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「将来に残るものを」五輪記念のペルシャじゅうたん、描かれたのは

東京五輪記念のペルシャじゅうたんのお披露目。全ての縦糸を切ると全体が現れる=7月27日、東京・南麻布のイラン大使公邸。藤田撮影
東京五輪記念のペルシャじゅうたんのお披露目。全ての縦糸を切ると全体が現れる=7月27日、東京・南麻布のイラン大使公邸。藤田撮影

目次

精密な鮮やかさで知られるイランの伝統工芸、手織りのペルシャじゅうたん。東京五輪を記念した作品の除幕式があり、取材に行ってきました。過去のサッカーW杯を中心に様々なスポーツじゅうたんの世界が広がる会場で、登場した主役のデザインは…(朝日新聞編集委員・藤田直央)

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過去のW杯もテーマに

7月27日の夕方、東京・南麻布のイラン大使公邸。玄関の受付に頭からスカーフをまとった女性たちが並びます。マスクの確認と検温を終えて会場のホールへ進むと、壁際に並ぶ十数枚のじゅうたんが来客を迎えていました。

東京五輪記念のペルシャじゅうたん除幕式の会場では、過去のスポーツ国際大会をテーマにしたじゅうたんも展示された=7月27日、東京・南麻布のイラン大使公邸。藤田撮影(以下同じ)
東京五輪記念のペルシャじゅうたん除幕式の会場では、過去のスポーツ国際大会をテーマにしたじゅうたんも展示された=7月27日、東京・南麻布のイラン大使公邸。藤田撮影(以下同じ)

最初に目を惹かれたのが、高さ2メートルを超える3枚の作品です。

いずれもサッカーW杯を記念したもので、2002年の日韓共催大会を真ん中に、左右に18年のロシア大会。日韓大会の作品はスタジアムや各国の国旗がちりばめられたポスター風ですが、ロシア大会の作品ではロシアの名所旧跡を写真のように折り込み、ペルシャじゅうたんでおなじみの、草花が絡み合う上下左右対称のパターンに囲まれています。

サッカーW杯の2018年ロシア大会や2002年日韓大会を記念した計3枚のペルシャじゅうたん
サッカーW杯の2018年ロシア大会や2002年日韓大会を記念した計3枚のペルシャじゅうたん

いずれも細密で、優勝トロフィーの立体感など手織りとは思えないほどです。ロシア大会の2枚は制作に半年かかったそうです。

2018年のサッカーW杯ロシア大会を記念したペルシャじゅうたんのアップ
2018年のサッカーW杯ロシア大会を記念したペルシャじゅうたんのアップ

次に目にとまったのが、サッカーアジア大会の2015年オーストラリア大会記念の作品でした。現地の野鳥や草花がこちらは抽象化され、対称のパターンも崩して入り組んで描かれています。

さらにそのデザインを生かしたドレスも隣に置かれていました。これら数点を見ただけでも、伝統技術の高さに支えられたペルシャじゅうたんの奥の深さと広がりが伝わってきました。

2015年のオーストラリアでのサッカーアジア大会を記念したペルシャじゅうたんと、同じデザインのドレス
2015年のオーストラリアでのサッカーアジア大会を記念したペルシャじゅうたんと、同じデザインのドレス

じゅうたんは「文化大使」

会場を眺め歩くうちに、東京五輪記念じゅうたんの除幕式が始まりました。まずラフマーニ駐日大使が挨拶し「この事業は、世界の諸民族の団結と平和の確立という五輪の精神にイランの人々が共感していることを示しています」と語りました。

私はまさにこのホールで2年前、大使の記者会見に出たことを思い出しました。当時はイランの核開発を止めるための国際合意から米国が離脱し経済制裁を再開していたため、大使はトランプ大統領を厳しく批判。対立は今も尾を引いており、この平和的な除幕式とのギャップを思いました。

次に、東京五輪で来日したサーレヒ・イランオリンピック委員会会長が「イランと日本の関係はシルクロードの時代まで遡り、奈良の正倉院には古代ペルシャのガラスの器などの宝物が収められています。伝統的な友好関係がスポーツを始めあらゆる分野で発展することを願います」と挨拶しました。

イランのサーレヒ・オリンピック委員会会長(左)とラフマーニ駐日大使
イランのサーレヒ・オリンピック委員会会長(左)とラフマーニ駐日大使

ペルシャじゅうたんはイランと世界を結ぶ「文化大使」だと、二人はともに紹介しました。確かに会場には、2018年W杯ロシア大会を記念して日本など出場国に送られたじゅうたんも数枚展示されていました。

2018年のサッカーW杯ロシア大会への日本出場を記念し、日本サッカー協会に送られたペルシャじゅうたん
2018年のサッカーW杯ロシア大会への日本出場を記念し、日本サッカー協会に送られたペルシャじゅうたん

いよいよ東京五輪記念じゅうたんのお披露目です。イラン北西部の都市タブリーズで織り子さんが8カ月かけて作ったという3枚のうち1枚が、日本オリンピック委員会に贈られました。下の動画の一つ目です。

実はこの直前に「本番」のお披露目がありました。それが上の二つ目の動画です。この記事の冒頭の写真から続く場面ですが、じゅうたんの上下を輪のようにつなぐ縦糸を鋏で切ると、全体が現れるのです。では注目のデザインは…

東京タワーの左右に鳩

アップではこの通りです。五輪と東京タワーの左右に鳩が羽ばたき、絡み合う草花に囲まれています。タワーを見上げる構図で立体感を出しており、顔を寄せて見ても全く粗さを感じませんでした。

東京五輪記念ペルシャじゅうたんのアップ
東京五輪記念ペルシャじゅうたんのアップ

この東京五輪記念を含め、会場に並ぶじゅうたんを製作してきたのは、日本でペルシャじゅうたんの輸入と販売をするサンアイカーペット(千葉県柏市)。社長でテヘラン出身のアデル・ゲイビさん(56)に、除幕の後で話を聞いてみました。

スポーツの国際大会をテーマにしたじゅうたんは、1998年のサッカーW杯フランス大会で初めて作り、以降W杯やアジア大会といったサッカーのイベントのたびに制作。五輪で作ったのは今回が初めてだそうです。

東京五輪記念のデザインについて聞くと「やっぱり東京のシンボルは東京タワーでしょ。平和のシンボルの鳩を入れることにもこだわっています」。そういえば、先に写真で紹介した2018年W杯ロシア大会のじゅうたんにも鳩がいました。

東京五輪記念ペルシャじゅうたんを製作したサンアイカーペットのゲイビ社長
東京五輪記念ペルシャじゅうたんを製作したサンアイカーペットのゲイビ社長

現地の手織り仕事へのコロナ禍の影響を聞くと、「大変あります。織り子さんの家に糸やデザイン案を持っていく人の行き来が難しくなっていますから」。それでも「こういうものが将来に残るんですよ。日本の博物館や美術館に飾ってもらえればという気持ちで作っています」と話しました。

駐日イラン大使館の人から「大使館にもじゅうたんがあるのでぜひ見ていってください」と言われました。にぎわう大使公邸を後にして、壁にイランの名所旧跡の絵が並ぶ坂を少し下ると、モダンな建物の大使館がありました。

東京・南麻布の駐日イラン大使公邸から大使館へ下る「薬園坂」=7月27日。藤田撮影(以下同じ)
東京・南麻布の駐日イラン大使公邸から大使館へ下る「薬園坂」=7月27日。藤田撮影(以下同じ)

玄関から階段を降りて振り返ると、ひっそりとしたホールの壁に大きなじゅうたんが掛かっていました。細密な彩りの模様が連なる伝統美が、柔らかい照明に浮かび上がっていました。

東京・南麻布にある駐日イラン大使館のホール
東京・南麻布にある駐日イラン大使館のホール
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