7月15日以降はこの二つのアプリとメールによる健康管理がMySOSアプリに統一されたとのことです。こうした煩雑さはある程度解消されているとみられます。1日1回の健康状態の報告、ランダムに確認される位置情報の確認やビデオ通話などの確認作業自体は引き続きMySOSアプリを通じて行われます。

自宅待機期間中は1日に数回、様々な形で在宅確認がなされた
自宅待機期間中は1日に数回、様々な形で在宅確認がなされた

新型コロナ対策によって、思ったような取材はできていない状況はまだまだ続きそうです。ただ、海外と比べることで日本の感染対策の良い点も改善点も見えてきました。次に海外で取材するときには、より多面的な取材ができ、渡航への不安が少しでも小さくなっている状況となることを願っています。

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