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連載

#2 コウエツさんのことばなし

企業のキャラの名、ジェンダー配慮する時代に 講談社文庫の舞台裏

「4文字」に社員100人の知恵を結集

講談社文庫の新キャラクターのしおり
講談社文庫の新キャラクターのしおり

目次

ちょこんと座って、つぶらな瞳で本を読みふけるシロクマ。最近、書店でこんな姿を見かけませんでしたか? Suicaのペンギンやチーバくんで知られる、イラストレーターの坂崎千春さんが手がけた講談社文庫の新キャラクターで、名を「よむーく」というそうです。不思議な響きが気になり出版社に由来を尋ねてみると、シンプルにも見えるネーミングの舞台裏に、実は100人以上の社員が関わる壮大なプロジェクトがありました。(朝日新聞校閲センター記者・森本類)

#マスニッチの時代
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あの人気キャラ、名前の由来は……

地域を元気にする「ご当地キャラ」に、企業や商品を世に広めるマスコットキャラ、ゲームや漫画の世界から飛び出したキャラクター……。ふと見渡すと、世の中には愛らしいキャラクターがあふれています。テレビで、スマホで、街なかで。その姿を見ない日のほうが少ないかもしれません。

キャラクターたちの名前には、さまざまな思いが込められています。熊本県の「くまモン」は、地元の人を指す方言「熊本者(もん)」から。NHKの「どーもくん」は、あいさつの「どうも」が、場面に応じて「おはよう」「こんにちは」「さようなら」「ありがとう」「ごめんなさい」と表現できる便利な言葉であることから名付けられました。

プロ野球・ヤクルトの「つば九郎」は、日本一を果たした翌年の1994年に全国からの公募で決定。ツバメの別称「つばくろ」と、野球の「9回」「9人」が由来だそうです。当時の朝日新聞スポーツ面によると、「つば」ぜり合いに強い野球をし、「苦労」しながら日本一を目指す……といった意味も込められているのだとか。

キャラクターの数だけ、名付けのドラマがあるのかもしれない――そう思い、最近気になったキャラクターについて取材してみました。

ビッグくまモンと同じポーズをとる本物のくまモン。奥に見えるのはくまモン合唱隊=熊本県八代市新港町1丁目
ビッグくまモンと同じポーズをとる本物のくまモン。奥に見えるのはくまモン合唱隊=熊本県八代市新港町1丁目 出典: 朝日新聞

講談社「よむーく」誕生の舞台裏

この春に生まれたばかりの、講談社文庫の「よむーく」。シンプルながら不思議な響きが印象的ですが、どのように名付けられたのでしょうか。

講談社文庫は、1971年の創刊から今年で50年を迎えます。数年前、それに合わせてオリジナルキャラクターをつくろうという構想が持ち上がりました。ライバル社のような、読者に浸透した独自のキャラがいなかったからです。「オリジナルキャラクターは『憧れ』でした」と文庫出版部の堀彩子部長は語ります。

さて、どんなキャラにするか。議論が始まりました。

「講談社文庫の特徴である、カラフルな背表紙が生かせるキャラに」
「『講談社の○○』と一言で言えるよう、実在の動物にしては」
「同業他社とかぶらないよう、パンダや犬は避けよう」……

話し合いの結果、キャラは「シロクマ」にすることがまずは決まりました。

デザインは、Suicaのペンギンやチーバくんで知られる坂崎千春さんに依頼。ラフ画も届き、いよいよ名前の議論に移ります。文庫だけでなく雑誌や単行本などの編集部、さらには販売部や宣伝部にも呼び掛けると、100人以上から200ほどのアイデアが寄せられました。

ドイツ語の「本」から「ブーフ」。「北極星」を意味する「ポラリス」。キャラクターにつく文庫サイズの胸ポケットから「ぽっけ」……。講談社が江戸川乱歩賞を後援することから「エドガー」など、さまざまな視点からアイデアが寄せられました。

登録商標はもちろん、ネット検索で個人のサイトなども見て、すでに使われている名前でないかを確認。候補を絞り込んでいきました。最終候補に残ったのは、次の10個です。

ブーフ/ぽっけ/ポラリン/ポラン/こだぶん/ほんくま/シロロ/ましろん/よむーく/よむくま

カラフルな背表紙が特徴の講談社文庫=2021年5月25日、東京都豊島区のジュンク堂書店池袋本店
カラフルな背表紙が特徴の講談社文庫=2021年5月25日、東京都豊島区のジュンク堂書店池袋本店
出典: 朝日新聞

ジェンダー平等も意識したネーミングに

投票などを経て、晴れて「よむーく」に決まりました。「名付け親」となった販売部の山田健太郎さん(31)に由来を聞いてみると……。「イヌイットのことばでシロクマを意味する『ナヌーク』と、『読む』を掛け合わせました」。このことばを知ったのは、アラスカを舞台に写真を撮り続けた、星野道夫さんの写真絵本から。子どものころに好きだったその本が強く印象に残っていて、シロクマと聞いてまず「ナヌーク」が浮かんだのだそうです。

キャラクター開発を担当した文庫出版部の鈴木薫・副部長は、企画の当初から抱いていた思いを明かしてくれました。「日本語って『私』『僕』や『○○君』『○○ちゃん』で性別のイメージがついてしまう。それは避けようと思っていました」

講談社文庫の新キャラクター「よむーく」=同社提供
講談社文庫の新キャラクター「よむーく」=同社提供

「君」や「ちゃん」が付くキャラクターは少なくありません。例えば2011~20年に開催された「ゆるキャラグランプリ」では、1位になったキャラの半数が「君/くん」「ちゃん」付きでした。一方で近年、航空会社が「レディース・エンド・ジェントルメン」の機内アナウンスを「オール・パッセンジャーズ」などに切り替えたり、文具会社が性別欄のない履歴書を売り出したりと、ジェンダー平等や多様性に配慮する意識が高まっています。

講談社文庫はラインアップが幅広く、老若男女さまざまな人に読んでもらいたい。年代や性別を限定しない名前にしたかったと、鈴木さんは語ります。

気を配ったのは、名前だけではありません。完成形の「よむーく」には文庫本が入る胸ポケットがありますが、初期段階では、おなかにファスナーつきポケットがある案もありました。しかしこのデザインは「手術痕に見える」との意見もあり、「身近に大きな手術を経験した人がいる人は、どう感じるだろう」などと議論した結果、胸ポケットのほうを選ぶことにしたそうです。

より多くの人に覚えてもらい、愛されるためには――。答えのない問いを重ねながら、キャラクターは生み出されます。その生い立ちを知ると、愛着がいっそう深まるかもしれません。

 


新聞記事やネットニュースの点検にあたる校閲記者、通称「コウエツさん」。赤鉛筆片手に、間違い探しの毎日です。世の中には人々の言い回しから流行語、SNSまで「気になることば」がいっぱい。何げない疑問に答える「ことばのはなし」をお届けします。
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