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#11 アフターコロナの課題

空間除菌、病院への寄贈は何のため? 知名度上がっても喜べない理由

2021年2月の消費者庁の注意喚起。
2021年2月の消費者庁の注意喚起。 出典: 消費者庁

目次

医薬品や医療機器として承認されていない空間除菌用品が、病院など医療機関に寄贈され、医師らから批判の声が上がっています。メーカー側は宣伝目的との批判を否定しますが、事実が独り歩きすると、誤ったメッセージになりかねません。

結果的に商品の知名度が上がったとして、果たしてそれは持続可能な活動と言えるのでしょうか。今年2月にネットで炎上した、代表的な空間除菌用品であるクレベリン。騒動のてん末から考えます。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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「お墨付き」誤解招くPR

大幸薬品が製造・販売し、2021年2月に約12万個を全国の医療機関に無償で提供すると発表した空間除菌用品「クレベリン」。同社は宣伝目的との批判を否定し、医療従事者を対象とした社会貢献活動だと主張しています。

一方で、2020年5月にも『大幸薬品、大学関連病院へ衛生管理製品「クレベリン」を寄贈~大阪大学医学部附属病院、九州大学病院、順天堂大学関連病院へ~』と題したプレスリリースを発表。

具体的な医療機関名を列挙して、寄贈の事実をPRしています。しかし、空間除菌はWHOや厚生労働省など公的機関が非推奨の立場を明確にしており、人への有効性や安全性が未確立で、医薬品や医療機器として承認されていません。

このようなPRにより、これらの医療機関がクレベリンに「お墨付き」を与えたように誤解させるおそれがあります。後にネットを中心に巻き起こった大幸薬品への批判にもつながるものです。

医療機関側はどのような見解なのでしょうか。名前が挙がった医療機関の一つである大阪大学医学部附属病院は、寄贈により「お墨付きを与えてしまう」のではという声に対して、「そういった批判は承知しておりませんし、何をもって『お墨付き』を与えたとなるのか理解できません」と反論しています。

同病院としてあくまでも、大幸薬品からの寄贈の申し出を受け入れた、という見解。要望もしていないという立場です。クレベリンの効果を保証したわけではありません。

しかし、前述した大幸薬品のプレスリリースのようなPR活動により、「保証したように見えてしまう」ことは起こり得ます。

「寄贈劇」ねじれた影響

クレベリン以外にも、この社会では空間除菌をうたう雑貨や家電が多数、あちこちに寄贈されています。寄贈先が医療機関であるケースも目立ちますが、これはどんな影響を社会にもたらすのでしょうか。

科学的根拠が不十分な商品に対しては、よく「本当に効果があるものであれば、とっくに病院に導入されているはず」という批判がなされます。

それらの批判に対して、寄贈は先に「実績」を作ってしまう動きとも言えます。つまり、メーカー側や受け入れ側の意図とは関係なく、「病院に受け入れられているから、本当に効果がある」と思ってしまう“ねじれ”を生み出すことにつながりかねないのです。

実態はどうでしょう。前述した大幸薬品のプレスリリースにおいては、国内の有名な医療機関の名前が並んでいました。しかし、その一つである大阪大学医学部附属病院では「本院内では患者さんの出入りするエリアでは使っていません。希望する職員に配布して個人的に使用していると思われます」(広報担当者)とのこと。

現実には「病院」には導入されておらず、職員が個人的に使用しているだけ。しかし、先のプレスリリースからはそのことは伝わりません。このようなPR活動が医療機関への「導入実績」のような印象を与え、営業の現場で効果を発揮してしまうことも否定できません。

寄贈先は他に、自治体や教育機関であるというケースも。特に教育機関において、子どもたちには「空間除菌」が人への有効性や安全性が未確立な技術であることがわからないかもしれません。

それにも関わらず、効果がありそうなものとして刷り込まれてしまうおそれもあります。自治体も、医療機関も、影響は同様でしょう。

そのPR活動は持続可能?

しかし、人への有効性や安全性が確立しないままの寄贈では、消費者庁が繰り返し指摘してきた優良誤認(商品・サービスの品質を実際よりも優れていると偽って宣伝する行為)の問題がどこまでもついて回ります。

現時点で、人への有効性や安全性が認められた空間除菌用品はありません。そのため、空間除菌用品の宣伝はいかに「効果がありそう」と思わせるか、という方向に走りがちです。

こうした宣伝は当局も問題視しており、消費者庁はコロナ禍以前から、空間除菌をうたう雑貨について景品表示法違反(優良誤認などに当たるとして)で何度も行政指導をおこなっています。

2014年にはクレベリンシリーズも、置いたり掛けたりするだけで「空間を除菌できる」とうたった宣伝には根拠がないとして、再発防止などを求める措置命令を受けています。

こうしたPR活動は、持続可能でないという問題もあります。2021年5月に大幸薬品が発表した同四半期決算(1-3月)によると「クレベリン」の売上高は前年同期比28.2%減の19億6000万円と大幅に減少しました。

同社はこの理由を「消費者の衛生管理意識は高水準」も「市場の需要が減少」。これを受けて「除菌関連製品の流通在庫も多く」なり「販売は低調に推移した」と説明しています。

新型コロナの感染拡大中でも「人々がクレベリンを買い求めなくなった」と言い換えられるでしょう。

この1-3月というのは、冒頭の炎上に代表されるように、空間除菌用品への逆風が吹いた時期でもあります。

今は、新型コロナによって多くの人が健康に不安を感じています。そんなとき、メーカー側がするべきは人への有効性や安全性が未確立なままの寄贈ではなく、科学的根拠により効果を保証することではないでしょうか。

大幸薬品は取材に「医薬品としての承認を目指す」と回答しています。証拠が積み重なることで、人への有効性や安全性があるのか、ないのか、そして同社のPR活動が正当なものだったのか、結論も見えてくるでしょう。

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