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連載

#9 ゴールキーパーは知っている

日本最多得点のストライカー佐藤寿人の人生を変えたゴールキーパー

酔って思わず「おい、楢崎、やめるな」

2012年に広島がリーグ初優勝を決めたセ大阪戦でPKを決める佐藤寿人
2012年に広島がリーグ初優勝を決めたセ大阪戦でPKを決める佐藤寿人 出典: 朝日新聞

目次

サッカーにおいて、ゴールキーパーと相対するポジションがストライカーだ。J2も含めると、日本歴代最多の220得点を挙げ、2020年で引退したFW、佐藤寿人さん(39)の次男は、実はゴールキーパーなのだという。名古屋時代をともにした元日本代表の楢崎正剛さん(45)と高め合ったエピソードなど、ストライカーから見るGK像を語ってもらった。

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「良い意味で、変わり者が多い」

「ゴールキーパーのイメージは?」

こんな質問に、佐藤さんは苦笑いしながらいった。

「良い意味で、変わり者が多いな、という印象です。自分と向き合っているというか、ほかの人を見ている選手だと、長く続かないと思うんです。常に一つしかないポジション。自分に矢印を向けて、やり続けている」

サッカー界では全体練習をしたあと、FWは居残りでGKとシュート練習をする機会が多い。接する時間が長いからこそ、彼らの心境を、肌で感じてきたのだという。

「ゴールキーパーの選手とはずーっと一緒にいて。特に、名古屋では楢崎さんと『気持ち悪い』と思うくらいずっと一緒にいました(笑)おっさん2人で、カフェのテラス席でお茶を飲んだりしていました」

「FW目線からすると、勉強になるんですよね。セカンドキーパーや、サードキーパーなど、若い選手とも仲が良かった。彼らを育てたい、という気持ちもあったし、自分もいろんなことを聞きだそうと思って」

シュートの位置、タイミング、どこがとりづらいか。そんな感覚は、キーパーといることで研ぎ澄まされていく。

前線にパスを出す名古屋の佐藤寿人=2017年12月3日、川津陽一撮影
前線にパスを出す名古屋の佐藤寿人=2017年12月3日、川津陽一撮影 出典: 朝日新聞

キーパーになった次男「親としては複雑(笑)」

広島時代、影響を受けたのが、元日本代表の下田崇さん。

「川口能活さん、楢崎さん、そして下田さんは別格だった。下田さんはシュート練習をしても、ほとんど入らなかった。入ったと思うシュートが次々と止められてしまう。だから、その上をいかないとゴールを奪えなかった」

ともにシュート練習をした西川周作選手(現浦和)とも、仲が良い。実は、その西川選手に影響を受けたのが佐藤さんの中学生の次男だったのだという。

「3人息子がいて、サッカーをやっているんですけど、次男は広島時代、西川選手にすごいかわいがってもらって。長男は僕を見ていたので、FWをやりたい、11番をつけたい、といってくれるのですが、次男は1番をつけて、ゴールキーパーをやりたい、と」

「親としては、複雑ですよ(笑)。試合に勝つためには、ゴールを奪わなきゃいけないので、攻撃していると息子の出番はほとんどない。でも、逆にずーっと攻められているといつかとられるんじゃないかという危機感もあって……。息子の出番もありながら、勝ってくれるのがいいのですが」

現役時代は、オフにトレーニングをするときは次男にゴールマウスに立ってもらい、シュート練習をしたこともあった。

「キーパー経験者ではないので、指導はできないんですけど、FW目線で、足が動くキーパーは嫌だよ、ということは伝えています。手で反応するキーパーは、届かない位置に蹴ればいい。だけど、足が動くキーパーは、逆をついても体がついてくるんですよね。手だけでなんとかしようとするのではなく、いかに足を動かすか、というのは伝えています」

得点が入らず厳しい表情を浮かべる名古屋の佐藤=2017年3月4日、吉本美奈子撮影
得点が入らず厳しい表情を浮かべる名古屋の佐藤=2017年3月4日、吉本美奈子撮影 出典: 朝日新聞

1番止められ、1番決めた楢崎さん

20年間に及ぶ現役時代、ゴールを奪うため、ゴールキーパーの研究は欠かさなかった。

「僕は、試合前に映像をみて、チェックしていました。前に出てくるタイプなのか、ゴールマウスにしっかりとポジションをとる選手なのか。左と右、どちらがウィークなのか、しっかりと頭に入れて試合に臨んでいた」

220点を重ねた日本屈指の点取り屋が意識してきたのは、どの位置で最後、シュートを打てるか。

「DFと勝負して、キーパーと勝負すると2回勝負をしなければいけない。僕はなるべく動きでDFとの勝負を制して、最後、GKとストライカーの勝負をすることだけを心がけていた」

2020年に現役を引退し、解説者として試合を見る機会が増えた今、日本代表に選ばれた権田修一選手、浦和の鈴木彩艶選手など、現役で注目するキーパーの名前を挙げる。ただ、そのなかでも、特に「すごいキーパーだった」というのが楢崎正剛さんだった。

「僕が最初に日本代表に入ったとき、代表にいたのが楢崎さん。サブだったのに、すごい優しく接してくれたんです」

「データを見ると現役時代、1番、シュートを止められたのが楢崎さんだった。ただ、1番決めているのも楢崎さん。それだけ長く、試合に出続けている、対戦できているということ自体がすごいなと。楢崎さんと対戦する数が少なければ、僕はもう少し点が決められたと思うくらい」

サッカーW杯、チュニジアを零封したGK楢崎正剛選手=2002年6月14日、中田徹撮影
サッカーW杯、チュニジアを零封したGK楢崎正剛選手=2002年6月14日、中田徹撮影 出典: 朝日新聞

酔っ払って「おい、楢崎、やめるな」

現役時代、2005~16年まで在籍した広島を離れる決断も、当時名古屋にいた楢崎さんの存在があった。

「ずーっと苦しんで、残留争いをして、結果的に降格してしまったのをみて。僕は、前の位置で、ゴールキーパーの選手を支えたいと思った。一つ、楢崎さんがいたのは、大きな影響でした」

楢崎さんはJ1で631試合に出場。MF遠藤保仁選手に抜かれるまで、J1の最多出場記録を誇った実績を持つ。

「ずーっと試合に出続けた人じゃないですか。それが、2016年にJ1から降格して、翌17年に昇格するときもゴールマウスに立っていなかったんです。そういう、試合に出続けた人でもいつか、辞めなきゃいけないときがくるのか、と。ずっと、リハビリをしてきた姿もみてきた」

「楢崎さんが引退を考えていたとき、お酒を飲んで酔っ払って、1度、僕が楢崎さんのほほをたたいて、『おい、楢崎、やめるな』といったことがあったんです。そこで寝ちゃって、後輩にタクシーにのっけてもらって帰ったので、次の日にすぐ謝りましたけど。昨年、僕が辞めるという決断をして、楢崎さんに『辞める』という報告をしたときに、『一発、ほほ殴らせろ』といわれました。今はコロナウイルスの影響でなかなか会えないので、このままちょっと距離を置きながら、と(笑)」

味方では最も遠いポジション。一見、互いの気持ちはわからないものなのかもしれない。

ただ、佐藤さんは「キーパー練習が1番しんどいのは僕らも理解している」という。サッカーにおいて、ゴールを決める、守るというプロセスにかける情熱は同じだ。互いに意識しあい、高め合う。そんな思いを感じた。

J1復帰が決まり喜ぶサポータ-に両手を挙げて答える佐藤寿人(中央)=2017年12月3日、吉本美奈子撮影
J1復帰が決まり喜ぶサポータ-に両手を挙げて答える佐藤寿人(中央)=2017年12月3日、吉本美奈子撮影 出典: 朝日新聞

点取り屋の視点がレベルアップに――取材を終えて

優れたFWが、優れたGKを育てる。サッカー界でよく耳にする言葉だ。良いシュートを止めようとするからこそ、GKは成長する。スペインやブラジルのGKがレベルが高いのは、そうした影響もあるといわれている。

日本屈指のストライカーだった佐藤さんがGKというポジションをどう見ているのかが知りたくて、お話しを伺った。

「息子にグローブメーカーのことを聞かれるのですが、全然わからなくて……」と恐縮していたが、勉強になる視点が多かった。

点をとるためにGKを研究する、居残りでシュート練習をして、若手GKからも意見を聞く。そんな姿勢はGKのレベルアップにもつながっているのかもしれない。

解説者としても活躍する佐藤さんの今の目標は「日本人のストライカーをしっかりと育てたい」。点取り屋の極意を知る佐藤さんの指導は、これまで日本の弱点ともいわれてきた2つのポジションのレベルアップにつながるはずだ。

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