「空間除菌」は人への有効性や安全性が未確立で、特定の感染症と結びつけて宣伝できないにもかかわらず、“新型コロナウイルス対策”と受け止められかねない情報が広まるおそれがあります。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
国立競技場に実際に納入
カルテック社は2020年10月に「理化学研究所の協力のもと、日本大学医学部と共同で」行った実証実験において、同社製品に使用される光触媒の技術について、実験環境での新型コロナウイルスの感染力抑制効果を確認したと発表しています。
ただし、これはあくまでも幅60cm・奥行40cm・高さ50cmの実験環境における効果であり、人の生活環境での有効性を示すものではないことは、同社もプレスリリースに明記。
今回、あらためて同社広報担当者に「新型コロナウイルス対策として使用できるのか」と質問すると「実使用環境での効果を示すものではありません」と断りを入れた上で、上記の実験結果を紹介する回答がありました。
一方で、国立競技場に納入されたのは同社の大空間用タイプの製品で、同社はこの製品について「コロナ禍で大空間におけるウイルス感染拡大防止に対する空間除菌のニーズの高まりを受け」発売するものとしており、新型コロナウイルスと関連づけて説明しています。
このことについて同社の広報担当者は「薬機法や景品表示法など法規等の定めに従い、記載しています」と説明します。しかし、医療機器でない製品を特定のウイルスと結びつけて宣伝すれば薬機法に抵触するおそれがあります。
そのことを指摘すると、「しかるべき機関からご指摘があれば、早々に修正などの対応を図る所存です」という回答でした。
もちろん、製品が新型コロナウイルスに効果があるとはっきりと宣伝されてはいません。
しかし、実証実験の結果と一緒に、「コロナ禍」の「空間除菌ニーズへの高まりを受け」と製品を紹介することで、消費者は空間除菌が生活環境での「新型コロナウイルス対策」として効果があるように誤解してしまう可能性があります。
スポーツ庁が「空間除菌」
より正確に言えば、新型コロナウイルス対策を標ぼうできるのは医薬品や医療機器だけであり、それ以外のものは家電や雑貨である以上、特定のウイルスに効果があるとうたう宣伝は薬機法に抵触するおそれがあります。
逆に、メーカーは効果があると思わせるように、薬機法に抵触しない範囲で宣伝に工夫を凝らしている実態があります。
そんな空間除菌を、スポーツ庁が「新型コロナウイルス対策」として打ち出す、という出来事がありました。
朝日新聞デジタル 5/15
https://digital.asahi.com/articles/ASP5G53Y1P56ULEI001.html
同庁は令和2年度の第3次補正予算で「国立競技場等における新型コロナウイルス感染症対策」として20億円を計上し、方法に「空間除菌等」を含めていました。
この予算はオリンピックを含む期間中に執行され、所管の独立行政法人で国立競技場を管理・運営する日本スポーツ振興センターが国立競技場の会議室などに空間除菌をうたう複数台の空気清浄機を設置し、総額は数十万円規模になるとのことでした。
同庁の担当者は記者の取材に、検討途中で厚労省などが空間除菌を推奨していないと気づき「空間除菌に対する認識が甘かった」ことを認めた上で、空気清浄機の設置については「できるだけ換気をすることは必要だと考えた」と回答しています。
日本スポーツ振興センターを取材すると、前述の「除菌脱臭機」が令和2年度の第3次補正予算で購入されたものであると認めました。しかし、購入金額については非公開とのことでした。
「除菌脱臭機」の導入の理由は、新型コロナウイルス対策をするときに「諸室の利用形態によっては、ドアを大きく開放することが難しい場合もあるため、空気清浄機の導入により、換気機能の向上を図ることを考え」たとし、目的はあくまでも換気機能の向上であると説明しています。
メーカーは納入実績をPR
オリンピックで世界的にも注目される国立競技場と自社の「除菌脱臭機」の写真を並べた形のプレスリリースで、納入実績をPRするカルテック社。
朝日新聞の取材に、カルテック社は同社側からの製品紹介があり、今回の納入に至ったと説明。「本製品におけるウイルスや菌、においなど有機物を分解する性質をもつ光触媒を応用しているという仕様が、JSC(※日本スポーツ振興センター)様の導入目的と合ったものと考えています」とします。
一方で、スポーツ庁や国立競技場は「空間除菌」ではなく、「換気」が目的であると説明しています。
このように、スポーツ庁や国立競技場とメーカー側との認識がすれ違ったまま、メーカー側のPRが始まっているのが現状です。