エンタメ
「BS、もう地味じゃない」 地上波より〝実験的〟、とがった企画続々
M-1王者も太鼓判、豪華芸人が集まる理由
映像コンテンツの視聴方法が多様化するなか、どこか地味な印象のBS放送。しかし、そのBSが「バラエティ豊かになっている」とライターの我妻弘崇さんは指摘します。BSにいま何が起きているのか、ほかのメディアにはない魅力は何か。地殻変動が起きつつある現場を取材しました。
実はいま、面白いBS番組が増えている。
かつてのBS番組と言えば、往年のドラマ・時代劇の再放送や年配者向けの紀行番組ばかり……そんなイメージもあっただろう。しかし、昨今はその風潮が変わりつつある。
たとえば、極楽とんぼがそろって全国放送出演をすることでも話題を集めたBS日テレの旅番組『週末極楽旅』、テレビ東京に残る資料映像と過去映像だけで作り上げたBSテレ東の『撮影の、一切ないドラマ 蛭子さん殺人事件』など、地上波ではお目にかかれないようなエッジの効いた番組が少なくない。
その中でも、とりわけ破壊力のあるラインナップを揃えるのが、『中川家&コント』(中川家)、『恋愛マルシェ』(スピードワゴン・小沢一敬&チュートリアル・徳井義実)、『サンド道楽』(サンドウィッチマン)、『ブラマヨ弾話室~ニッポン、どうかしてるぜ!~』(ブラックマヨネーズ)、『東京03 in UNDERDOGS -今日は負けたけど、明日は絶対勝つ- 』(東京03)――。『M-1グランプリ』や『キングオブコント』のチャンプをはじめ、第一線で活躍する芸人たちの5番組を「BSフジ爆笑サンデー」と題し、 毎週日曜22時から24時半までの2時間半にわたって放送しているBSフジだろう。錚々たる面子が、BSフジの日曜夜に集結しているのだ。
「昨年、BSフジ内に、配信をメインとしたメディア・コンテンツ局という新しい部署ができました。放送しているコンテンツを配信し、放送外収入を増やすとなると、配信用ソフトでもある番組は年配者向けのものだけではなく、比較的若い世代を意識した内容も必要になります。そういった流れを受け、もともと各曜日に展開していた番組を日曜日に終結させ、“爆笑サンデー”という枠組みを、昨秋10月に作ることになりました」
そう説明するのは、企画・編成を担当するBSフジ編成局編成部・谷口大二氏。実際、この5番組は放送後、「BSフジオンデマンド」で配信されており、後追い視聴が可能となっている。
BS番組が、バラエティ豊かになっている理由。その一つが、チャネルの多様化だろう。
2019年時点で、BS放送視聴可能世帯数は約4287万世帯、世帯普及率は約74%と、開局から20年を経て普及率こそ大幅に上昇した。一方で、視聴者の多くが年配者というBSならではの商慣習は根強いままだ。
ところが、動画配信サービスが定着化するようになると、後追いで視聴することが可能になった(事実、先述した『週末極楽旅』などは「TVer」でも見ることができる)。話題になれば時間差で評価される。
放送外収入という経路があれば、年配者向けだけではなく、昨今注目を浴びている「コアターゲット」(日本テレビ)、「ファミリーコア」(TBS)、「キー特性」(フジテレビ)などと呼ばれる、13~59歳(※キー特性は13~49歳)のコア視聴者向けに番組を作ることも重要視される。その波が、BS各局にも押し寄せているというわけだ。
こうした事情は、地上波番組も同様だろう。だが、BSだからこそのメリットもあると話すのは、『撮影の、一切ないドラマ 蛭子さん殺人事件』(BSテレ東)のプロデューサー、テレビ東京・高橋弘樹氏だ。
「予算こそ少ないものの、BSの方が地上波に比べて実験的なことがしやすい傾向があります。4K番組も多いので映像にこだわることや、ゆったりとした番組を作ることができることも利点です」(高橋氏)
前述のBSフジ・ 谷口氏も、「地上波に比べると自由な空気が残っている点は大きいと思う」と付言するように、制約の多い地上波とは異なる空気感があることも、BS独自の“攻め”の番組が増えている要因の一つといえそうだ。
また、BSフジの場合で言えば、「再放送コンテンツが弱い」といった事情がある点も見逃せない。
「基本的に、BS各局の編成はシニアシフトです。いわゆる往年のサスペンスドラマや時代劇が多い。BS-TBSやBS朝日が、『水戸黄門』、『暴れん坊将軍』をはじめとした豊富なコンテンツを持っているのに対し、BSフジは『鬼平犯科帳』こそありますが数が少ない。同じことをしても競り負けるため、早い段階から他BS局とは違うコンテンツを作る意識がありました」(谷口氏)
そうして作られたのが、『BSフジLIVE プライムニュース』や『クイズ! 脳ベルSHOW』だ。いまでこそBSで、討論番組やクイズバラエティ番組を見ることは珍しくないが、BSフジが開始する以前までは、類似番組は存在していない。上記番組は、BSにおける草分け的番組でもある。
「実際問題として、往年のドラマや時代劇は安定した視聴率を誇り、我々があれこれ悩んで考えた番組よりも、良い数字を取ります。ですが、オリジナルコンテンツを作らなければ、当たることもなければ、話題になることもない」(谷口氏)
また、再放送をするにあたって、放送局は各コンテンツの権利を保有する会社に「権利使用料」を支払う必要がある。再放送といっても相当な費用がかかる。
世帯視聴率以外の価値基準がある、放送外収入がある……時代が変わりゆく中で、いつまでも旧コンテンツにすがることは、真綿で首を絞めていくことにつながりかねない。
オリジナルコンテンツを作ることで活路を見出す――。こうした姿勢があったからこそ、破壊力抜群の爆笑サンデーのような取り組みが実現したと明かす。
「視聴率では、再放送ドラマに負けるにしても、話題作りという点では勝つことができます。BS番組であっても、話題を提供することができれば、今の時代は気が付いてもらえるように変わっています」
「BSフジのコンテンツというのは、お祭りにおける露店に近いものがあります。名刹なら別ですが、あまり有名ではない寺社仏閣に、人はなかなか集まってきてくれません。ですが、賑やかな露店が多ければ多いほど、人は集まってきます。ましてやBSは、地上波に比べると、まだ検疫が厳しくない(笑)」(谷口氏)
『クイズ! 脳ベルSHOW』や、長州力、前田日明、スタン・ハンセンらレジェンドプロレスラーが本気で(T)叩いて(K)かぶって(J)ジャンケン(P)ポンをする『TKJP』。たしかに、局地的な話題かもしれない。
しかし、昭和ファンやプロレスファンには骨の髄まで届き、「BSフジがなんだかヤバい」という評判が、じわじわと浸透していることも間違いない。今ではおなじみになった長州力の「形変えてしまうぞ」の名文句は、もともと『TKJP』から生まれたものだ。BS発の露店から、スマッシュヒット商品が登場するまでにいたっている。
筆者が『ブラマヨ弾話室~ニッポン、どうかしてるぜ!~』を取材した際、ブラックマヨネーズ・吉田敬はこう言い切った。
「この番組を見ない理由があるとしたら、BS番組だからってところもあると思う。みんな、ほんまにおもろいもんはキー局でやるって思いこんでる部分があるんですよ。でも、地方にも良い店ってたくさんあるじゃないですか? 言っとくけど、BSは福岡、札幌の繁華街くらいはいってるぞと(笑)。どこにいても、結局は人が大事やと思う。このチームは、おもろい奴らが集まっている」
M-1王者自らが胸を張るほど、BSは進化しているのだ。
“爆笑サンデー”の5番組は、今年春に『BSフジ開局20周年記念 爆笑サンデースペシャル』なる特番まで放送してしまった。
出演者は、先のレギュラー陣。つまり、中川家、スピードワゴン・小沢一敬&チュートリアル・徳井義実 、サンドウィッチマン、ブラックマヨネーズ、東京03である。この豪華すぎる組み合わせがBSで放送されている……これはもう、東京・大阪の繁華街と遜色ないといっても過言ではない。
一昔前と違って、BS番組は面白い。しかも、ユニークでエッジの効いた番組が増えている。後追い視聴だってできる。BSは、もうシニア層だけが楽しむものではなくなっている。
1/6枚