連載
#4 #コミュ力社会がしんどい
演じ続けた「害のない良い子」漫画家を悩ませた〝女の子らしさ〟の罠
処世術が招いた「大きな代償」
子どもの頃のゆめのさんは、空想が大好きな少女でした。暇さえあれば、自分の世界に入り込んでいる。手のかからない様子が、「女の子らしい」と捉えられたことも、少なくありません。
そうした態度には、家族や保育園の先生など、周囲の大人からの声かけが影響していました。
「女の子は控えめな方がいいのよ」「女の子なんだからおしとやかになさいね」。そう言われるたび、「女の子らしくしていれば怒られない」と理解していったのです。
学校でも、なるべく目立たず、いつもニコニコ笑う日々。「ゆめのさんって、家でおはじきとかやってそう」。クラスメートの評価に接するたび、「やってないよ!」と心の中で抵抗するのが精いっぱいでした。
ある日のことです。教室清掃の時間に、同級生の男子たちが、まじめに仕事をしません。女子たちが文句を言うと、悪態をつきつつ、こう返しました。
「ゆめのさんみたいに黙ってやってろよ!」
できるなら、もっと自分を表現したい。でも「変な子」と思われ、仲間はずれにされるのは嫌だ……。ゆめのさんは、葛藤をおくびにも出さず、また笑顔の仮面で本音を隠します。
過剰な〝女の子らしさ〟に頼り、「害のない良い子」を演じるのは、彼女なりの処世術だったのです。
成長しても、ゆめのさんの振る舞いは変わりません。周りの目を気にしながら、どんなことがあっても、はにかんでやり過ごします。反面、他人と深く交われず、悩むことも増えていきました。
気持ちと行動との間の距離に悩んでいたとき、一冊の本を手に取ります。個人の不安について解説する内容です。読み進めていくと、こんな一節に、目がくぎ付けになりました。
「わかる!」。そしてゆめのさんは、はたと気付きます。女性はおしとやかで、慎み深くあるべき――。世間で広く共有されている、そんな考え方によって、自分自身を縛り付けていたのかもしれないと思い至ったのです。
一方、少女漫画や女性向け雑貨は、胸を張って好きだと言えました。なぜならば、自らの意志によって、望んで選択したものだから。外部から無理やり擦り込まれたり、押しつけられたりしたわけではなかったのです。
自分を苦しめる価値観を抱き続けるのではなく、自分を豊かにする〝らしさ〟だけを、大切にしていきたい。ゆめのさんは、そう考えるのでした。
ゆめのさんは今回のエピソードについて、内向的な性格と、一般的な女性像とが、不幸な形で結びついてしまった結果と語りました。
外で遊ぶよりも、家の中で一人遊びをしたり、空想にふけったりする方が好き。そうしたマイペースさと、「物静かで謙虚」などのイメージが混同され、行動の自主規制へとつながっていく――。そのような構造を持つといいます。
「私の場合、個性を抑圧するストレスが〝女の子らしさ〟に隠れているのに、適切に解決できず苦しんできました。その意味で、本来活発でありたい女性が、世間が求める〝女の子らしさ〟に縛られ本来の力を発揮できない、という事例とは少し異なります」
ただ形は違えど、ジェンダーバイアスによって、生きづらさを感じる点は共通しているとも言えます。性別を問わず、誰しもが直面しうる問題と、どう向き合うべきか。ゆめのさんは、次のように語りました。
「〝女の子らしさ〟の中には、私が好きなものもいっぱいあります。『周囲に同調するため選択した女の子らしさ』と『自分から望んだ、自分を豊かにしてくれる女の子らしさ』。線引きは難しいけれど、その違いに気付き、見極めることが大切になりそうです」
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