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#109 #父親のモヤモヤ

母子手帳は「親子手帳」じゃだめ? 記事に反響、記者が考えたこと

様々なデザインの母子手帳
様々なデザインの母子手帳

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。

「母子手帳」を、「親子手帳」と呼ぶ自治体が増えています。

そんな記事を書いたところ「母子の健康のためにあるのだから、難しく考えすぎ」「父親としては、『母子』だと仲間はずれみたいでちょっとさみしい」など、賛否両論の大きな反響がありました。

母子手帳は、なぜ作られたのでしょう。その役割は……? どんな名称がしっくりくるか、一緒に考えてみませんか。
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「子育ては母親」に違和感

取材のきっかけは、6月下旬にさいたま市議の三神尊志さん(40)がツイッターで、「母子手帳を親子手帳に変更してはどうか」と市議会で提案したとつぶやいていたことでした。

三神市議は3歳の長男を育てており、健診や予防接種で母子手帳を使っていますが、「母子」という言葉が「母だけが妊娠・出産、子育ての主体」であるかのように感じ、気になっていたといいます。

同じ会派の市議にこのことを相談したところ「そういう視点は大事だよね」と賛同を得られたため、6月の議会で提案することを決めたそうです。

三神市議は、母子手帳の母と子の健康を守る役割は大切に思っています。

ただ、父子家庭や養子、里子を迎えている家庭など様々な家族の形があることをふまえ「『親子』であれば、母だけでなくいろんな家族を含む。社会状況が変わる中で、名称も時代に合わせていく必要があるのでは」と話します。

さいたま市では三神市議の提案を受け、「母親だけでなく、父親や家族を含めて活用する視点を持ち、来年4月から配る手帳に親子手帳と併記するよう検討している」とのことでした。

私自身、いま子育て中なので母子手帳は日々使っていますが、名称について気になったことはこれまでありませんでした。

でも三神議員を取材してみると、「母子」でなければ困る理由はなく、「親子」でもいいのではないかと感じました。

妊娠中に持ち歩いていたのは確かに母親である私ですが、子どもが産まれた後の方が使用期間としては長く、親子で使うものとも言えるからです。

岡山市では20年前から「親子手帳」

岡山市は20年前から「親子手帳」と表記しています
岡山市は20年前から「親子手帳」と表記しています 出典: 岡山市提供

他の自治体はどうなのか気になり調べてみると、岡山市は20年前、2001年に「親子手帳」の名称を採用していたことがわかりました。男女共同参画社会を推進するためだったといいます。

他にも、愛知県小牧市、那覇市、福島県いわき市など、「親子手帳」を採り入れているところは決して少なくないことがわかりました。表記は「母子(親子)手帳」「親子(母子)手帳」など様々です。

自治体によっては、検討に数年かかったところもありました。

昨年から「親子手帳」を併記している東京都江戸川区では、以前から議会や職員の間で話題になっていましたが、「母子手帳の方がなじみがある」との意見もあり、職員らで検討を重ねたそうです。

最終的に「今後の社会の変化を考え、家族みんなが受け入れやすい名称を」と併記を決めたといいます。

母子手帳は、正式には母子保健法で「母子健康手帳」と呼ばれています。ただ、そう呼ばれているだけで名称が規定されているわけではないので、自治体が実情に合わせて柔軟に対応しているのが現状です。

1950年に発行された母子手帳。表紙にコウノトリが描かれています
1950年に発行された母子手帳。表紙にコウノトリが描かれています 出典: 板東あけみさん提供

多様化する役割

こうした経緯を記事にしたところ、ツイッターで一時「親子手帳」がトレンド入りするなど、SNS上で様々な反応がありました。

「親子手帳」に賛同する声のほか、「保護者手帳」「子ども手帳」など他の名称の提案も寄せられました。また、妊娠~出産までの母子の健康を守るという意味での母子手帳と、子育ての記録としての「子育て手帳」と役割を分けて2冊配布してはどうかという意見もありました。「父子手帳」を配れば良いとの意見も届きました。

一方、「母と子の健康を管理するためなのだから母子が良い。父親の健康状態を書くわけではないのだから、役割を理解していないのでは」という声も。
 
確かに、母子手帳には妊娠中の経過や赤ちゃんの体重、身長、予防接種の記録などを記入する項目があり、「母子の健康を守る医療記録」としての大きな役割があります。ただ、赤ちゃんを迎える両親の気持ちや成長の様子を書く欄や、子育てに必要な知識が書いてあるページもあり、国の母子手帳の活用手引には「家族の子育ての記録、子育て支援ツール」とも書かれています。

母子手帳が生まれた約80年前は、母子ともに死亡率が高かったため健康を管理する目的で作られましたが、今は役割が多様化しています。

1950年発行の母子手帳には、「配給物資記事欄」があります。ガーゼ、砂糖などが配給されたと記録されています
1950年発行の母子手帳には、「配給物資記事欄」があります。ガーゼ、砂糖などが配給されたと記録されています 出典: 板東あけみさん提供

さらに、記入欄は基本的には6歳までですが、20歳まで書き込める自治体もあり、使用期間は妊娠期や産前産後だけでなく長期にわたります。父子家庭や祖父母が育てている家庭などもあり、手帳を使うのは「母子」に限りません。

自治体によっては母子手帳とともに独自の「父子手帳」を作り配っているところもありますが、子どもの成長の思い出を書いたり子育てへのアドバイスが載っているものが主で、子の予防接種や健診に必要な記録をするための母子手帳とは異なります。

名称をめぐる議論の論点を整理すると、

・誰がメインで使うと考えているか
・健康管理や子育ての記録など、役割として何を期待しているか

の大まかに2点が背景にあるように感じました。どちらかというと父親から「親子手帳」に賛同する声が多く、父親の育児休業の取得率も少しずつ上がっていることなどから、名称が話題になるというのは「父親が子育てをする姿が当たり前になってきていることの裏返し」なのかもしれません。

ツイッターでは、こんなつぶやきもありました。

「母子手帳を持って子どもと健診に行き、子育て支援センターでは職員の『お母さんと一緒に~』という声掛けに反応し、『ママさんへ』と書かれたお便りを読み、『お母さん食堂』で食事を作るけど、私はお父さん」

昨年末、ツイッターにこう投稿したのは都内在住の男性(36)です。つぶやきには、約2万件の「いいね」がつきました。

男性は0~6歳の3人の子どもを育てています。今は育児休業を取得中で、子どもたちの食事や赤ちゃんのミルク作りをする傍ら、洗濯や掃除などの家事も担っています。

これまで、予防接種や健診で「母子手帳」を持ち歩くたび「子育ては母親が担うことが前提になっている」と感じられて違和感があったそうです。

「母子の健康を守る」という点は重要だと思う一方、名称は変わってほしいと考えています。「名称が変われば、父親が、母親の妊娠時から母子手帳を通じて母体の変化に関心を持ち、子育てを身近に感じ関わっていけるきっかけになるのではないでしょうか」と言います。

母子手帳は誰のもの?

専門家はどうみているのでしょうか。

海外で母子手帳の普及などに取り組む国際母子手帳委員会の板東あけみ事務局長(69)は「お父さんの健康状態を書くわけじゃないから母子手帳でしょ、というのはある意味、正論です。でも、家族が協力して子育てをするのだから、親子でもいいのでは。大事なのは、有効活用することです」と話します。

以前は母親が、母子手帳をへその緒と一緒に大切に仏壇にしまっておくこともあったといいます。

ただ、子どもが成長した後の基本的な使い道としては、海外に行く時に予防接種を受けたかどうかの記録を確認する、自分の子どもの時の記録を見るなどで、「使う主体は子ども」です。

「母子手帳は子どものもの、という視点が大切です」

自治体や個人が作った「父子手帳」
自治体や個人が作った「父子手帳」

名称が映すものは

記事を書いた後、これほど多くの方が関心を寄せて下さるとは思わず、とても驚きました。「名称は大して重要ではない、もっと子育てに関して議論すべきことがある」という意見もありましたが、私自身も名称そのものというミクロな視点で議論を考えているわけではありません。

名称には、子育てをめぐる社会のありようや家族観、価値観が自ずと反映されます。

現状として「親子手帳」を併記する自治体が増えているということは、そうしたものが変容していることの表れであり、なぜ変容しているのか時代の流れや空気感を知りたい、読者の方々と一緒に考えたいと思って記事を書きました。

ぜひ多くの方に議論してもらえたら嬉しいと感じています。

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