ネットの話題
「食中毒菌」まさかの美青年化、薬局フリーペーパーの解説が斜め上
〝人類の敵〟を乙女ゲーム風に描いた理由
じめじめした日々が続く梅雨時、心配になるのが食中毒です。腐敗が進んだ食材を、それと気付かず口にしてしまい、ときには命に関わることも……。そんな事態を防ぎたいと、薬局のフリーペーパーが組んだ啓発特集が、ネット上で話題をさらっています。食中毒の原因菌を「美青年」イラスト化するという、読者の度肝を抜く内容なのです。驚異の解説企画は、いかにして生まれたのか? 編集担当者を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
注目を集めた冊子は、各地に調剤薬局を展開するアイセイ薬局のフリーペーパー、ヘルス・グラフィックマガジン。年4回発行され、季節や時勢に合った、様々な症状について取り上げ、医師や専門家が改善策を解説する内容です。
最新となる今年6月号では、「食中毒」について、20ページにわたり特集しました。中でも異色の企画が、「食中毒菌・ドクメン8」です。
見開きのページには、8人の男性キャラクターのイラストが並んでいます。それぞれカレー鍋や鶏、生魚を手に、涼しげな表情です。見目麗しさとは裏腹に、どことなくシュールな雰囲気が漂います。
それもそのはず。私たちの身辺でうごめく、食中毒菌がモデルだからです。顔の上部を見ると、「ウェルシュ菌」「カンピロバクター」「サルモネラ」など、菌の名前がずらり。彼らが持っているものは、主な生息場所となる環境を表しています。
イケメンが顔をそろえる様子は、どことなく乙女ゲーム(女性向けの恋愛シミュレーションゲーム)のよう。一方でイラストの下には、「どこによくいる?」「発症まで&症状」という枠が設けられ、菌にまつわる知識が学べる仕様となっているのです。
「攻めの姿勢が大好き」「妙にツボってしまう」。ネット上では、この企画を好意的に捉える人々の声が飛び交っています。
「食中毒菌については、名前や特性を挙げるだけだと理解しづらい。そこで、擬人化してみようという話になりました」。ヘルス・グラフィックマガジン編集長で、アイセイ薬局コーポレート・コミュニケーション部部長の門田伊三男さん(47)が語ります。
門田さんによると、最新号で食中毒を取り上げた背景には、新型コロナウイルスの流行があります。外出自粛などの影響で、お弁当やデリバリーなどの利用機会が増えている点に着目。食中毒のリスクを啓発する内容としたそうです。
人間にとって、食中毒菌は「敵」と言えます。編集会議でも、まがまがしい造形のキャラクターにする案が検討されました。しかし、似たような方向性で打った企画が過去にもあり、あえて別のアプローチを模索したといいます。
同誌の読者は、女性が全体の7割ほどを占め、40代がコアターゲットです。この層に訴えかける方法はないか、と思案する中で浮上したのが、「美青年」化でした。
「魅力的ではあると同時に、怖い。そんな印象を与えられるようなビジュアルにしたい、と考えたんです。編集部員の中に、詳しい者がいたわけではないのですが……。戦国武将をイケメンにした先行事例などを参考にしつつ、進めました」
#ヘルス・グラフィックマガジン 食中毒号中面&没ネタ紹介3⃣
— 【公式】ヘルス・グラフィックマガジン|vol.40「食中毒」配布中@アイセイ薬局 (@aisei_HGM) June 30, 2021
P6-7「食中毒菌 #ドクメン8」
彼らなくして今回の号は語れません!
君たちのおかげで3000人以上の方と新たにつながりました!
ボツネタ①の「ご”菌”所物語」でもバズってたんだろうか⁉️
ボツネタ②③の「食中毒大図鑑」でもバ……😱😱😱 pic.twitter.com/1NjL8vB3E7
とりわけ強く意識したのが、菌の生態に関する情報を、キャラに反映させることです。
例えばノロウイルスなら、「二枚貝や感染者の便に潜む」との特徴があります。そこでキャラに牡蠣(かき)を持たせ、「トイレに行ったら手を洗えよな」という決めぜりふを併記。下部の解説パートにも、同様の情報を載せました。
「決めぜりふについては、菌が発生する食物や状況に絡め、理解しやすいものとしました。イケメンキャラの言葉なので、若干『Sっ気』というか、上から目線を感じさせるようなフレーズを盛り込んでいます」
図案化を依頼したイラストレーターとも、綿密にやり取りしました。菌の紹介ということで、当初は図鑑のように、どのキャラも同じ方角を向くデザインだったそう。より個性を際立たせるため、表情や目線のバリエーションを増やしてもらいました。
キャラたちの完成度の高さは、「実在するユニットか」と錯覚しそうになるほどです。実際、ネット上では「推しメン」を探す人も少なくありません。定期購読者数にも好影響が及び、最新号の発行前と比べ、2倍以上に増えるほどの盛況ぶりといいます。
「ドクメン8」以外のコーナーにも、編集部のこだわりがあふれています。誌面中ほどに登場する「ワイルダー一味の危ないバーベキュー」は、代表例の一つです。
野外で調理する際の注意点を、漫画形式で列記。凶悪な見た目の登場人物たちが、生焼けの肉を食べたり、沢の水を飲んだりするなど、避けるべき行為がユーモラスに描写されます。
このほか、食中毒菌による汚染リスクに応じ、食材を切る順番や方法を図示した「食材切る順ガイド」といった、実践的企画も満載です。
一つのテーマについて、多角的に伝える構成を取っているのは、なぜなのでしょうか? 門田編集長は、次のように語ります。
「本誌は薬局の利用者向けに創られました。薬局は一般に『処方せんを持って訪れる場所』というイメージが強いですよね。でも実は、利用者の健康サポートを始め、様々な役割があります。そのことを知ってもらうための媒体、という性格を伴っているのです」
「健康情報は、単に対策法だけが分かっても、十分な説得力がありません。リスクの特徴と、それに対するソリューションを同時に提供することで、具体的なアクションにつなげてもらう。そのために毎号、複数のコーナーを設けています」
情報の正確性を担保する上では、テーマごとに医師を直接取材。冊子全体や、各コーナーの監修も依頼し、常に最新の医学的知見を取り入れるよう心がけているそうです。
食中毒企画がヒットしたことについて、門田さんは喜びを隠しません。
「今回は20代、30代の方々が注目して下さいました。私たちには、薬局に行かない人、健康な人にこそ、情報を届けたいという思いがあります。病気と縁遠い層とつながるための礎を築けた、という意味では、大変うれしいです」
そして読者に対しては、こう呼びかけました。
「健康な内に出来ることをやれば、病気や疾患は遠ざけられます。今回、若い方々に注目されたのは、とても良いこと。これをきっかけに、ぜひ過去の号にも目を通し、ご家族やお友達にも読んで頂きたいですね」
冊子は全国のアイセイ薬局店舗に加え、医療機関やフィットネスクラブなど、600以上の拠点で入手できます(定期購読の案内はこちら)。
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