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「選択的夫婦別姓」報じる側にもあった先入観「変えるのは女性…」

誰もが当事者という気づき「周囲にもコスト。明らかに生産性を下げています」

「選択的夫婦別姓」が進まない現状について「ビジネスより政治の方が古い」と話すサイボウズの青野慶久社長
「選択的夫婦別姓」が進まない現状について「ビジネスより政治の方が古い」と話すサイボウズの青野慶久社長

目次

「選択的夫婦別姓」をめぐる6月23日の最高裁判所の憲法判断は、同姓の民法規定は「合憲」という従来通りのものでした。昨年6月に「選択的夫婦別姓」に賛成して自民党を除名された石川県野々市市の梅野智恵子市議(45)は「司法と立法がボールの投げ合いをしている」と憤りを隠しません。サイボウズの青野慶久社長は「ビジネスより政治の方が古い」。それぞれに共通しているのは「当事者不在」という訴えです。そして、その矛先は、取材をかさねてきた私自身にも向けられていました。

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「なぜこの国では」の思い

昨年3月、自民党系会派にいた石川県野々市市の梅野智恵子市議が、共産党の市議が提出した「選択的夫婦別姓」の導入を求める意見書の採択に賛成し、その3カ月後、党から除名されました。

合憲の判断が出た後、梅野さんにその感想を聞きました。

「残念の一言に尽きます。司法と立法がボールの投げ合いをしているかのようにみえ、長年待ち望み苦しむ当事者を置き去りにしているようです」

一方で、世論の高まりには期待感もあり、「今後も(別姓)賛成の意を訴え、他の自治体の若手や賛同する議員に呼びかけていきたい」としています。

また、梅野さんと連絡をとり合っていたという、市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の井田奈穂・事務局長は「私たちの声はまだ司法に届いていない。今後は国会への働きかけだけでなく、理解あるビジネス界との連携にも力を入れていきたい」と話しました。自身も2回の結婚に伴う改姓を経験しています。

「2度目の結婚の時は、子どもに望まない改姓を強いたくなかったこともあり、当初は事実婚の形をとりました。ただ、新しい夫に手術が必要になった時、面会したり病状説明を受けたりできなくなるので、法律婚にしました。今は井田姓と夫の姓を使い分けていますが、パスポートをつくるにも一苦労。国際結婚した姉はこんなに苦労しないのに『なぜこの国では』と思います」

オンライン取材に応じる梅野智恵子・野々市市議=2021年6月11日、石川県野々市市、木佐貫将司撮影
オンライン取材に応じる梅野智恵子・野々市市議=2021年6月11日、石川県野々市市、木佐貫将司撮影

青野社長「合理性の部分から説得」

井田さんの取材の中で「男性の多くは問題を自分事のようにとらえない。同姓の強要は男女問わず不利益を受けるものです」という言葉を聞き、気づかされたことがあります。

それは、男性である私自身もどこかで「自分が改姓することはないだろうな」と思っていたことです。実際、両親含め周りの親族も、全て妻側が改姓しています。

数年前、私の女性の友人が結婚した際、夫側が改姓したと聞いた時は、「夫が改姓することもあるのか」と思いました。厚生労働省の16年度の調査では、妻側の姓を選ぶのは、夫婦の4%にすぎません。ただ、妻の姓を選ぶ割合は、徐々に増えています。

男性の当事者の話も聞いてみたい――。そこで、夫婦別姓訴訟の原告団のメンバーで知られる、サイボウズの青野慶久社長に取材を申し入れました。自身の訴訟の上告が退けられた5日後の6月29日、オンラインでお話を伺いました。

「憲法判断や自分の裁判で感じたのは、とにかく裁判所は当事者を見ていないなと。率直に役に立たないんだなと思いました。今後も、投票や国への直接の働きかけを通じて訴えていきます」

青野社長は、戸籍上は「西端」という妻の姓に改姓しました。「妻が変えたくないと言っていたから」とのこと。しかしそこから、多くの手間があったといいます。アメリカ出張でホテルを「青野」で予約した際、クレジットカードやパスポートは「西端」だったため、身分を証明できず野宿になりかけたことも。

「今の制度だと名字を使い分けないといけない。それは自分自身もですが、周囲にもコストをかけます。会社の総務や経理だって大変です。海外の仕事も増える中、明らかに生産性を下げています」

「なのに、男性は、やっぱり自分事になってない人がほとんどですね。だから僕は、合理性の部分から別姓制度の説得を試みています。最近はビジネスリーダーや大企業の人には(別姓に)賛同をいただけることがほとんどです。政治の方が古いですね」

自分事として関心を持ちにくい男性側の感覚も理解し、経営も熟知している。そんな青野社長だからこその働きかけの仕方だと感じました。

選択的夫婦別姓の実現を求め東京地裁に提訴した際に記者会見をする青野慶久さん(左)と作花知志弁護士=2018年1月9日、東京・霞が関の司法記者クラブ
選択的夫婦別姓の実現を求め東京地裁に提訴した際に記者会見をする青野慶久さん(左)と作花知志弁護士=2018年1月9日、東京・霞が関の司法記者クラブ 出典: 朝日新聞

自分の中の「優先順位」を疑う

言うまでもなく、名前の半分が変わるのは大きな出来事です。それは仕事や戸籍に関わるあらゆる手続きの面でもそうですし、生まれてからずっと親しんできた名前が変わることに、抵抗がないわけがありません。にも関わらず、私自身、今まで当事者意識が低かったことを今回の取材で反省しました。

記者が取材のテーマに何を選びどう書くか、編集者がどの記事を手厚く扱い何を見出しに取るのか。その「優先順位」を決めるとき、やはり自分の経験や関心事に引きつけて考えることが多くなります。

そこに、何か見落としはないのか。本当は、自分に関係あることなのに「他人事」だと片付けていないか。常に当事者たちの声に先入観なく耳を傾けて、自分の優先順位を疑いながら、アップデートし続けなくてはならないとあらためて思いました。

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