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バッハ会長「13分間スピーチ」に七つの改善点 プロの視点で分析

「雰囲気が良い言葉の飽和状態」

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長=2021年7月17日、諫山卓弥撮影
国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長=2021年7月17日、諫山卓弥撮影

目次

東京オリンピックの開会式で、13分間に上るスピーチが「長い」と揶揄された国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長。スピーチは英語でしたが、日本語訳を元に「違和感の正体」を分析したスピーチライターがいます。「感謝の言葉が多すぎたため聴衆が飽きた」「雰囲気が良い言葉の飽和状態」など七つの指摘に、SNSでは「分かりやすい」「ためになる」といった反響が広がっています。

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原稿全文を細かく添削

「オリンピック開会式のバッハ会長のスピーチ、『長かった』との感想を多く目にしました。みなさんの違和感の正体が、スピーチのどのような技術に由来するのか、スピーチライターの視点で分析してみました」

こうした文言とともにスピーチの添削をTwitterやFacebookに投稿したのは、スピーチライターの千葉佳織さんです。

千葉さんは、15歳のときに弁論に出会い、高校・大学の全国大会で3度の優勝。新卒で入社したDeNAでは、社内でスピーチコンサルタントとしての仕事を立ち上げました。2019年にスピーチライターとして独立し、スピーチの学校「GOOD SPEAK」を運営。代表として、政治家や企業に対してスピーチのトレーニングをしています。
 
千葉さんは、NHK NEWS WEB が配信したバッハ会長のスピーチ全文を元に添削をしました。205の国・地域と難民選手団選手たちの入場行進を終え、大会組織委員会の橋本聖子会長のスピーチに続いて登場したバッハ会長。13分間に及んだスピーチには、「話が長いのは嫌だという世界共通の苦痛でトレンドが染まった」と話の長さを揶揄する声が相次ぎました。
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千葉さんは開会式をリアルタイムで見ていませんでしたが、翌日に学校のスタッフからスピーチの話題を聞き、受講生からは「演説の分析をしてほしい」という要望が。

過去には政治家の演説を分析していたこともあり、今回も動画と日本語訳を照らし合わせると「改善すべきポイントはすぐに見つかりました」。さながら、受講生の原稿を添削するように赤字が入り、指摘は7カ所に上りました。

①感謝の言葉が多すぎたため聴衆が飽きた

「今回のスピーチの最大の特徴です」と千葉さんが強調したのが、感謝や激励の言葉の多さでした。

「感謝の言葉は、数が多ければ良いものではありません」と千葉さん。感謝の言葉は、ハイライトの場面に絞って使うと、聴いている人の記憶に残りやすいと説明します。

②内容の役割分担が必要だった

バッハ会長が東日本大震災からの復興について語ったシーンを千葉さんは「橋本会長の直前のスピーチと『内容被り』があった」と指摘しました。

話し手が連続する場合、すでに前のスピーチで語られた内容は「くどい印象をつくります」と言います。「この部分は、バッハ会長が話すよりも、日本を代表して橋本会長が話したほうが説得力があります」と付け加えました。

千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供
千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供

③メリットがない原稿構成

バッハ会長のスピーチは英語で行われましたが、中盤に「東京2020オリンピック大会を開催できるのは、日本の皆様のおかげです。心から感謝しています」と日本語で語りかけた場面がありました。

千葉さんは「『スピーチが終わる』と聴衆が錯覚してしまった」と指摘。SNSでも「しんどかったのは『終わった?』と思ったら続いた時」といった反応がありました。原稿の構成には「意味」が必要だと千葉さんは説きます。「特別な言語を使って話す場合、基本的には冒頭・終盤が効果的です」

④本大会でしか言えない言葉が少ない

「スピーチはリアルタイムで行うもの。『その日』『その場所で』話す意味がある内容を入れることができると、ひきつけるスピーチにつながります」と話す千葉さん。新型コロナウイルスによる開催の難しさは、今大会ならではの話題でしたが、「バッハ会長だからこそ言える言葉が少なかったのでは」と言及しました。

千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供
千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供

⑤雰囲気が良い言葉の飽和状態

スピーチの中盤でバッハ会長は社会の中、社会間での一層の連帯が必要だと訴えます。連帯については「助け合い、分かち合い、思いやることを意味します」と重ねました。

このメッセージに対し「響きの良い言葉で飽和している印象を受けました」と語る千葉さんは、「重要なキーワードの説明が不十分」と言い切ります。

「もう一段階、定義やアクションについて踏み込むと論旨の深みにつながります。前向きな雰囲気を優先した結果、全体が抽象的になってしまいました」

⑥論旨の厚さと時間がアンバランス

バッハ会長のジェスチャーや視線の配り方、話し方は明瞭だった一方、「論旨の厚さとスピーチ時間がマッチしていないことが、聴衆の飽きにつながった」と結論づけた千葉さん。13分という時間であれば「確かな起承転結」が必要なところ、シンプルな構成だったことから「4分程度が望ましかったと考えます」と分析しました。

千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供
千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供

⑦すでに聴衆の集中力が切れている

これまで六つのポイントを指摘した千葉さん。ようやくスピーチも終盤に入り、ラストは希望をともすような言葉が並べられましたが、「聴衆の集中力はなくなっていました。『終わりよければすべてよし』ではありません」。終盤まで聴き手の集中力が続く「配慮」が大切だと強調しました。

配慮とは「全体の構成に意味をもたせること、無駄を省きわかりやすくすること」だと言います。「独りよがりにならない原稿が大切です」とバッハ会長のスピーチ分析を締めくくりました。

千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供
千葉さんが投稿したスピーチの分析=本人提供

批判ではなく、生かせる点を意識

スピーチの改善点はすぐに見つかったという千葉さんですが、投稿する際にどういう言葉で伝えるかは頭を悩ませたと言います。それは、単に「話が長かった」で終わるのではなく、スピーチやプレゼンをする機会がある人へのアドバイスになるよう心がけたからでした。

「話し方や伝え方は才能に左右されるわけではなく、真剣に考えた分だけ技術は向上すると思っています。今回も批判するのではなく、読んだ方が自分でも生かせる部分があるということを伝えたくて投稿しました。もっとこの分野に関心をもって、多くの人が学べる世界になればいいなと思っています」

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