連載
#74 コミチ漫画コラボ
「父の日は〝好きな人〟に思いをはせる日」母が漏らした本音を漫画に
家事・育児に積極的ではない父。「なんで母は結婚したんだろう」と思っていたけれど――。家族のために頑張っている父へ感謝の気持ちを伝える「父の日」ですが、みりこさん(@rkare_ota)には、少し違った思いを抱くようになったきっかけがありました。SNSに投稿したマンガに込めた思いを聞きました。
両親と3姉妹、5人家族の長女として生まれたみりこさん。
物心ついた頃から、父親は仕事で遅くまで帰ってきませんでした。休日にはドライブへ連れていってくれましたが、ごはんや掃除・洗濯といった家事はすべて母親に任せきりでした。
専業主婦の母はそれをてきぱきとこなしていたといいます。みりこさんが中学に上がってからはパートも始め、たまにグチをこぼすことがあっても、父との大きなケンカはなかったそうです。
「家事には休みがありませんし、母は娯楽も後回しにしているようでした。子ども心に大変だろうなと感じていて、なぜふたりは結婚したんだろうと思っていました」と振り返ります。
みりこさんにとっては平日一緒にいる母の方が「頼れる存在」。これまでの父の日は「ネクタイなどのプレゼントをあげて終わり」という日だったといいます。
「母の日は『家事を母の代わりに全部やる日にしよう』とか、感謝の気持ちを出しやすかったんですが……父は家事もしていなかったし、当時は会社での仕事の大変さも分からず、どう感謝したらいいか分からない気持ちでした」
2年前、みりこさんがパートナーとの同棲を始めるために実家を出ることになりました。
その直前、母の好きなアイドルのコンサートに出かけ、終わった後に居酒屋で打ち上げをします。
ほろ酔いの母は「引っ越し前にみりことふたりで飲めてよかったよ」とつぶやき、こう続けます。
「ママから好きになったの、パパが初めてだったんだ」
「そんな好きな人と一緒になれて、子どもにも恵まれて……ママは幸せ者だよ」
幸せそうに語る母の本音を聞いて、「『父』『夫』という肩書以前に、父も一人の人間であり、『母』の”好きな人”だったんだな」と感じたそうです。
父と出かけてきたことをうれしそうに報告したり、帰りの遅い父をうとうとしながら待ったり――。そんな母のことを思い出しました。
「ふたりの人間として出会って、思い合って生きてきた。子どもの知らない歴史があったんだなぁ」
そんな両親への感謝の気持ちで、このマンガを描いたといいます。
昔から、結婚した理由を尋ねても、ふたりとも「相手が『結婚して』って言うから」とはぐらかしていたそうです。
みりこさんはどこかで「子どものために我慢してたんじゃないのかな」と心配していました。
だからこそ「母は『幸せだ』と思っていたんだな、とホッとしました」。
「日常生活を回していくために普段は見せていなかった部分が、ぽろっとお酒の席で出てきたのかな」と振り返ります。
きっと母にも、大変だったことや夫へ腹を立てたこともあったはずです。
「それでも〝好きな人〟が原動力だったんだなぁと……。365日、何十年間もずっとその気持ちだったわけではないと思いますが、『思い返したら幸せだった』という風に語ってくれました」
自分自身と母を重ねて見るきっかけにもなったといいます。
みりこさんは1年ほど前からマンガを描き始めました。
大好きだった少女マンガの連載再開をきっかけに、「漫画家になりたかった」という小さな頃の夢を思い出したからです。
会社員として働きながら、同棲している彼氏との日々や、日常で感じたことをテーマに、夜や土日に集中して作品を描き上げています。
作品:夜行バスにゆられて by みりこ @rkare_ota https://t.co/O7oZvKGol2 1/2 pic.twitter.com/eKvwroyTs7
— みりこ/6月個展予定 (@rkare_ota) April 22, 2021
母にマンガを描いたことを連絡したら「恥ずかしいけどよくできてるね」という反応だったそうです。
初めて「漫画家を目指している」と伝えたところ「やるんだったら最後まで頑張れ」と励ましてくれたといいます。
「父には見せていませんが、もし読んだとしたら照れ笑いするかな、と思います。ことしの父の日のプレゼントはまだ決めていませんが、何がほしいか聞いてみようかな」と笑います。
これまでSNSなどにアップしてきたマンガの中で、最も反響があった「母と父のはなし」。自身の立場を反映させて読んだ人も多かったようです。
みりこさんは「ふたりの関係性って、そのふたりにしか分からないもの。物事には始まりがあって、その関係性になっていることを伝えたかった」と話します。
みりこさんの両親も、子どもが手を離れてからは、ふたりでコーヒーを飲みにいったり、季節のお花を見に出かけたり……関係性が変化してきたといいます。
そんな関係性は、誰かが否定するものでも外野が決めつけることでもないし、優劣もない。
「この作品が、周りの人を見直すきっかけになったらうれしいです。今後も、誰かに大切に思ってもらえるようなマンガを描いていきたいです」
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