ネットの話題
熱海の老舗和菓子店、かき集めた羊羹500個 避難者に「恩返しを」
4代目女将「数に限りがあって申し訳ないですが…」
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4代目女将「数に限りがあって申し訳ないですが…」
伊豆山地区で大規模な土石流が発生した静岡県熱海市。市内の老舗和菓子店が、看板商品の羊羹(ようかん)を用意したうえで、避難者に「来店いただければお渡しします」とツイッターで呼びかけています。そこには、生菓子ゆえの歯がゆさを抱えながらも惨禍を前に行動せざるを得なかった、コロナ禍で苦しんだからこその強い思いが込められていました。(北林慎也)
静岡県熱海市の住宅街を土石流が襲ってから丸2日が経ち、救助活動が続いた7月5日夕。
熱海銀座商店街にある和菓子店「熱海 本家ときわぎ」が、ツイッターにこんな投稿をしました。
昨晩、伊豆山地区の皆さんが、ニューフジヤホテルさんに避難されたと伺い、羊羹をご用意しましたが、市役所では生鮮食品をはじめ、お菓子などの受け入れは出来ないとの事で、一旦、お届けを控える事に致しました。でもご来店下されば、お一人様、お一つ、お渡ししたいです。どうぞ、お立ち寄り下さい。 pic.twitter.com/Qi1eFPjsqU
— 熱海 本家ときわぎ (@atami_tokiwagi) July 5, 2021
この投稿に、ツイッター上で多くの反響が寄せられました。
投稿は6日正午の時点で1万近くリツイートされ、2.2万以上の「いいね」が付いています。
「熱海 本家ときわぎ」は、1918(大正7)年創業の老舗和菓子店。103年の長きにわたって熱海銀座に店舗を構えています。
保存料を使わない創業以来の製法にこだわり、素朴ながら味わい深い品ぞろえで地元の人や観光客に愛されてきました。
現在は4代目女将の加藤寿美江さんが、SNSを活用して店舗の紹介と熱海の魅力PRに努めています。
しかし、国内有数の温泉地である熱海も、コロナ禍で観光客が激減。「熱海 本家ときわぎ」も苦境に陥りました。
2021年1月には、厳しい経営状況と支援を呼びかけるフェイスブックでの率直な訴えが反響を呼び、全国から配送の注文が寄せられました。
そんな苦境のさなかに、熱海を襲った甚大な土砂災害。
山間部から距離がある熱海銀座に大きな被害はなく、店舗向かいの「熱海ニューフジヤホテル」が市の避難所として、伊豆山地区の避難者らを受け入れました。
そこで、自身の友人も被災したという加藤さんは、看板商品のひとくち羊羹を避難者に提供しようと考えました。
加藤さんを突き動かしたのは、コロナ禍で大変な状況にあった店舗を支えてもらった人たちに恩返しができれば、という思いでした。
「皆さんに温かい手を差し伸べてもらって、なんとかやってこられました。被災された皆さんに、甘いものでちょっとでも気持ちを落ち着けてもらえれば」
しかし羊羹は、支援物資としては生鮮食品やお菓子と同じ扱いとなるため、市役所では受け入れられませんでした。
そこで加藤さんはせめて避難者に無償で提供したいと、ツイッターで呼びかけたのです。
家族3人とスタッフさん1人で製造から販売まで切り盛りする中、急な増産はできません。
それでも、店頭でかき集めたひとくち羊羹500個を、店舗に立ち寄った人に無償で分けるべく確保しました。
加藤さんは「コロナ禍での災害対応で、慌ただしい中で市の職員さんの手を煩わせてしまいました。市の判断は間違っていないと思います」と恐縮しながら、市の対応に理解と納得をしています。
そのうえで、「数に限りがあって申し訳ないですが、せめてホテルに避難している皆さんに、気分転換がてらにでもふらっと立ち寄ってもらえればうれしいです」と話しています。
熱海市は公式サイトで、被災状況や被災者支援の情報を逐一伝えています。
そのなかで、被災者支援の動きに関連して7月5日午前、「生鮮食品などのご提供(ご支援)のお断りについて」と題して、以下のような文章を載せています。
熱海市内ではほかにも、事業者による被災者支援の動きが広がっています。
複数の飲食店でメニューを無償提供したり、温泉旅館が無料で入浴を受け付けたりしていて、それぞれSNSなどで情報発信しています。
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