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「選択的夫婦別姓」市議除名した自民党支部長の言い分「かみさんも」
党派対立で当事者がおざなりに
石川県野々市市の梅野智恵子市議(45)が昨年、「選択的夫婦別姓」の意見書に賛成し、所属していた自民党野々市支部を除名されました。一連の騒動を伝える記事には「保守議員でも賛成の意思表明をする人が増えてきた」などのコメントが寄せられました。市議の思い、除名した側の理由などを取材する中で浮かび上がったのは「当事者不在」という事実でした。
昨年3月、自民党系会派にいた石川県野々市市の梅野智恵子市議が、共産党の市議が提出した「選択的夫婦別姓」の導入を求める意見書の採択に賛成し、その3カ月後、党から除名されました。
取材のきっかけはツイッターでした。フォロワーを通じて、梅野さんのツイートを知りました。
梅野さんの過去のツイートを読んでいくと、こんなつぶやきがあったのです。
元々SNS上では、別姓賛成=左派・リベラルで、反対=右派・保守のような意味づけがされていると感じていました。そもそも選択的夫婦別姓って、同姓別姓含めて多様な生き方を認めるだけの話なのに、なぜ分断が生まれるんだろう? 改姓を選び、自民党の市議として活動していた梅野さんに聞けば、そのモヤモヤの理由がわかるかもしれない。
そう思い、梅野さんに取材を申し込みました。
1時間半に及ぶオンライン取材。梅野さんが悔しがるのは「政策的議論が深まらなかったこと」でした。
石川県議の徳野光春・野々市支部長によれば、除名されたのは、夫婦別姓の是非は関係なく、共産党が提出した意見書に賛成したから。全会一致での決定だったそうです。
梅野さんは「私は過去、共産党が提出した他の意見書に反対したこともあります。今も思想は保守です」と強調しました。
「でも夫婦別姓は多様な生き方を認める生活の問題。イデオロギーの話ではありません」。選択的夫婦別姓の意見書への賛成に何の迷いもなかったといいます。
厚生労働省の16年度の調査では、96%の夫婦が夫側の姓を選ぶといいます。改姓を選んだ梅野さんが、選択的夫婦別姓について関心を持ったのは、10年ほど前、子育てが落ち着き、専業主婦から働きに出ようと思ったときでした。周囲の旧姓を使っている女性から「私はこの名前で生きてきたから」「ニックネームや呼び名が変わるのは嫌」などアイデンティティーの問題や、「仕事で本当に不便」など働く上での問題を訴える声を聞いたといいます。
「それまでは、別姓は家族の絆を壊すと思っていたんです。でもそんなことは全然ない。それに女性ばっかり名前で苦労するのっておかしいじゃないですか」
実際、内閣府の調査によれば「家族の名字(姓)が違っても、家族の一体感(きずな)には影響がないと思う」と答えた割合は2017年に64・3%と、1996年に比べ16ポイントも上がっています。
「名字が同じでも離婚はあるし、事実婚など新しい形もある。別姓で子どもへの愛情は薄れない。反対する意見は、当事者目線とは思えません」
なぜ、同姓にこだわるのか。その意見も知りたいと思い、除名をした自民党野々市支部で支部長を務める徳野光春県議に話を聞きました。
もしかしたら別姓反対に強い理由があるのか――。そう思ったら、「別姓よりも働く場所をどうするかやろうなあ」と言いながらも、特に強く反対している様子はありません。
それどころか「ワシのかみさん(妻)も働くときは旧姓使っとるよ。議員の名字だと仕事しづらいやろ」とのこと。「まあ政策論争はOKだけどさ、政党間の主義主張のぶつかり合いはあるわけだからさ。自分の意見として書く分には文句はないんだけどね」と、あくまでも「共産党提出の意見書賛成」にこだわっているようでした。夫婦別姓の政策そのものへの関心が薄いようにも感じました。
この話は、最高裁判所による別姓の憲法判断が出る前日の6月22日、朝日新聞デジタルに「『保守』自認の市議、でも『選択的夫婦別姓』賛成の理由」というタイトルの記事として配信しました。ネット上では予想を超える反響がありました。
記事へのコメント機能で、弁護士の菊間千乃さんは、別姓の問題は「自分を識別するものとして長年使ってきた氏が、入籍を機になくなってしまうことによるアイデンティティーの喪失感の方が大きな問題」とコメントしてくれました。
選択制夫婦別姓の推進派で知られるサイボウズの青野慶久社長は記事を取り上げる形で「保守議員でも賛成の意思表明をする人が増えてきました。あと一息」などとツイートしていました。
保守議員でも賛成の意思表明をする人が増えてきました。あと一息。明日は最高裁の判決です。
— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) June 22, 2021
「保守」自認の市議、それでも「選択的夫婦別姓」賛成の理由:朝日新聞デジタル https://t.co/YtdNzaGuv9
一方で、「立憲(民主党)の方がお似合いです」「国体破壊」などとする批判的な意見も見られました。別姓そのものの批判よりも、党派対立を意識したものが目立っていた印象です。すぐに対立を超えるのはかなり難しそうで、問題の根深さを感じました。
6月23日、夫婦別姓の憲法判断は、2015年判決を踏襲したもので「別姓での婚姻は認められない」というものでした。
一連の取材を通じて感じたのは、夫婦別姓の議論が、イデオロギーや党派対立ばかり強調されるようになり、制度の趣旨からかけはなれて、当事者がおざなりになっていることです。
地方自治に詳しい東北大の河村和徳准教授(政治学)は、意見書の賛成を理由に除名することは「バランスを欠いていて、重すぎる」と指摘しています。
一方で、今も「保守」を自認する梅野さんが、選択的夫婦別姓でとった姿勢は、様々な場面で分断が深まる時代において、一つの希望を感じました。
姓に限らず、ジェンダーバイアスはすぐに取り組まなければいけない重要な問題です。
保守やリベラル、あるいは性別をも超えて議論のチャンネルができるなら、それは大切なコミュニケーションのきっかけになるのではないでしょうか。
自分自身、様々なバックグラウンドや意見を持つ当事者らへの取材を通じて、みんなの問題として考えられるような情報を発信していきたいと思っています。
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