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連載

#33 金曜日の永田町

政治家から飛び出る性暴力への偏見 放置か厳罰か、問われる責任

「男尊女卑リベラルおじさん」の危機感

本多平直氏=2020年2月27日午後2時39分、岩下毅撮影
本多平直氏=2020年2月27日午後2時39分、岩下毅撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.33) 2021.7.18】

東京五輪・パラリンピックの開幕を前に、新型コロナウイルスの感染者数は急増し、政府の対策も迷走しています。「違憲」「違法」と指摘された対策が次々と撤回に追い込まれるなか、政治家たちが自らの政治責任を取ろうとしない政治でいいのか――。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
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「分からないから放っておけ」

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために、政府が新たに打ち出した飲食店への締め付けのような対策が総崩れの状態になっています。

【7月9日】
○金融機関を通じた融資先の飲食店への働きかけ(7月8日発表)を撤回
【7月13日】
○酒類販売事業者に対する休業要請等に応じない飲食店との取引停止依頼(7月8日発表)を撤回
【7月14日】
○要請に応じない飲食店との取引停止を酒類販売事業者への支援の条件にするよう都道府県に通知(6月11日通知)を撤回
【7月16日】
○飲食店をメディアや広告で扱う際、飲食店の遵守状況に留意するよう依頼検討(7月8日発表)を事実上の撤回
○グルメサイトを通じた飲食店の対策状況の情報収集(7月2日発表)の当面見送り表明

これらの飲食店対策は、コロナ対策の特別措置法や緊急事態宣言の基本的対処方針にも書かれていない、法的根拠に乏しいものです。主に西村康稔経済再生相が発表してきましたが、のりを超えた私権制限に、野党や専門家から「違憲」「違法」の指摘が相次ぎました。

西村さんが金融機関を通じた働きかけなどを打ち出した当初、その発言を「承知していない」と記者団に語った菅義偉首相も、事前に5大臣会合で方針を聞いていたことが明らかになります。閉会中審査が開かれた7月14日の衆院内閣委員会では、立憲民主党の今井雅人さんがこの点を追及しました。

「菅総理がいらっしゃる関係閣僚会議で事務方が『こういう対応しますよ』と説明して、異論が出なかった。了承されたということ。(方針は)菅総理が責任を持って発出したということになりますが、それでよろしいですか」

西村さんは「事務方から(会議で)触れた」と認めた上で、「要請の具体的な内容については議論していない」と主張。「具体的なその内容につきましては私の責任で、内閣官房のコロナ対策室が関係省庁と調整の上で決めた」と答弁しました。

重ねて問われても、「私の責任」と繰り返す西村さんに対し、今井さんは「それであれば大臣が責任を取ればいい。こんなものを出してしまった責任は重い。やはり大臣を辞任された方がいいと思いますがいかがですか」と問いただしました。

しかし、西村さんは「私の責務はこの感染拡大を何とか抑えること。その後の経済回復、しっかりやらなきゃいけない。厳しい状況のかたがたにも目配りしながら、機動的な経済対策を打っていかなきゃいけない。このことが私の責務でございます。コロナの感染を何としても抑えていく。そのために全力を上げることで責任を果たしていきたい」と述べ、引責辞任を否定しました。

こうしたやりとりが続くなか、耳目を集めたのが、麻生太郎副総理兼財務相の発言です。

麻生さんは、西村さんが担当する内閣官房のコロナ対策室と連名の通知を準備していた金融庁や国税庁を所管しています。海外出張中で、この問題の報告を受けたのは西村さんが発表した翌日の7月9日でしたが、金融庁の担当者に、「違うんじゃねぇ。言っていることが分からないから放っておけ」と言ったと、自ら明らかにしたのです。

7月16日の記者会見で、麻生さんは記者から「金融庁所管大臣として『おかしい』と思ったなら『やめろ』と言わなければいけなかったのでは」と問われましたが、以下のような反論を重ねるばかりでした。

「言われなきゃ止められないなんて役所は、そんなレベルかねぇ。それほど金融庁はレベルの低いところと君は思ってる?」
「大臣として『おかしいのでは』『やめた方がいいのではないか』と…」
「おかしいと言われたら、ふつうやめるんだよ」

麻生太郎財務相=2021年6月25日午前11時11分、東京・霞が関の財務省、吉田貴司撮影
麻生太郎財務相=2021年6月25日午前11時11分、東京・霞が関の財務省、吉田貴司撮影 出典: 朝日新聞

「非礼を超えた威圧的対応」

関係閣僚会議で方針を共有していた首相は「承知していない」。政権で意思決定の中核を担う副総理も「おかしい」と感じながら「放っておけ」――。こうした言動は、この数年、財務省による公文書改ざんや、数々の国会での虚偽答弁が発覚しても、政治家が引責辞任することはなかった「政治家が責任をとらない政治」の帰結です。

そうした国会において、立憲民主党が7月13日、国会議員の処分に踏み切りました。党の会合で成人と中学生との性行為を肯定する発言を繰り返した本多平直衆院議員を1年間の党員資格停止とし、次期衆院選の公認内定も取り消す方針を決めたのです。

本多議員の発言をめぐっては、6月7日に福山哲郎幹事長が厳重注意。本多議員も撤回・謝罪をしています。しかし、発言が表面化した当初、「本人がその言葉については『言い過ぎた』というということで『撤回だ』と言っているので、それでいいのではないか」と擁護しようとした男性中心の立憲執行部のあり方も含めた批判が党内外から高まり、党は外部有識者でつくる「ハラスメント防止対策委員会」に調査を依頼していました。

本多議員は枝野幸男代表の秘書出身で、予算委員会などの論客として一定の存在感がありました。第三者による委員会が「お手盛り」にならず、機能するかについてはやや懐疑的でしたが、7月13日に公表された報告書は、発言の根深さに切り込む内容でした。

問題となった党性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム(WT)における「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」という外部講師に対する発言や、「外部講師に非礼を超えた不快感や嫌悪感、暴力的とも言われる威圧的な対応」を認定したうえで、以下のような経緯を指摘しています。

○「性犯罪に関するヒアリングは、スポット的に被害者団体などを講師として招聘するにとどまっていた。このため、寺田議員(※)が本多議員に相談をしたが、そんなもの自分たち(本多議員たち)がつぶしてきたのに何を今更行うのかという話だった」
(※「寺田議員」はWT座長の寺田学衆院議員)

○「本多議員は、WTで被害当事者を呼んで話を聞くことに対する不満を再三述べていた。そうしたことから、WTに被害当事者を呼ぶことで二次被害が起きることが、座長らWT運営者において懸念されていた」

○「旧立憲民主党当時、WTでは、幹事長などもジェンダーの視点から、被害者の立場を尊重して議論を進めるべきとする方向性をもっていたことから、そうした立場の講師を招聘したことがあった。ところが、本多議員は外部のアドバイザーの前で激高して机をたたいて怒らせて問題になった。また、当時の座長も被害者団体の前で『厳罰化しても…』と突き放した発言をして現場の人たちを立腹させるようなことがあった」

○「ある女性議員が性交同意年齢を引き上げるべきだという発言をした際、本多議員のミュートが解除されており、大声で『そんなことを言っているからダメなんだよ』という声が会場に鳴り響いたこともあり、『こうしたZOOMを見て腰が引けていた。1年生議員に対しても自分の意見に対する見解を求めるなど本多議員の圧力と感じられる雰囲気があった』との感想が出されている」

つまり、すでに報道で明るみに出た発言の問題にとどまらず、ときに威圧的な対応で、性暴力被害者たちが求めている刑法改正の党内議論の妨げになってきた疑いが明らかになったのです。

第三者委は「相手の意見を封じるような言動はそもそもありえない。本多議員は、政策論争のつもりというが、本人が感情的になって記憶がないと言うほどの場面もあり、議論の体を全くなしていない場面もみられる。こうした点からは、立法府の一員としての資質自体が大いに問われる」という見解を示しました。

自身の発言について釈明する本多平直衆院議員=2021年6月8日、国会内、鬼原民幸撮影
自身の発言について釈明する本多平直衆院議員=2021年6月8日、国会内、鬼原民幸撮影 出典: 朝日新聞

「男尊女卑のリベラルおじさん政党」

「さらに問題視されなければならないことは、本多議員があまりに高圧的であったがゆえに、その場にいた多くの関係者が誰もそれを制止しなかったこと、できなかったことである。毅然とした対応がない限り、党内での開かれた議論はもちろん、民主的な議論などまったく期待できないことになる」

報告書はWT運営の問題にも触れた上で、第三者委が党内外から聞き取った以下のような厳しい指摘が並んでいます。

○「本多議員のああした発言が許されている立憲民主党の現状に、驚き呆れた。看板とのギャップに呆然としていたという感じである。今は、立憲もリベラル男主義の団体なんだということを痛感させられている。恐らく、彼だけでなく、多くの人たちが同調していて、その支えがあるからあそこまで言えるのだと思う。党として、そこは考え直さない限り、こうした現状は変わらないと思う」(党外)

○「本多議員の話は、中心的な論点を顧みないで自分の体験を押し通していくところがDV夫のようだ。立憲が『男尊女卑のリベラルおじさん集団政党』といわれて評判が悪く、政権をとれないのは、そうした点への女性の嫌悪があり支持がないからだ」(党外)

○「女性が発言したくなくなる、しづらくなる、このWT自体がマウントとりたがる男たちの構図、だったと思う。WT自体に参加して発言することはおろか、かかわることへの拒否感が当選回数の少ない女性議員にはあった」(党内)

 

報告書は、「問題になった発言は、日本の社会が抱えるジェンダー差別の本質を浮き彫りにすることになった」としたうえで、「国会議員は国民全体の代表者である」と立憲の各議員に自覚を促しています。末尾の「提言」は、党執行部や候補者擁立におけるジェンダーバランスの改善にまでは踏み込んでいませんが、「党としてのジェンダー問題への毅然とした対応が求められており、ジェンダー平等を公約として掲げていることについて、代表が改めて毅然とした姿勢を示すことが大切である」などと求めました。

6月7日に開かれた立憲民主党の「性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム」。この日の会合に本多平直衆院議員は出席しなかった=2021年6月7日、国会内
6月7日に開かれた立憲民主党の「性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム」。この日の会合に本多平直衆院議員は出席しなかった=2021年6月7日、国会内 出典: 朝日新聞

杉田発言への対応と同じになっていいのか

「フラワーデモ」の主催者らが立憲に申し入れた内容は党の体質改善で、本多議員に対する処分ではありません。その上で、「衆院選の公認内定取り消し」という処分方針に、立憲内には不満がくすぶっています。

処分方針を決める7月13日の常任幹事会の直前には、本多議員の妻や同僚議員が「処分は不適当」と訴える文書が党内に回りました。

「本件は、党内からの情報漏洩というルール違反の出来事に端を発しています」
「一方的な処分は、自由闊達な党内論議を阻害し、党内に禍根を残す大問題です」
「処分は、マスコミに無用な報道機会を追加で与え、事態の沈静化をさらに大きく遅らせることになりかねません」

文書にはそうした反対理由がつづられています。

しかし、そうした主張を展開する人たちは、以下の自民党で起きた問題については、どのように考えるのでしょうか。

○女性への暴力や性犯罪に関し「女性はいくらでもウソをつける」と主張した杉田水脈衆院議員の発言(2020年9月)

○LGBTなど性的少数者をめぐる「理解増進」法案を議論していた際、「生物学的に自然に備わっている『種の保存』にあらがってやっている感じだ」と事実に反する差別発言をした簗和生衆院議員の発言(2021年5月)

 

いずれも本多議員の発言と同じ、非公開の党会合で行われたものです。

とくに性暴力被害者への偏見を助長する杉田議員の発言に関しては、枝野さんが当時の記者会見で、「杉田議員を公認し、こうした発言を容認してきている自民党のあり方が問われている」と批判しています。

自民党は「政調会長による注意」という軽い対応で済ませ、杉田議員に辞職を求める13万人以上のネット署名の受け取りすら拒否しました。立憲はその後も政調会長の泉健太さんが衆院代表質問で「この発言は、非公式の場だったとか、文脈とかの問題ではありません」と杉田発言を問題視。菅さんに「自民党総裁として、党に署名を受け取り、対応を講じるよう指示すべきではないか」と迫っていました。

立憲で本多議員の処分方針を決定したメンバーのひとりは、「今年2月、女性蔑視発言で、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が辞任した。ジェンダーに関する発言で公人がきちんと責任を問われるようになり、社会が前に進んだ。本多発言の責任をうやむやにしては、今後、森発言のようなことが起きたときに、きちんと批判し、改めさせることができなくなってしまう」と危機感を語っていました。

「ジェンダー平等」を党の綱領に掲げ、これからの政治・社会の選択肢を提示しようとめざす立憲にとって、本多議員が自ら出処進退を明らかにしなかった以上、自民と同じような対応を取る選択肢はなかったのです。

責任をとる。処分をする。痛みを伴う行為です。立憲の党内はしばらくギスギスした状態が続くでしょう。しかし、責任や処分をうやむやにする政治は、社会の公正さをむしばみ、問題を温存し、社会のアップデートの妨げになります。国会議員一人一人に、改めて「国民の代表」としての責任のあり方についてかみしめてもらいたいと思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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