「修正対象」と思わされた体型、マリアナさんがNIKEモデルになるまで
不健康、運動ができない…「体型への偏見をぶち破りたい」
プラスサイズモデルのマリアナさんが登場したナイキジャパンの広告 出典: GLAPOCHA提供
やせればきれいなのに――。プラスサイズモデルのMariana(マリアナ)さんは、親族や友人からそんな風に言われ続け、体型にコンプレックスを抱えていました。しかし「ボディポジティブ」の考え方に出会ったことでモデル活動をスタートし、ナイキジャパン(NIKE)のフィットネスウェアのモデルにも選ばれました。「私の体型はダイエット前のBeforeの体型ではなく、すでに素敵な完成形。ぽっちゃりでも幸せに生きる証しになる」と訴えるマリアナさんに、話を聞きました。
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マリアナさん:1990年生まれ、3歳~4歳と小学2年から中学1年まで、父の仕事の関係でアメリカ在住。コンサルティング会社で働く傍ら、オーディションを受けて2018年10月からモデルとして活動を始める。
プラスサイズモデル事務所「GLAPOCHA」(桃果愛代表)所属。
やせればきれいなのに――。
マリアナさんは物心ついたときから、親族にそう言われ、自分の体型に自信がなかったそうです。
「日本って家族や親族からボディシェイミング(人の見た目をあざけること)を受けることが多いんです。私も自分の体は他の子と違っていやだなと思っていました」
マリアナさんがモデルを務めたNIKEのヨガウェアの広告
アメリカから日本に戻った思春期の頃には、体重測定の結果を見た友人から「重くてやばくない?」と笑われたり、知人の男子から「やせたら付き合ってやるよ」とからかわれたり。20代半ばまでは「やせなきゃ」と思い詰めていました。
8年ほど前に英国出身のモデル、イスクラ・ローレンスさんが発信していた「ボディポジティブ」の考えに出会った時も、「インスピレーションを受けたものの、実際にボディポジティブになるまでには結構時間がかかりました」と振り返ります。
ボディポジティブ:ありのままの体型を受け入れよう、社会で「美しい」「理想」とされている体型に幅を持たせようとする運動。それぞれの体型はそれぞれに美しく、価値があると訴えています
周囲からの〝やせろ攻撃〟が止まらなかったマリアナさん。5年前には、ダイエットを決意し、半年で体重を10kg落としました。
「もうこれでまわりも黙るだろう」と〝ドヤ顔で〟報告。しかし、「次は太ももだね」と指摘されたそうです。
「自分の中にも『やせれば幸せになれるんだ』というファンタジーがあったんです。でも、このとき何かがプツッと切れました。周りにあわせてやせようとしていると、永遠に『やせろ注文』は終わらないなって」
しかしマリアナさんは、このダイエットの時に通っていたジムで「体を動かす楽しさ」に気づきます。
ダンスやヨガのスタジオでは、インストラクターが「やせる」を目標にするのではなく、「時間いっぱい最後まで頑張ろう」「頑張ってくれた自分の身体に感謝しよう」と言ってくれたことが大きかったそうです。
体を動かす楽しさをSNSやブログで発信しているマリアナさん 出典:GLAPOCHAのブログ
「自分が頑張った過程を自分で認めて、身体能力と自信がつくというのが運動の面白さでした」と振り返ります。
「人より大きな体型かもしれないけれど、ヨガで体を伸ばしたりトランポリンエクササイズで跳ねまくったりする身体能力はある。『やせるにフォーカスしなくたっていい』と、目からうろこの気づきでした」
ようやく「ボディポジティブ」を受け入れ、「日本でも広めたいな」と考えていたとき、プラスサイズモデルとして活躍する桃果愛さんに出会います。
桃果さんにあこがれ、事務所のオーディションに応募して合格。3年前から会社員と二足のわらじで活動を始めました。
NIKEからモデルのオファーが来たときには「舞い上がるような気持ち」だったといいます。
「ファッション業界にはプラスサイズの概念が広まってきていますが、それをフィットネス界にも広めたいと思っていたんです」
現状では、運動は「やせる」「どれくらい体重を落としたか」だけがゴールになりがちです。
「やせるだけが成功基準だったら、思ったような成果が出なくて運動習慣をなくしてしまう人もいるかも。それってもったいないですよね」
マリアナさんは「やせる」を手放し、筋力アップやストレス発散といった身体とメンタルの向上に注目するようになって運動が好きになり、今も継続しています。
「身をもって経験したからこそ、『やせるだけが運動じゃないよ』と伝えたかった。だから名門フィットネスブランドからこんな風に声をかけてもらえるなんてびっくり。ひとつ夢が叶いました」
しかし、マリアナさんがウェアを着てヨガポーズをとったNIKEの広告には、「これからダイエットして頑張る体型なんだね」といった反応もあったといいます。
それに対して、マリアナさんは
「ぽっちゃり体型が、これからやせるために頑張ろうとしている人の体型にしか見られていないことに違和感をおぼえました。『直さなきゃいけないもの』『修正対象の体型』とされるのはいやだなと思いました」
「太りすぎて不健康」「購買意欲がわかない」といったネガティブな反応もありました。
しかし「写真1枚だけで、健康かどうかなんて分かりませんよね」と指摘します。
「多いときは週3~4回、ボクシングジムへ行って汗を流し、時間があるときにはマーメイドスイムやスタンダップパドルもやります。そんなアクティブで生き生きとした自分は、自信を持って健康だといえます」
一方で、「運動が楽しそうに見える」「こういう服を着ちゃいけないと思っていたから安心感をおぼえる」「フィット感が分かるから買いたくなった」という声も。
自分に合う洋服のサイズがなくて悩んでいる、日本に住む外国人からもポジティブな反響があったといいます。
「隠さずに、かわいいウェアを好きに着ていいんだよと伝わったらうれしいです」
ダイエットの「Before」の写真にあえて暗い表情の写真が使われるなど、ぽっちゃり体型には運動不足、だらしない、自己管理ができていないといったネガティブなイメージが植え付けられがちです。
運動ができない、やぼったくみえる、おしゃれができない……そんな偏見を、マリアナさんは「ぶち破っていく存在になりたい」と話します。
「ぽっちゃりでもプラスサイズでも、運動やファッションを思いきり楽しんで、こんな風にアクティブに生きていけるという証しになります」
薄毛や身長の高低など、性別や年齢を問わずさまざまなコンプレックスに悩む人がいますが、「ボディポジティブの考え方を知ってほしい」と訴えます。
「例えばお化粧をするときも『自分の目は小さいから大きくしよう』と否定せず、『この目が素敵だから強調させよう』と自分を肯定する声をかけていってほしい」
特に、同世代に「親」となる人が増えてきたからこそ、自分の子どもに対して「見た目を否定するようなことを言わないでほしい」と伝えていきたいと考えています。
悩んでいた当時、「ボディポジティブ」をなかなか受け入れにくかったマリアナさん。
親近感を持てるアジア人の「ロールモデル」がおらず、「海外でのトレンド」にとどまっていたからではないかと今は振り返っています。
プロに指導を受けながら長時間ヨガのポーズをとった撮影はハードだったそうです 出典: GLAPOCHA提供
渡辺直美さんのように世界で活躍する人や、国内のプラスサイズモデルも増えてきました。
英語が堪能なマリアナさんは、韓国のプラスサイズモデルとも交流があり、日本語・英語の両方で「ボディポジティブ」を発信しています。
「日本と韓国社会の〝美〟の基準が似ていて、アジア人としても共感し合えるところがあります。日本国内のつながりも大事だけど、さまざまな国やいろいろな文化を知っている人と手をつないで、一丸となって活動できればいいですね」