連載
校閲にとっての〝最優先事項〟 「元」か「現」か…肩書あるある
「鉄のカーテン」に気をとられ〝やらかす〟
会社の役職から、夫婦関係や恋人関係のカタチまで。人の肩書や属性は、他人のあずかり知らぬ間に変わっていることが、よくあります。校閲記者にとって原稿中に登場する肩書は、最優先の点検事項。ましてや公人・要人については言うまでもありません。「今もそうなのか、ちょっと前までそうだったのか。ええ~、ずいぶん前から変わってたの!?」。新聞社の校閲の日常をまんがといっしょにお届けする「こうえつ堂」。今月は「1文字で全然違う、肩書あるある」です。(朝日新聞校閲センター記者・丹羽のり子)
〝やらかして〟しまったのは、英国の往年の政治家、ウィンストン・チャーチルの肩書です。朝日新聞の朝刊1面のクイズ欄。ここに「1946年に英国のチャーチル首相が演説で欧州の分断を表現した有名な言葉は何?」という問題が載ったときのことです。
答えは「鉄のカーテン」。ところが、この解答に気をとられてしまったためか、問題文のほうに見落としが。実はチャーチルはこの演説をしたとき、首相ではなかったのです。
戦争には勝ったが、選挙で負けた――。1945年7月にあった総選挙で労働党に勝利を奪われ、まさかの野党転落。ふたたび首相に返り咲くのは、1951年のことでした。
つまりクイズの問題文は、正しくは「チャーチル『元』首相」でなければならなかったのです。チャーチル+有名な言葉、という組み合わせから、当時、首相だったかどうかの確認がおろそかになってしまいました。
記者から上がってくる原稿に潜む肩書の落とし穴、実は少なくありません。▽その時はその職名や地位ではなかった▽古い略歴のまま▽古い写真の説明文で間違えた、などなど。
特に4月の年度替わりは幅広い組織が新体制に変わるタイミング。ここで肩書が変わっていないか、注意が要ります。
選挙といえば、東京オリンピック・パラリンピックが終わったら、秋には衆院解散・総選挙があります。各選挙区・比例区の立候補予定者の「現職」「前職」「元職」「新顔」の違いには、よく気をつけて点検しなければいけません。
校閲記者にとっては「一事が万事」ならぬ「一字が万事」。何重ものチェックの目をかいくぐろうとする〝間違いとのバトル〟です。どんなところに潜んでいるやら、今日も闘いは続きます。
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