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連載

#30 「きょうも回してる?」

「本当に釣れた」ガチの釣り具ガチャ コスト度外視でリアルこだわる

「バカだね」と言われても…魂吹き込む

小さい魚なら釣れるよう開発した「本当に釣れる!?ダイキャスト製!ミニミニつり具マスコット」=いずれも筆者撮影
小さい魚なら釣れるよう開発した「本当に釣れる!?ダイキャスト製!ミニミニつり具マスコット」=いずれも筆者撮影

目次

「商品に対する思い入れをメーカーが持っていないと、良いガチャガチャは作れない」。そうした想いを胸に、50歳直前で独立したガチャガチャの開発者がいます。自社で企画するのは、「何でこんなにコストをかけるの?」と言われる商品ばかり。理想へ妥協を許さない姿勢を、ガチャガチャ評論家のおまつさん(@gashaponmani)が取材しました。
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ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」

50歳を前に起業

「喜びを分かち合う」という企業ポリシーを持つ玩具メーカーのトイズスピリッツ。代表の西村圭太さんは「商品を手に取って頂いたお客様の笑顔が見たい。それが商品に携わる、私を含めた商品開発者や工場スタッフの思いです」と込めた想いを語ります。

西村さんは20年以上玩具業界に携わり、2018年に起業しました。そのとき、西村さんはもうすぐ50歳を迎えようとしていました。

日本政策金融公庫が発表した「2020年度新規開業実態調査」によると、開業時の年齢は40代の割合が38.1%と最も高く、次いで30代が30.7%を占めているなか、50代は19.7%と数字が下がります。

50歳近くになると、起業に踏み出すにはなかなかの覚悟が必要です。家族、ローン、技術の経験などを考えたら、踏みとどまる理由はたくさん見つかります。それでも、西村さんは踏み出しました。

開発者として譲れない想い

西村さんは前職で主に商品開発を担当したほか、中国工場で生産や品質管理など様々な経験を積んでいきました。

一般的な会社組織は、効率化を目指すために、分業制を取ります。そして商品を作る上でも、毎月商品が入れ変わるなか、安心・安全を確保できれば、開発者のこだわりが必要ない時もあります。

そうなると、商品開発者にとってはどうしても自由度が下がってしまうことがあります。これは経営者の視点から見ていくと、営業戦略上、売上を立てるためにも当たり前のことかもしれません。

ただ、西村さんはたくさんの玩具を開発するなか、自分が思うような商品が作れないというジレンマがありました。

「自分の商品を一人でも多くのお客様に手に取っていただきたい。そして触れてもらいたい。商品一つひとつに対して、情熱を持って取り組んでいきたい」

商品開発者として譲れない想いから、50歳になる直前で起業することを決意しました。

間口が広いガチャガチャ

「本当にミニチュアが大好きなんです」と嬉しそうに話す西村さんは、ガチャガチャビジネスの特徴をこう話します。

「おもちゃ売り場に遊びにくるお客様は目的が決まっています。それに対して、ガチャガチャの売り場は今やどこにでも見かけることができます」

「自分たちが作った商品に気づいてもらえる機会は、圧倒的に間口が広いです。そしてオリジナルは、良い商品を作れば購入していただいける確率が高い。ガチャガチャは売れるか売れないかの結果がリアルに分かります。だから、ガチャガチャで勝負したい」

魂を吹き込む

トイズスピリッツの商品は「何でこんなにコストをかけるの?」「バカだね、こんなの作って」と言われる商品群が多いそうです。

こうした疑問に対し西村さんは、「企業ベースで考えると、利益を追求していくだけでは良い商品を作るのが難しいです。利益と良い商品は相反するところがあります」としながらも、ものづくりへの想いを語ります。

「商品を作っていく時に、お客様目線や開発者目線で見ていくと、『この部分をもうちょっと工夫して、こういうものを付けたほうがいいんじゃないか』や『これを付けたほうが、かっこいいよね』いうものをどうしても追加してしまうんです。コストを度外視したものづくり。つまり、商品に対する思い入れをメーカーが持っていないと良い商品は作れないと思います」

「たがが玩具、されど玩具です。ガチャガチャ1個1個に魂を吹き込む。それは品質であり、ギミックであり、美しさなどを表現することにこだわる。そうしないと、愛されるメーカーにならないと考えています。お客様に愛される商品づくりをしていきたいです」

「1個1個に魂やこだわりを吹き込む」。そうした強い想いは、トイズスピリッツの社名にも表れています。

釣れる釣り具マスコットを

今回、紹介する商品はトイズスピリッツの人気シリーズの「本当に釣れる!?ダイキャスト製!ミニミニつり具マスコット vol.4 (以下、釣り具マスコット)」です。

ガチャガチャ業界で釣り具関係のものが少なかったことがきっかけになったと言う西村さん。「今は釣りブームとして、認知されましたが、釣りは大人のスポーツというイメージがあります。限られた人向けではなく、子どもから大人まで楽しめるもの、かつニッチなものと考えたときに、うちの技術なら本当に釣れる釣り具マスコットを作れるのではないか」と商品化を決めたそうです。

「本当に釣れる釣り具マスコットを作れるのではないか」と開発された
「本当に釣れる釣り具マスコットを作れるのではないか」と開発された

マスコットはタナゴサイズの小さい魚を釣れるように、実際のロッド(竿)とリールを徹底的に再現しています。プラスチックの構造のロッドでは強度が弱く、実際に釣れる道具にするために鉄の金型鋳造法のひとつであるダイキャスト製を採用するほど、こだわりを見せています。

「釣り具の耐久構造をリアルに再現することが難しかった。まっすぐに細いラインを通すためと、強度を高める必要があり、ねじ式のダイキャストにしました」

もともとミニチュアの再現性が高いトイズスピリッツの商品では、プラスチックでも十分通じると思ってしまう私ですが、西村さんは「見た目と強度を両立させ、釣り具の美しさを表現した。ただ、竿をまっすぐにかつ、量産して作ることは、普通のまともな会社さんだったらやらないよ」と、笑って話してくれました。

まさに、お客様の喜びと商品開発者の喜びを共有するために、ガチャガチャに魂を吹き込んだ商品と言えます。

強度を高めるためダイキャスト製を採用したロッド
強度を高めるためダイキャスト製を採用したロッド

しかも、ここまでこだわるかという驚きがありました。リールまでこだわりを見せているのです。リールを本格的に巻ける仕様に仕上げ、見た目も重厚感と光沢感が出ています。

実際にお客様から「本当に釣れました!」という報告があったそうです。

リールにもこだわり(写真はアンダースピンリール)
リールにもこだわり(写真はアンダースピンリール)

一つ一つの商品に魂を込めて商品を作っている西村さんの話を聞くと、ものづくりへの情熱がひしひしと伝わってきました。

ちなみに、起業当時の初心を忘れないために、会社には西村さんが100均で購入した手作りの看板が今でも飾ってあるそうです。

     ◇

本当に釣れる!?ダイキャスト製!ミニミニつり具マスコット vol.4 は、ロッド/シルバー、ロッド/オレンジ、ロッド/ブルー、電動リール(※実際に電動で巻ける仕様ではありません)、アンダースピンリールの5種類。1回400円。

ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」
この連載は、20年以上業界を取材しトレンドをチェックしているおまつさんが注目するガチャガチャを毎週金曜日(原則)に紹介していきます。

     ◇
ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。

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