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「ドッグラン作ったのに走ってくれない柴犬」歌人がツイートした理由
思わぬ接点で開いた「短歌」への扉
「ドッグランを作ってあげたのに、ぜんぜん走ってくれません」。そんなつぶやきとともにアップされたのは、広々としたドッグランにのんびり座り込む柴犬……。歌人・伊波真人さんが投稿したツイートには多くの反響が寄せられています。「きっかけは何であれ、現代短歌に興味を持ってくれればうれしい」と話す伊波さんに、ツイートを契機に起きたことを聞きました。
「ドッグランを作ってあげたのに、ぜんぜん走ってくれません」
6月上旬、そうツイートしたのは、歌人の伊波真人さん。写真で優雅に座っているのは、伊波さんの父の住む実家で飼われている雌の柴犬・こっこちゃん、4歳です。
ドッグランを作ってあげたのに、ぜんぜん走ってくれません。 pic.twitter.com/0PmPH6i12T
— 伊波真人 (@inamimasato) June 6, 2021
運動不足を解消しようと、昨年半ばにドッグランをつくったそう。「でも、ずっとこんな感じです」と笑います。
コンクリート部分がひんやりして気持ちいいのか、お気に入りの場所なのか……だいたいこの位置で動かないといいます。子犬の頃は活発だったけれど、今では「散歩は嫌いで、走るのはなおさら嫌いですね」。
定期的に父が送ってくるこっこちゃんの写真をツイッターに投稿している伊波さん。今回のツイートは特に反響を呼び、22万を超える「いいね」がついています。
「『絶妙な表情』への反応を多くいただきました。柴犬ってとても表情豊かで、人間に近いような表情をしますよね。だから愛されているのかな」
2013年に「冬の星図」で角川短歌賞を受け、歌人として活動する伊波さん。今回のツイートから、自身の歌集『ナイトフライト』(2017年、書肆侃侃房)に興味を持って読んでくれた人もいたそうです。
「どんなきっかけであれ、作品を読んでもらうのが一番うれしいです」と話します。
「夜」が好きだという伊波さんが、愛着のある郊外や東京の風景を切り取った歌集『ナイトフライト』は、歌集としては異例の重版3刷が決まったばかりといいます。
日常生活でなかなか触れる機会のない短歌ですが、伊波さんは「季語も必要ありませんし、英語が入ってもいい。31音を自由に使える現代短歌はなんでもありです」と話します。
徹夜明け、サンダルをひっかけてコンビニへ行くときに見た、朝焼けの美しさ――。
「なんでもない日常のなかで『あぁ、いいな』と感じた瞬間を、人と分かち合いたい気持ちが昔から強いんです。その共有方法として短歌ってちょうどいいんですよ」
31音という「定型」にどんな単語を使うかで、伝えられることが変わります。正確に情報を伝えるものではなく「余白」を味わえるところも魅力だといいます。
今回の柴犬のツイートをきっかけに短歌にふれた人がいるように、さまざまな「短歌との接点づくり」を心がけているという伊波さん。
伊波さん自身、短歌にはまったのは、読んでいたマンガに現代短歌が引用されていて「面白いな」と思い、歌集を手に取ったことでした。
そのため、歌集『ナイトフライト』では、KIRINJIの堀込高樹さんに帯文、「A LONG VACATION」(大滝詠一氏)のジャケットで有名なイラストレーター・永井博さんに表紙を依頼したといいます。
歌集『ナイトフライト』の重版が決定いたしました。3刷です。刊行からだいぶ経っても、たくさんの方に手に取っていただいていて、本当に嬉しいです。この本が、新たな読者と出会うのを楽しみにしています。 https://t.co/DaU55yX60e pic.twitter.com/MkW6NJyuFA
— 伊波真人 (@inamimasato) June 11, 2021
「高樹さんが帯を書いているなら読んでみよう、という出会いもあるかもしれない。シティポップが好きな方にも刺さるかな、と考えました」と振り返ります。
「ツイッターで短歌のことだけ書いていても、もともと短歌に興味のある人にしか届きません。映画や音楽、短歌とは関係のないこともつぶやいて、見つけてくれる人がいたらいいなと願っています」
柴犬が好きで伊波さんのツイートに反応した筆者も、そのリプライにあった歌集が気になって『ナイトフライト』を読んだ人のひとりでした。
実は、誰かの歌集をじっくり読んだのは初めて。思わず「ふふっ」と笑ってしまったり、飛行機で旅しているような気分になったり、深夜のファミレスで原稿を書いている自分が思い起こされたりするような作品に、「短歌の世界ってこんなに自由なんだ」と驚きました。
受賞作「冬の星図」はもちろんですが、そのほか筆者が特に気に入った歌は、この4首です。
関心のある話題が「接点」となって、違う扉が開く――。そんな体験でした。
伊波さんは「誰かの心にある情景を呼び起こすような短歌をつくりたいと思っていたので、とても嬉しいです。ぜひ多くの人に短歌の魅力を知ってほしいです」と話しています。
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