連載
#29 「きょうも回してる?」
「試作を見たときシュールだな…」それでも決断、レトロ自販機ガチャ
「オモ写」を意識、ダブっても楽しい
商店街をはじめ、駅のホームや野外、高速道路のパーキングエリアなど、現在の日本では至るところに設置してある自動販売機。1888年(明治21年)に誕生した木製のたばこ販売機が日本初と言われており、約120年の歴史があります。
日本自動販売システム機械工業会によると、日本での自動販売機の数は約404万台(2020年末時点)。人口や国の面積を勘案した普及率では世界一とされ、まさに「自販機大国」です。
中でも、日本の食品自販機は1971年(昭和46年)以降に製造が本格化し、ハンバーガーをはじめ、カップラーメン、うどん・そばなどの自動販売機が登場しました。これらの自販機は国道・県道などの街道沿いに設置されることが多かったですが、コンビニエンスストアが誕生してから、その数は減少していると言います。
私は小さいころ、ボウリング場や旅館でハンバーガーの自動販売機を見かけたことがあります。今見かけると、レトロな感じを醸し出す姿に、ノスタルジーを感じる人は多いのではないでしょうか。
今回紹介するのは、6月末に販売されたJ・ドリームの「レトロ自販機マスコット(以下、レトロ自販機)」です。このコラムでも以前に紹介しましたが、J・ドリームは、オリジナル商品に特化し、面白いものをスピード感を持って商品化するのが特徴です。そして、ミニチュア系マスコットのガチャガチャを得意としています。
ガチャガチャの魅力について、「小さい子どもは、大人が使っているものに興味を持ち、まねごとをしたいですよね。例えば、野球をやるにしても、小さい子どもは金属バットを使うのが難しいのでソフトバットを使って楽しみます。では、大人は自分たちが専門的なことに興味を持った場合にどうするのか。それをおもちゃとして実現できるのがガチャガチャです」と話すのは、J・ドリームの企画・営業を担当する小松薫憲さん。実際の自販機を買うことはできなくても、子どものころの記憶を思い出す。そんなノスタルジーを含んだガチャガチャです。
レトロ自販機は、ハイターゲット層(大人向け)を中心に展開しています。「確かに試作を見たときにシュールだなと思いました(笑)。SNSで流行っているオモ写(おもちゃを撮影した写真作品)として、楽しんでもらいたいです」と小松さんは話します。
また、レトロ自販機はドリームカプセル代表の都築祐介さんも企画監修として参加しています。都築さんは「現在、玩具業界では昭和レトロが流行っています。自分が子供のころの情景を思い出した時に浮かんだのが、レトロ自販機でした。商品は昭和50年代をイメージしています。最近はオモ写を撮る方が多いので、背景にもなりやすい形をJ・ドリームさんと共同で考えました」と開発のきっかけを話してくれました。
レトロ自販機もそうですが、「お客様が遊んでもらえるように、世界観を大事にしています」と小松さんは話します。確かに人気企画の「ガソリンスタンド」や「コンビニシリーズ」では、レジやカードリーダー、ホットスナック、雑誌ラックなど並べて遊べるガチャガチャが多いです。
ガチャガチャの売り場にもJ・ドリームの工夫はあります。たとえば、椅子や机がカプセルに入っている「ファミレスマスコット」の横には、「ミニドリンクバーマスコット」の台を置くなど一体感があり、お客様が楽しめる販売の見せ方に取り組んでいます。
ガチャガチャにつきものの「ダブり」についても、小松さんはポジティブです。「仮にうどん・そばが2個ダブっても、そのまま2個並べたら、それで世界観ができますよね。むしろダブったほうが世界観が作りやすいです。1個置くよりもたくさん並べた方が面白い。ダブってもいい。むしろダブって嬉しい」とコンセプトを笑って話します。
ガチャガチャは何が出るかわらかないという魅力がある一方、自分が欲しいものが出るとは限りません。そんな運の要素をも逆手に取る気概をレトロ自販機から感じました。ちなみに、第3弾まで構想があるそうです。
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レトロ自販機マスコットは、ハンバーガーA、ハンバーガーB、トーストサンド、うどん・そば、ラーメンの5種類。1回300円。
参考文献「日本懐かし自販機大全」(魚谷佑介/著、辰巳出版)、自動販売機の文化史(鷲巣力/著、集英社新書)
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