連載
#27 「きょうも回してる?」
ダンゴムシをガシャポン化、強気の500円でも爆売れした理由
「どこかひとつ驚きがあれば、必ず手にとっていただけます」
バンダイのガシャポン※いきもの大図鑑シリーズ「だんごむし08 だんごむしとミツオビアルマジロ」が6月の第5週に発売されます。現在、いきもの大図鑑シリーズの販売累計個数は550万個以上となり、だんごむしはバンダイのオリジナルのガシャポンのなかで、異例の大ヒット商品になりました。
今から約3年前の2018年8月にガシャポン「だんごむし」が誕生。だんごむしの大ヒットについては、「だんごむしは面白いと感じてもらえると思っていましたが、まさかここまで反響があるなんて予想外でした。」と話すのはベンダー事業部の企画・開発担当の誉田恒之さん。
もともとは虫が苦手な誉田さん。ダンゴムシの体の構造や生態の面白さに直面した誉田さんは、ダンゴムシの研究を本格的に始めるようになり、本物のダンゴムシをいかに再現するかを徹底的に追求することこそが、お客様が感じる魅力につながると思ったそうです。
2018年ごろはガチャガチャ業界では、商品価格は200円が中心であり、300円に価格が移行している時期でした。特に、生き物のアイテムは200円のものしかまだ発売されておらず、そのなかで異例ともいえる500円のガシャポン「だんごむし」を投入。
「正直3カ月でブームが終了するのではないか」と思った誉田さんの想いとは裏腹に、SNSやメディアで話題となり、3カ月を過ぎ、再生産を繰り返しても売り場に並べるとすぐにガシャポン自販機が空となる状態が続きました。私も当時、「500円で本当に売れるのか?」と思っていましたが、「だんごむし」を探しても完売している売り場が多かったと記憶しています。
「だんごむし」がヒットしたことで、ダンゴムシは虫の世界のアイドルのように認知度を高めたと言えます 。
「虫は調べれば調べるほど、どんどんと興味が湧いてきます。とくに、虫は生きるために特化した機能があるところが魅力的です。その一点に機能を絞り発達しています。たとえばハチにしても、針を指すためにはどういう風な構造になっているかなど、突き詰めていけばいくほど面白い。そこを徹底的に研究し商品に反映して作っています」と誉田さんは熱弁します。
大ヒットしただんごむしは、その後シリーズ展開を開始すると「丸くなる虫」をコンセプトに「まんまるこがね」という丸くなるコガネムシもラインナップに加え、さらに「丸くなることで防御する」コンセプトも追加することで、だんごむしシリーズの売れ行きはさらに加速していきます。
だんごむしが大ヒットしたことにより、ガチャガチャ業界でバンダイは、カプセルレスで生態が理解できる可動フィギュアシリーズという新しいカテゴリーを確立。それまで生き物カテゴリーでは他社に後塵を拝していましたが、一気に先頭に躍り出ました。
また、私が思うに、通常コレクション性があるのがガチャガチャの特徴ですが、だんごむしという商品名なのに、ガシャポンを回せばだんごむしでなく、違う虫もでてくるという本来のガチャガチャのランダム性に面白さを待たせたこともヒットしたポイントになっています。
ものづくりへのこだわりについて尋ねると、誉田さんは「買っていただく人の『驚き』を大事にしています」と答えます。
「買った人が何かしら驚く要素を必ず入れていないと、ヒットには結びつきません。このポイントは何なのかを明確にし、多くの要素を詰めすぎない」
「商品でよくある失敗のパターンは、どうしても弱気になってしまい、多くの要素を入れてしまうことです。そうなると、売れ行きも芳しくありません。確かに500円のガシャポンは高価格ですが、どこかひとつ驚きがあれば、必ず手にとっていただけます。ひとつセールスポイントを明確にして見た瞬間、商品の魅力を伝えるようにしています」と話し、ガシャポン「だんごむし」も誉田さんは自分の意見を貫き通したそうです。
今回紹介するのは「だんごむし08 だんごむしとミツオビアルマジロ(以下、アルマジロ)」。アルマジロは、だんごむしを商品化した当初からお客様から「アルマジロはいつ出るんですか?」という質問があったほど注目があったそうで、3年目にして商品化し、だんごむしシリーズでは初めての哺乳類の誕生となりました。
アルマジロの商品の最終仕様にたどりつくまでには、いくつかの壁がありました。
去年の夏までにアルマジロの設計図はできていましたが、完成品を飾ってみても、どうしても「欲しいと思わせる変形ではない」と思ったという誉田さん。そこで誉田さんは「アルマジロが凄いと思わせるためには、単に足が出てくるだけではなく、いろいろなポーズをとれなくてはいけない」と考え、再度徹底的に研究しました。
そして「アルマジロは4本脚と思われるかもしれませんが、ハムスターのように後ろの2本の脚だけで立つポーズをとることに気づき、ちゃんと2本脚で立てることを再現しました」と話し、いかに本物と同じように精巧に再現するまで妥協しない姿勢がありました。
また、アルマジロの顔と尻尾をすべて球体の中に収める構造にたどり着くには、何パターンもの異なる試作を作成し検証を続けたそうです。アルマジロの鱗甲板(りんこうばん)の重なり方には特徴があり、下半身が一番下に来るように3本の帯が上からかぶさるように連なっていき、一番上には上半身が来るのですが、その上半身は今度は下半身の下に入り込むという構造をしているからです。誉田さんは見事にその構造をそのまま再現しました。
私がアルマジロを初めて見たとき、秀逸すぎて、ある意味、商品ではなく生き物の芸術作品にように思えてしまいました。
だんごむしシリーズの今後について、誉田さんは「丸くなるという防御姿勢を持つ生き物のカテゴリーは昔から多く存在しています。そこに絞って毎回新しく商品を入れていきます」と話してくれました。
また、誉田さんにはひとつの野望がありました。
「海外で仕事を12年経験してわかったことがあります。日本人は世界中から見ても特別に虫好きな国民です。ここまで虫を愛でたりする文化は他の国ではありません。確かに鈴虫の音を聞くために飼う国はあります。しかし、カブトムシなどを飼うことは他の国の人には理解できないそうです。また、子どものころ虫を捕ることも、日本独特の遊びの文化らしいです」
「日本人はすごく虫に詳しいのですが、大人になると興味をなくし、触れることすらなくなってしまいます。子どもの時に図鑑を何度も読み返したくさんのことを学んだ人が多いのに、子供の頃だけで興味が終わってしまうのはもったいない。だからこそ、もう一回大人になってからも、フィギュアなどを触ってもらいながら、虫の生態などさらに新しい知識を手にいれ続け、日本人は虫に対して、ものすごく詳しい国民なんだということを世界に伝えたい。そのために、まだあまり知られていない虫などもドンドンと商品化していきたい」
誉田さんの虫に対する情熱はますます燃えているように感じました。
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だんごむし08 だんごむしとミツオビアルマジロは1回500円。ミツオビアルマジロ、ラバーダッキーコシビロダンゴムシ、だんごむし<子供>、まんまるこがね<深紅カラーver.>、ミツオビアルマジロ<リアルカラーver.>の5種類。
※ガシャポンはバンダイの商標登録です。
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