連載
#25 「きょうも回してる?」
ガチャガチャも環境意識 業界初バイオカプセル、中身も〝粋な提案〟
これをきっかけに商品づくりへの考え方も変化していくかもしれません
ガチャガチャを使った販促イベントを提供する会社「あミューズ」は環境配慮型「AMバイオカプセル(以下、バイオカプセル)」を開発し、5月から販売を開始しました。ガチャガチャ業界で生分解性樹脂を使ったカプセルは初の試みです。
近年、環境問題が深刻化しており、「脱プラスチック」に取り組む動きがグローバルに広まっています。
日本では、「2050年カーボンニュートラル宣言」を政府が発表。2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標に掲げています。また、6月4日に、プラスチックごみのリサイクル強化と排出削減に向けた新法「プラスチック資源循環促進法」が参院本会議で全会一致で可決、成立しました。
この環境問題について、ガチャガチャ業界では、大手玩具メーカーのバンダイが以前から 取り組みを始めており、2007年6月に初めてバイオマスチップを使用したガシャポン※「アースカプセル® 昆虫採集」を発売しています。植物由来のカーボンニュートラル素材「バイオマスチップ」を使用したリアルな昆虫フィギュアです。原料はスギ間伐材の廃材をリサイクルした植物バイオマス素材約70 %で、PP(ポリプロピレン)を30 %混ぜることでフィギュアのような成形が可能となりました。
このアースカプセル昆虫採集の発売後、同じくバイオマスチップを使用した「Hello Kitty eco&pieceキーチェーン」も販売しています。これらの商品のカプセルの素材も、従来のプラスチック製ではなく、バイオマスチップを利用して作られました。その後、バンダイはカプセル自体を商品の一部として活用している「カプキャラ」を展開。プラスチック廃材の削減に貢献する商品として、現在も作っています。他メーカーもカプセルレスの商品を作ることで環境問題に力を入れている状況です。
(※ガシャポンはバンダイの商標登録です)
メーカーが環境問題の取り組みを行っている中、ガチャガチャのカプセルに目を付けたのが「あミューズ」です。ガチャガチャのカプセルは、PP(ポリプロピレン)とPS(ポリスチレン)で作られています。一般的に商品を取り出した後、一部プラスチックリサイクル業者経由で再生プラスチックになっていますが、カプセルの多くはゴミとして処分されます。
今回発売する「バイオカプセル」のきっかけは、「『ガチャガチャのカプセルをゴミとして捨てるのは環境のためには良くないですよね。リサイクルができないの?』というお客様の声から開発がスタートしました」と話すのは、あミューズの代表の林基史さん。
このお客様の声を聴いたのが2015 年。林さんはまず、カプセルをリサイクルできないかと考えましたが、コストの問題で断念。次にタピオカの原料であるキャッサバ芋がストローになっていたことを知り、キャッサバ芋でカプセルができるかどうか試しましたが、成形の問題が発生した結果、こちらも上手くいきませんでした。その後、トウモロコシ粉など試行錯誤していくうちに、三菱ケミカルの生分解性樹脂「BioPBS」の存在を知ることにより、今回のバイオカプセルが誕生しました。商品化するまでになんと、5年の歳月を要しました。
バイオカプセルは「AMバイオカプセル」、「AMバイオカプセルS」、「AMバイオカプセルB」の3種類があり、お客様の要望に沿ったバイオカプセルを提案していく考えです。
「AMバイオカプセル」は自然界の土中の微生物の力で水と二酸化炭素に自然に分解される生分解性プラスチック(三菱ケミカルの生分解性樹脂「BioPBS」)を使用しています。使用後、燃えるゴミとして廃棄できます。
「AMバイオカプセルS」では、ポリエチレンの分子である炭素と水素に酵素が結びつくことで水と二酸化炭素に分解されます。廃棄後、水と二酸化炭素に分解され自然界に戻ります。
「AMバイオカプセルB」については、農林水産省のバイオマーク度80に合格している、植物由来のバイオプラスチックになっています。
林さんはバイオカプセルについて、「バイオカプセルが環境問題を考えるきっかけになってくれればいいですね。もちちろん自分たちも環境問題に意識を持ちつつ、同じ意識を持った輪が広がってほしい。環境問題に対して自分たちができる範囲で活動していきたい」と話してくれ、林さんの環境問題に対する意識の高さがうかがえました。
現在は、バイオカプセルをガチャガチャ業界に提案するほか、異業種の住宅メーカーには、バイオカプセルのなかに花の種と土を入れた栽培セットを提案しているそうです。このように、ガチャガチャ業界以外にも、カプセルの活用用途を広げているのは、林さんはガチャガチャに業界の枠を超えた可能性を感じているからだと言います。
林さんは「世の中にすでにあるものではなく、ちょっとでも新しい切り口、新しい刺激で表現できる形で、ものづくりを続けていきたい」と、ものづくりに対する想いを語り、今回のバイオカプセルも新しい切り口で開発されたものでありました。
今回のバイオカプセルは、通常のカプセルよりもコストがかかるため、ガチャガチャ業界にとって、コスト面で難しいという課題があります。ただ、ひとつの提案としてメーカーが協同で大量生産という形になればコスト面の課題もクリアできるため、バイオカプセルは各メーカーにとっても環境問題を更に取り組む契機になります。
また、ガチャガチャの商品のほとんどが樹脂材料です。バイオカプセルをきっかけに商品づくりへの考え方も変化していくかもしれません。今後の動向が楽しみです。
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