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YouTube時代、あえてテレビで勝負 お笑いトリオ、青色1号が選ぶ道
「ゴッドタンに出てる」事実に感動
昨年、『ゴッドタン』(テレビ東京系)の企画「この若手知ってんのか!?2020」に出演し、劇団ひとりさんとの激しい言い争いを繰り広げて話題となったお笑いトリオ、青色1号の上村典弘さん(31)、榎本淳さん(29)、仮屋想さん(29)。番組で見せた強靭なスタンスは、テレビに対するあこがれの裏返しだった。(ライター・鈴木旭)
――ここ最近で、『ゴッドタン』に何度か出演していますよね。放送されるたびに、業界内外から反響もあったんじゃないですか?
上村:だいぶありましたね。やっぱり劇団ひとりさんとのバトルが印象的だったんだと思います。この前、ライブ終わりの帰宅途中に、腕時計を売りつけようとするおじさんから声を掛けられたんです。そしたら、そのおじさんがゴッドタンを見てて、僕のこと知ってたんですよ(笑)。もちろん時計は買ってないですけど。
榎本:今まで3回出させていただいて、全部上ちゃん(上村)がひとりさんとケンカする展開ですからね(笑)。僕はそのターンがあるから2人のやり取りを補足するぐらい。爪痕残せなかったのが悔しいですね。
仮屋:僕はつい最近、電車で声を掛けられました。早朝に警備のアルバイトがあって、電車の中で眠りながら現場に向かってたんです。そしたら、ハナコの岡部大さんに似た丸坊主の高校生が「青色1号さんですよね? 応援してます!」って話し掛けてくれて。すごい嬉しかったんですけど、そういうの初めてだし寝起きだしで「あ……ありざす」って返事するのがやっとで(苦笑)。うまく対応できなくて切なかったですね。
――三者三様ですね(笑)。番組では、コント師の先輩である東京03の飯塚悟志さんとも共演しています。あこがれの存在でもあると思いますが、現場ではどんな心境だったんですか?
上村:やっぱり感動しましたね。「何だ、お前!」ってお決まりのフレーズを僕に言っていただけましたし。僕って芸能人の方に対してあんまり緊張しないんですけど、やっぱり東京03さんのコントを見てお笑いやろうと思ったから尊敬が入っちゃうんだと思います。
榎本:めっちゃ緊張しましたね。ただ、見守る立場だったので上ちゃんの表情の変化が面白くて。ひとりさんとバトルしてる時は厳しい顔だったのに、飯塚さんが出てきたら自然と笑顔になってたんです(笑)。
上村:ひとりさんの時は緊張もあったから、余裕がなかったんだと思います。飯塚さんがきて、「やっぱりすげぇな」って気持ちが顔に出たんでしょうね。
仮屋:僕は「芸能人の方と共演できた」っていうよりは、「ゴッドタンに出てる」って事実に感動しました。「あの番組に出られた!」という感慨深さというか。しかも、そこでけっこうウケたから本当に嬉しかったです。
――みなさんは2014年に太田プロエンタテイメント学院に入学した同期。当初はそれぞれ別々のコンビを組んでいて、解散を機に上村さんが榎本さんを誘って「青色1号」がスタートしたんですよね?
上村:学校がAクラスとBクラスに分かれていて、榎本だけはBだったからよく知らなかったんですよ。たまたま合同で飲み会をやった時に席が前になって、僕がおふざけをやったら意外とツッコめるなと。学校だと関西弁の人たちがワーワー言ってるイメージで、榎本みたいなタイプは目立たなかったんだと思います。
榎本:僕は知り合う前から上ちゃんのこと知ってましたよ、ヤンキーの後輩と一緒に入ってきたのとか。見た目に反して正統派のコントやってました(笑)。
上村:地元の後輩とコンビを組んだ状態で入学したんです。2カ月ぐらいですぐ辞めちゃったんですけど、めちゃめちゃゴツい角刈りの後輩で(笑)。コンビ名も「ゴリラズ」。ただ、内容はバナナマンさんみたいなコントでした。榎本のコンビは面白くなかったんで、僕が「切ったほうがいい」って言ったんですよ。
榎本:当時の相方は、途中から興味が演劇のほうに向いちゃったみたいで。学校にもこなくなってたから、先が見えない状況ではあったんですよ。そんな時に上ちゃんから誘われたので、迷うこともなく「じゃあやろう」って感じでした。
――その後、上村さんが仮屋さんを誘って2017年にトリオを結成しています。もともとトリオで活動したいと考えていたんですか?
上村:いや、コンビで2年ぐらい活動する中で、3人必要なネタが出てきたんです。ずっと「トリオになるかも」とは言ってたんですけど、すぐにはいいなと思う人が見つからなくて。そんなある日、仮屋が組んでいたフィルダースチョイスってコンビが解散するんです。当時、彼らは養成所のライブで常にトップ。実力があるのは知ってたから、仮屋に声を掛けたんですよ。
仮屋:解散後、2カ月ぐらいピンでライブに出てたんですけど、ウケないからしんど過ぎて(苦笑)。とにかく誰かとやりたいって思いが強かったんです。そのタイミングで誘ってくれたので、二つ返事でOK出しました。
榎本:ただ、僕はトリオになるって知らなくて。急に上ちゃんが仮屋を連れてきたから、最初は切られるんじゃないかなと思ってました。ずっとライブでトップだったヤツが入ってきたから、「ああ、こうやってみんな解散するんだ」って勘ぐっちゃって。ちゃんと聞いたら、トリオでやるってことだったので安心しましたね。
――上村さんは養成所の入学前にいろんな事務所のオーディションを受けたそうですね。大学時代からコンビやトリオを組んで活動していたんですか?
上村:いや、大学4年生の時に1回だけ就活して「やっぱり無理だな」と思ってから、いろんなヤツを誘って半年ぐらい事務所のオーディションを受けただけなんです。グレープカンパニーとかトゥインクルコーポレーション、浅井企画とかも行きました。即席だし、受からなくて当然って感じですけど(苦笑)。
――そこでちょっとした洗礼を受けたと。仮屋さんは高校時代から「M-1甲子園」に出場していたんですよね?
仮屋:そうです。その後、地元・福岡でアマチュアの人たちが集まるインディーズライブにちょこちょこ出させてもらったりもしました。僕は中学校時代からお笑いをやりたかったので、高校卒業後に上京しようと思ってたんです。ただ、当時の相方の親御さんが「大学は出てほしい」って希望していたのもあって、卒業を待ってから上京したんですよね。
――榎本さんは大学時代にどんな活動をしていたんですか?
榎本:大学ではお笑いサークルに入ってました。「大学芸会」っていう大学生を対象としたお笑いの大会があって、僕が1年生の時にサツマカワPRGさんとかトンツカタンの森本(晋太郎)さんとかが4年生。僕の1つ上に同じ事務所のストレッチーズ、さすらいラビーとかが出場していたんです。
その年、僕の大学は1票で最下位。大学ではお笑いをやらずに、プロで見返そうと思った瞬間でした。それで養成所に入ったんです。どうせ学生お笑いだから、プロに行けばなんとかなると思って(笑)。
――「プロ入りすれば勝ち」って発想は、ハナコの菊田竜大さんと同じですね(笑)。それぞれ好きな芸人さんがいると思いますが、世代的に共通するのはフジテレビの『笑う犬』シリーズあたりですか?
榎本:笑う犬を見て、「お笑いやりたー!」ってなりました。みんなでユニットコントやるのとか、キャラクターを演じるのとか、絶対に楽しいんだろうなと思って。この世界に入ろうってなった番組ですね。
仮屋:僕は『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)とか『笑いの金メダル』(テレビ朝日系)とかも好きでした。ネタ番組が多かったので、そういうのを見てお笑いやりたいなと思いましたね。漫才、コントのどっちも好きでしたし、どのコンビが一番っていうのはないんですけど、くりぃむしちゅーさんの番組は好きでよく見てました。
上村:僕は『エンタの神様』(日本テレビ系)で東京03さんのコントを見て、初めて「すげぇ」って思いました。その延長線上でバナナマンさん、おぎやはぎさんとかも知って。そのあたりのライブDVDは全部見たと思います。そのうちにどんどんハマっていって、自分もやりたいと思うようになったんですよね。
――今の若手芸人さんってYouTubeをはじめとするSNSをうまく活用していますよね。同世代のYouTuberと芸人との違いってどんなところにあると思いますか?
上村:僕らはテレビの芸人さんたちを見て面白いと思いましたからね。たとえば有吉(弘行)さんが『内村プロデュース』(テレビ朝日系)に出てるのも見てたし、バナナマンさんとかくりぃむしちゅーさんとかもそうですけど、テレビで笑いをとって今のポジションにいらっしゃるじゃないですか。絶対的に面白いのをテレビで見てたから、YouTubeはやっぱり別物かなって。
榎本:一応自分たちでもYouTubeをやってるんですけど、ラジオとネタしか上げてないんです。事務所の方からは「もっとYouTubeに力を入れたら、お客さんも増えますよ」ってアドバイスされるんですけど、上ちゃんは「嫌だ」って言って。
上村:僕はYouTuberがやってる動画って面白いと思えなくて。実際にYouTuberがテレビに出るとそんなにしゃべれてないじゃないですか。そういうのを考えても、やっぱりテレビで活躍する芸人さんが一番面白いなって。僕はそういう芸人になりたいし、時間は掛かっても、出どころを大事にしたい。ネタが面白い芸人さんって、それだけで説得力があると思うし。僕の中ではそういうラインがあるんですよね。
仮屋:もちろん僕もそうなんですけど(苦笑)、テレビに出られるならネタでも企画でもって感じです。きっかけはどうであれ、最終的に僕らのネタに目が向くようになればいいし。YouTuberになりたいとは思わないですけど、芸人としてYouTubeで面白いことできるならぜんぜんいいと思いますね。
榎本:僕はぜんぜん大食いとかやります(笑)、個人的にはそういうのが好きなので。たぶん、「テレビでネタをやりたい」っていう気持ちは3人とも共通してるんですよ。その中で、ひとまずトリオの方針としては、「くるものは拒まず、ネタを発信する」って感じでやって行けたらと。大食いやるために賞レースで優勝を狙います!
――今後、こんな活動をしていきたいというようなビジョンはありますか?
上村:まずは面白いネタをつくる。将来的にはロケ番組に出ることですね。体当たりロケみたいなのもやってみたいし、その番組の鉄砲玉みたいなポジションになってみたい。「こんなことしてるのにネタは面白い」っていうのが格好いいなと思って。テレビでめっちゃ体張ってるけど、YouTubeで見たら「ネタが面白い」っていう芸人になりたいです。
榎本:僕はネタを頑張って、映画とかドラマとかCMとかに出たい(笑)。コントの演技が評価されて、ドラマに出るってあこがれがあるんです。それと、昔あこがれてた人たちみたいに「テレビでユニットコントをやる」っていう夢もあります。今で言えば、『新しいカギ』(フジテレビ系)みたいな番組。そういうのに出て、学生時代の僕がそうだったみたいに「こういうのやりたいな」って思わせられたら最高ですね。
仮屋:コント番組はやりたいですね。「ゴリエ」とか「ミル姉さん」とか、ああいうガッツリ扮装したキャラクターを演じてみたい。僕は求められたら何でもやります(笑)。コントの人でもいいですし、ひな壇とかに必ず呼ばれるような人でもいい。平成ノブシコブシの吉村(崇)さんとかにもあこがれがあるので、バラエティーで自分なりの居場所が見つけられたらいいなと思います。
トリオはキャラクターが肝だ。とくにコントはそれが顕著であり、容姿や声のトーンを含めた個性のコントラストによって芸風が生まれる。青色1号は、そういう意味で非常にバランスがいい。芸歴を重ねて、さらに厚みを増していってほしい。
デジタルネイティブの世代でありながら、YouTuberを冷静な目で眺めているところも面白い。上村さんの「絶対的に面白いのをテレビで見てた」という言葉を聞いて、まだまだテレビが与えている影響は大きいと感じた。今後、彼らがバラエティーで活躍し、新たなテレビスターになることに期待したい。
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