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「雪ちゃんが、とうとう帰りました」迷いインコ、探し続けた349日

新しい「家族」と一緒に帰宅「奇跡の鳥」

帰ってきた「雪」。レミさんの肩に乗って離れないという
帰ってきた「雪」。レミさんの肩に乗って離れないという

目次

日本でたった1人の「家族」だった、オカメインコを探し続ける外国人の姿が、昨年、ツイッターで話題になりました。「迷子になった雪ちゃんが、とうとう帰りました」。いなくなって349日、オカメインコの雪は新しい「絆」を運んで帰ってきました。

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突然届いたメッセージ

「迷子になった雪ちゃんが、とうとう帰りました」

フランス出身のサブリエ・レミさん(@Sikllindil)が、見つかったオカメインコルチノーの「雪(ゆき)」との写真を、ツイッターで報告しました。

約1年ぶりに話したレミさんは、はじける笑顔で、肩に乗っていた雪を見せてくれました。

「雪ちゃん、もっと美人になっていました」
「他のインコと違うんですよね。シャネルの香りがする」

雪はレミさんの首に体を寄り添わせて、キスをしました。

雪と見つめ合うレミさん
雪と見つめ合うレミさん

レミさんは昨年8月、中野駅前で看板を手に、雪を探す姿がツイッター上で話題になりました。
「相当可愛がってたんだろうな」。炎天下、立ち尽くすレミさんの画像は共感を集め、2万リツイートされました。

筆者は当時、レミさんをインタビューしました。

フランスから来日し、3年。
プログラマーとして働きながら、レミさんが日本で感じていた孤独。その時、寄り添ってくれたのが、1羽のオカメインコ。レミさんにとっての、日本での「家族」でした。

日本文化が大好きなレミさんは、「日本で美しいものとして描かれている」からと、「雪」と名付けてかわいがりました。

しかし、昨年6月29日、事故でベランダから飛び出して行ってしまった雪。
レミさんは寸暇を惜しんで、自転車で走りまわり、町中を探していました。

【関連記事】「迷子のインコ」探して駅に立つ外国人、孤独な日本で「家族だった」

雪は、この1年間、どこにいたのでしょうか。

6月11日、突然届いたメッセージに、レミさんは驚きました。

「こんにちは。去年の7月2日に東中野駅近くにて突然、肩に乗ってきたオカメインコにそっくりです。特に鼻の穴です。保護してこちらにて飼育しています。」


この1年、いろいろな情報があるたびに、「雪ではないか」と期待して、確認に走っては、落ち込む日々だったレミさん。でもこのメッセージは「100%、雪だ」と確信しました。

メッセージの送り主は、日本人の女性でした。

雪の、1年間の足跡をたどりました。

肩に突然、ずっしり

1年前、雪が失踪してから3日経った7月2日、夕方5時ごろ。

レミさんの家の最寄り駅である東中野の近くで、コンビニに入ろうと、車から降りた女性がいました。

女性は病院からの帰り道でした。
「もう、私の人生は長くない」

この女性は、半年前にがんが発覚して、手術。その後の検査で、自分の病気が世界でも症例の少ない遺伝性の疾患で、がんを多発させるもの、そして自分の年齢である45歳までに多くの人が難しいがんを再発するということを、医師から伝えられたばかりでした。

再発を抑えるための治療を続ける日々に、希望を見い出せず、「人生のどん底のような時だった」。

突然、肩にずっしりとした重みを感じ、見ると、体長30センチほどの白いオカメインコが留まっていました。

「この子は死んじゃいけない」

一瞬、叫びましたが、女性はインコを追い払いませんでした。

「すごく弱っている……」
20年ぐらい前にインコを飼っていました。種類は違いましたが、肩のオカメインコが、まだ幼いことも分かりました。


最寄りの警察署に駆け込みました。拾得物として届けるつもりでした。

でも、対応した警察官は「鳥は、犬や猫とは違うから、飼い主は見つからないと思う。あなたが飼う気持ちがないんであれば、保健所行きになる」と答えたそうです。

「殺処分」を連想してびっくりし、女性はとっさに、「だったら、私が、連れて帰ります」。

警察では、住所も名前も連絡先も聞かれなかったそうです。

「鳥は、犬や猫とは違うの? そんなの、かわいそうじゃない」。女性は憤りながら、インコを見つめました。弱った姿が、自分にも重なりました。「この子は死んじゃいけない」

守りたいと思いました。

「幸福」を運んできた鳥

警察からの帰り道、ホームセンターで鳥かごやエサをそろえました。

白い翼。頭の羽の鮮やかな黄色から、「からしくん」と呼びました。

「誰の飼っていた鳥なんだろう」

「インコを探しています」という情報を探し始めました。
でもいざ、オカメインコを探しているという人に連絡すると、「どれぐらいの年の子ですか」と逆に聞かれました。

飼い主ではなく、ただインコが欲しいだけ、という「なりすまし」に警戒して、からしくんの写真は載せませんでした。


その頃、レミさんが情報を呼びかけていたツイッターは、女性はやっていませんでした。


女性は、肺を摘出した後で、抗がん剤治療も重なり、心身ともに厳しい時でした。

「からしくん」は怖がりで、家族の中でも、なついたのは女性にだけ。

治療で日中、家を空けることも多く、自分がいつこの世を去るかも分からない。「からしくんが寂しい思いをしないように」と、「お友達」を増やしました。別々の鳥かごで、4羽のインコを飼いました。

なでてもらうのが大好きな雪=レミ提供
なでてもらうのが大好きな雪=レミ提供

朝には、鳥たちに歌ってあいさつしました。
「みんな、おはよ、おはようさん」

すると「おはよ」というように鳴いて応えてくれました。

女性にとっては、闘病生活のつかの間の安らぎ。「幸福」を運んできてくれたように感じました。


それでも、飼い主を探すことはやめませんでした。
「動物は大事な家族、きっと探している人がいるはず」


からしくんと出会って約1年たった、6月。女性が病院の待合室で、スマホで、東京都内版の「掲示板」にある、迷子の動物の情報のページを見ていたとき、「東中野周辺でいなくなったオカメインコを探している」という書き込みが、たまたま目に入りました。

女性が、たまたま見つけた、レミさんの書き込み
女性が、たまたま見つけた、レミさんの書き込み

「手で育てた最愛のオカメインコです。見かけた人は保護して連絡していただけると助かります。」
作成されたのは、昨年7月。
写真のオカメインコは、鼻の穴が、からしくんにそっくりでした。

飼い主は、顔写真も名前も住所も公開しています。「これまでとは違う」
女性はすぐに連絡をしました。

レミさんと、体の特徴や、いろいろなクセを照らし合わせ、失踪した当時の雪と、保護した当時の写真を重ねて、お互いに「間違いない」と確認しました。

「母だから」

女性の家は、雪が見つかった東中野から約1時間かかる、東京の西の外れにありました。

現れたレミさんは、「外国人」。一瞬びっくりしましたが、すぐに打ち解けました。

拾った女性以外には懐かなかった「からしくん」は、レミさんの腕に留まると、鼻にキスをするように顔を寄せました。

端から見ていた女性は、「やっぱり、わかってるのかなぁ」と驚きを隠せませんでした。


レミさんは顔つきは大人びていても、雪が赤ちゃんのころから好きだったように、鼻と鼻を寄り添わせてなでると、喜ぶ姿を「覚えていた」と嬉しくなりました。


それでも「雪」と呼び掛けても、反応はありませんでした。1年の空白を埋めるように、女性はレミさんへ、住んでいた環境や習慣を伝え、あげていたエサや、好きだったおもちゃなどを渡しました。

別れ際、女性は泣いていました。

レミさんは感謝を込めて声を掛けました。
「あなたは、この子にとって、母だから」「また会いに来ます。ぜひ、うちにも会いに来てください」

失った時間

レミさんの家に戻ってきた雪。

でも1年で、別の習慣を持った、大人のインコになっていました。
昔好きだった野菜は、もう食べません。
好きだった歌も歌わなくなってしまいました。

環境が変わったストレスか、羽が抜けてしまった時、レミさんは女性に電話しました。
アドバイスをもらいながら、雪が心地良い環境を手探りで作っています。

電話口で女性が「おはよ、おはようさん」という歌を聞かせると、雪は「母」を求めてきょろきょろしていました。


レミさんは雪が戻ってきた喜びをかみしめつつ、「時間は、取り戻せない」とつぶやきました。

インコも大切な家族

失踪して1年後に再会できたレミさんと雪。レミさんは「奇跡の鳥」と言います。

でも、その奇跡は、諦めなかったレミさんと、1年間大切に保護した女性の力で引き寄せただけでした。


レミさんは、「日本人がよく使っているから」とツイッターも始め、慣れない日本語を使いながら、あらゆるところで雪の情報を発信し続けました。


東京を管轄する警視庁だけでなく、首都圏にある全県警の「拾得物」情報をリスト化し、3週間ごとに確認しました。
公表されている情報は詳細ではないため、「鳥」などの拾得物があるたびに、担当の警察に問い合わせます。1年で警察に問い合わせた回数は、160回にもなっていました。

作った貼り紙は1200枚。良く思わない人に、貼り紙の雪の顔を刃物で切られていたこともありました。

雪がいなくなって8カ月経った今年2月、「自分の生活に戻らなくちゃ」と、これらの「捜索」をやめましたが、雪の無事をインコの絵馬に、祈り続けていました。朝昼晩と、出かける時。「雪ちゃんが、家までの道を探せるように、見守ってください」

そしてツイッターは、全て確認していました。「迷子のインコを探している」というほかの人の情報も絶え間なく流れていて、レミさんは、目にするたび、心を痛め、リツイートしていました。


レミさんが、「雪ちゃんが帰りました」と報告すると、インコの愛好家の仲間など、捜索の期間に知り合った多くの人から、電話やメールで祝福が届きました。

レミさんが捜索の合間に買って、無事を祈り続けたインコの絵馬。帰宅後に、雪は絵馬の上に留まった=レミさん提供
レミさんが捜索の合間に買って、無事を祈り続けたインコの絵馬。帰宅後に、雪は絵馬の上に留まった=レミさん提供

鳥も犬猫もペットは「拾得物」として管理

もし、女性が最初に警察に届けた時、拾得物として取り扱われていれば、雪はレミさんの元へもっと早く、帰ることができたかもしれません。

警視庁に確認すると、「事実関係が明らかではないので、コメントはできない」としつつ、遺失物センター所長の五十嵐祐紀子さんは一般的に動物が拾得物として交番や警察署に持ち込まれた場合の対応を説明しました。

まず、「人間に飼われていた動物かどうか」確認します。
そして、オカメインコのように基本的に飼育されていたことが分かる動物は、拾得物として扱うことになっているそうです。

警視庁管内で共有している遺失物の情報に登録し、すでに探している人から「遺失届」が出ていないかを確認します。ペットなら、マイクロチップや鑑札で飼い主が特定できないかも、探します。

それでも飼い主が見つからない場合は、警察署でしばらく保護します。ただ、その期間はまちまちとのことで「だいたい2~3週間」程度。ただ、警察署内には動物を適切に飼育するのに必要な設備や知識がないため、鳥などの小動物は、警察で愛好家や団体、動物園などに連絡して、引き取り先を探すといいます。「拾って届けた人には、動物が好きな人が多いので、引き取れるかどうかを聞くこともあります」と言います。

引き取り先に渡した後も、原則では「3カ月」は警察の管理下で「拾得物」として、記録を保管するそうです。


レミさんは「インコも、犬や猫と変わらず、ぼくらの大切な家族です。早く見つかるようになってほしいと思います」と願いを込めました。

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