ネットの話題
「いいよね新聞広告」でも本音では…キンチョウが紙面に込めた皮肉
ユーモアで包み込む消費者の「違和感」
ウェブ上で買い物をすると、趣味に合わせた商品がオススメされます。便利な一方、心をのぞき見られるような、居心地の悪さを覚えることも少なくありません。そんな違和感を逆手に取った、「KINCHO」ブランドで知られる、大日本除虫菊(キンチョウ・大阪市)の新聞広告が話題になっています。「インターネット広告とは大違い!」。紙面に躍る文言とは裏腹な、ユーモアと皮肉にあふれたメッセージについて、取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
注目された広告には、「インターネット広告とは大違い!」というフレーズが。その下に、こんなコピーが大写しされています。
更に、ウェブ広告と比較して、新聞広告が優れているとされる点を、こんな具合で書き連ねてあるのです。
そして控えめに、同社の殺虫剤に関する情報を、写真付きで掲載。企業ロゴを添え、「これからも新聞広告と共に KINCHO」との一文も配し、紙媒体に寄り添う姿勢を示します。
ところが、これで終わりではありません。
紙面上のQRコードを読み込み、ウェブサイトに飛ぶと、「デジタル時代のプレミアムキャンペーン!」の文字。デカデカと書かれた「DIGITAL KINCHO 4G(デジタルキンチョーフォージー/4種のゴキブリ製品)」の文章が、左右にせわしく動いているのです。
画面をスクロールした先にあるのは、東西南北を守る四神(ししん)と、なぜかキンチョウ製品の写真が載った、極彩色のイラスト。「デジタルお札」と銘打ち、SNS上でのシェア用・スマホの壁紙用など、複数の画像データを用意しています。
極めつきは、サイトのソース確認画面の仕掛けです。ページを構成する文字列が、おなじみの「KINCHO」表記と、コーポレートシンボルである鶏の頭の形に並んでいます。絶妙な遊び心と言えるでしょう。
ちなみにサイトのURLは、「internet/daisuki(インターネット大好き)」。心地よいほどの「手のひら返し」に、SNS上では「新聞広告なのに、商品情報をサイトで見させようとしていて笑った」などの感想が飛び交っています。
二面性とも言うべき様相を見せた、キンチョウの新聞広告。その狙いを、広報担当者に聞きました。
多くの場合、一般的な新聞広告では、自社商品の販促に照準を定めています。同社においても、その基本線に変わりはありません。
「どんな媒体であれ、広告の目的はいつも同じ。『商品の告知』をしながら、『話題にしてもらって』『キンチョウブランドを好きになって欲しい』ということです」
その上で、今回はもうひとさじ〝スパイス〟を加えることにしました。
「大事なのは『広告なんて、誰も積極的に見ようとしていない」ということです。そんな広告に、新聞読者に目を通して頂くため、デザインを考えました」
ウェブ広告しかり、私たち消費者が、進んで広告に興味を示すことはまれと言えます。なのにふとした瞬間、うたい文句に触発され、ついものを買ってしまう……。それもまた、世の常です。担当者は、この点に着目したのだと語ります。
「『ウェブ上で(情報を集めているつもりが、実は)情報収集をさせられている』ことに、誰もが何となく気付いていると思います。そんな状況への皮肉を、『新聞広告の利点』として表現しました」
ウェブ広告への批評は、そのあり方に対し、人々が抱いているであろう違和感を言い当てる内容です。特定のモチーフがあるわけではなく、消費者の感覚を軸に考案したといいます。そして正論になりすぎないよう、ユーモアでくるむことを意識しました。
一方で、新聞広告を褒めちぎりながら、最後は商品紹介サイトに誘導する手法も、「賛否両論」を巻き起こしています。意図について、担当者は次のように述べました。
「これは、いわゆる『オチ』。『結局はウェブか!』と、目にした方々に突っ込んでもらえたらうれしい。ただそれだけです」
同社は毎年、味わい深い内容の新聞広告を発表しています。昨年には、新型コロナウイルスの流行後、激変した社会情勢を受け、「もう どう広告したらいいかわからない」というコピーを発表。話題をさらいました。
【関連リンク】「もう どう広告したらいいのかわからない」キンチョウの潔さが話題
意識的に見られることが少ない新聞広告を、どうにか読んで楽しいものにしたい。そのような思いから、同社では、一連の取り組みに力を注いでいるのだそうです。
その願いが成就し、今回の広告は、世間の耳目を集めました。担当者は「ご覧になられた方々に各自で楽しんで頂きたい」と話しています。
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