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ネットの話題

紙面埋める1万4千の点「鳥肌が立った」長崎新聞、8月9日への思い

「スルー」させないため考えた〝違和感〟

点で構成された新聞広告。異様なビジュアルには、平和への切なる願いが込められていました。
点で構成された新聞広告。異様なビジュアルには、平和への切なる願いが込められていました。 出典: 長崎新聞社提供

目次

紙面を埋め尽くすように、びっしりと並んだ無数の点――。長崎新聞が掲載した見開き広告が、ネット上で大きな反響を呼んでいます。シンプルな構成に心をつかまれ、「思わず鳥肌が立った」と述べる読者が続出しているのです。「平和の祈り」の発信に一役買ったデザイン。これまでも「引っかかりのある違和感」にこだわってきた担当者の話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

1万超の黒い点と、たった二つの赤い点

話題をさらった広告は、8月9日の朝刊に登場しました。14~15面にかけ、30段にわたって、黒い点が規則正しく並んでいます。

左側へと目を移すと、黒地に白抜き文字で、こんな一文がつづられています。

「核兵器が存在している以上、それが使われるリスクも存在しています」

紙面に散らばった点の一つひとつが、世界中に存在する核兵器を表現しているのです。その数、実に13865個にも上ります。

黒い点の一つ一つが、現存する核兵器の数を表している
黒い点の一つ一つが、現存する核兵器の数を表している 出典: 長崎新聞社提供

そして文章の下に、二つだけ、赤く染まった点があります。これらが示しているのは、1945年8月6日と9日、広島・長崎に投下された原子爆弾です。更に犠牲者への弔意を込め、左上に配された「長崎新聞」の題字はモノクロで印刷されています。

「このうち一個使っただけで、世界はどうなるのか」「まだこんなにも核兵器が残っていると知り、思わず鳥肌が立った」。広告を見た人々からは、恐れや戸惑いの声が上がりました。

左側の赤く染まった点が示しているのは、広島・長崎に落とされた原子爆弾だ
左側の赤く染まった点が示しているのは、広島・長崎に落とされた原子爆弾だ 出典: 長崎新聞社提供

1ページ2万字掲載、新聞の強み活かす

「想像力こそが、核使用の最大の抑止力になる。そのことを伝えたいと思いました」。長崎新聞社メディアビジネス局地域ソリューション部の、福岡一磨さん(47)が、広告の制作趣旨について語ります。

これまで同社では、原爆が投下された日に合わせ、広告特集を組んできました。今年1月17日には、核兵器の保有・使用を全面的に禁じる、核兵器禁止条約が発効。歴史的な節目に発信すべき情報として、「核兵器数の可視化」というアイデアが浮上します。

「一般的な新聞記事は、写真とテキストで構成されています。いきなり点だけが載ったページが現れたら、読者は『何だこれは?』と思うでしょう。そうした違和感を演出することで、いちど立ち止まり、冷静に見てもらえると感じたんです」

福岡さんによると、新聞紙面には、1ページにつき2万字以上収めることが可能です。核兵器の実数を点にすれば、製造状況の全体像を象徴的に表せます。次世代を担う子どもたちと、親・祖父母世代が、平和について語らうきっかけにもなると期待されました。

また掲載前日にあたる8月8日、東京五輪が閉幕するため、多くの人々が新聞に目を通すとの予想も、この案を後押ししました。

「時期を考えれば、大会の関連情報を紹介すべきところかもしれません。一方で、世の中には似たような紙面があふれている。場合によっては、スルーされる可能性もあります」

「だからこそ、あえて引っかかりのあるデザインを採用したいと思いました」

8/9の紙面には、広島・長崎に投下された原爆と、戦後開発された核兵器の威力を比較した図なども掲載された
8/9の紙面には、広島・長崎に投下された原爆と、戦後開発された核兵器の威力を比較した図なども掲載された 出典: 長崎新聞社提供

挑戦的広告で問い続ける「核の罪」

同社の挑戦的な施策には、先例があります。2015年、終戦70年企画として制作した、紙面全体を覆う「ラッピング広告」です。

県民や、県出身の著名人らから届いた、平和へのメッセージを両面に印刷。それぞれ、カラフルに塗り分けました。モザイクアートの要領で、遠目から見ると、折り鶴や虹の形が浮き上がって見える仕様です。

2015年8月9日に発行された、ラッピング広告。読者などが寄せた平和へのメッセージを、7色に塗り分けて載せ、遠目から見ると虹が浮き出る仕様とした
2015年8月9日に発行された、ラッピング広告。読者などが寄せた平和へのメッセージを、7色に塗り分けて載せ、遠目から見ると虹が浮き出る仕様とした 出典: 長崎新聞社提供

そして昨年8月9日には、更に斬新なデザインの広告を企画します。長崎市内にある、平和公園の石畳の写真を、二面にわたって大きく掲載したのです。

公園では例年、同日に平和祈念式典が開かれてきました。しかし新型コロナウイルスの流行を受け、昨年は規模を縮小することに。会場に行けない人々も自宅の床に紙面を敷き、その上で黙禱(もくとう)を捧げてほしいとの願いを込めています。

「祈りの場を作ってもらえて、涙が流れた」。福岡さんたちのもとには、読者から感謝の声が届いたそうです。こうした経緯が、今回の広告の誕生につながりました。

「平和公園や、長崎原爆資料館に足を運べない人にも、日常の尊さを感じてもらうための手助けができる。そういった点が評価され、28もの企業にも協賛して頂いています。非常に繊細なテーマながら、力を貸して頂けるのは、本当にありがたいことです」

長崎市にある、平和公園の石畳が印刷された広告
長崎市にある、平和公園の石畳が印刷された広告 出典: 長崎新聞社提供

「平和は空気のようなものではない」

大人はもちろんのこと、子どもたちにこそ見てもらいたい。今回の広告には、そのような願いも込められています。

「点」を活用した紙面のほか、広島・長崎の原爆と、戦後開発された核爆弾の爆風をイラスト化し、威力を比較できる図なども掲載。このような情報から、戦争を知らない人々にも、その恐ろしさに思いをはせてほしいと、福岡さんは考えています。

「特に今の小学生には、被爆者の生の証言を聞けていないお子さんも、少なくありません。だからこそ、客観的なデータを盛り込みました。誰でも当時の様子を理解し、伝え合えるからです」

「そこに語り部の方の声が加われば、更に効力が高まると思います」

今後は長崎市内の小学校に広告を持参し、考えたことや感じたことについて、話し合ってもらう時間をつくるそうです。また県内の全小学校を対象に、広告を提供し、ポスターのように貼り出してもらう取り組みも想定しているといいます。

老若男女を問わず、広告が受け入れられたことについて、福岡さんは次のように話しました。

「平和は空気のようなものではなく、意識しないとつくることができません。そう実感して頂けたなら、これほどうれしいことはありません」

「戦争がない時代に生まれた者として、これからも、戦争体験者と今の世代とを結びつけたいと考えています」

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