IT・科学
「MMOで人生が狂った」リュウジさんが人気料理研究家になるまで
月1万の食費時代、思い出のチキンソテー
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月1万の食費時代、思い出のチキンソテー
Twitterのフォロワー180万、YouTube登録者数190万の人気料理研究家リュウジさんですが、実は引きこもりだった過去を持ちます。「MMO(オンラインゲーム) で人生が狂った」という小中学校時代。世界一周の旅から漫画喫茶のアルバイト、ホテルマンなど様々な職を経験してきました。「料理はうまけりゃいい」「だし巻きはノーカットで」。リュウジさんが料理系インフルエンサーになるまでの道のりを聞きました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)
――テレビではいつも明るい人柄ですが、小さい頃から元気なキャラだったんですか?
おとなしかったです。そして、陰気な感じでした。ずっとゲームをやっていましたね。
――テレビの印象と違いますね。
仕事ですから(笑)。テレビで暗い顔は見たくないでしょう?
――YouTuberはまた違いますよね?
YouTubeは酔っ払ってるだけ(笑)。
――料理は小さい頃からしていたのですか?
ゲーム以外はほぼ何もしていませんでした。MMO(複数の人と一緒に遊ぶオンラインゲーム)はかなりやっていて、それで、ほぼほぼ人生くるったかな(笑)。MMOで引きこもりになったので。
――え、そうなんですか?
引きこもりになったのは、中学から高校にかけてです。何もしないで家にずっと閉じこもっていました。もともと母子家庭で兄弟もいなくて。小学校から父親みたいな人はいましたが折り合いが悪くて、ずっと一人でした。なので、部屋に引きこもって、ずっとゲームをしていたんです。
――初めて料理は?
高校生の時に作ったチキンソテーです。すごくおいしかったです。
――なんで、チキンソテーを?
鶏胸肉が安かったから……。それで、インターネットで調べましたね。あのころはインターネット全盛だったから。チキンソテーが、料理を好きになったきっかけになりました。今でも作ります。思い出の品ですから。でも、当時のやり方では作らないなあ、火の通し方とか難しいので。あの頃はまだ凝った作り方をしていたんですよね。
――高校時代は?
高校は1年でやめました。その後、アルバイトでお金ためて、18歳で世界一周旅行をしました。行きたいという気持ちが先行していたので、怖くはありませんでした。船に乗っていろいろなところに泊まって観光するというものなので、そんなに危ないものでもありませんでした。
――世界一周して意識が変わったことはありましたか?
行っても、そんな変わらないですよ(笑)。世界を見たから変わったということではないけど、いろんな人と触れ合ったことで、人としゃべらなかった性格が変わりました。船にはたくさんの若い人が乗っていたので、友達ができたんです。親元を離れるのが初めてだったからホームシックになったりもしたけど、みんなが外に連れ出してくれたりして。色々話しましたね。それはうれしかったです。
――世界中を回って、いろいろな食事を食べたことが、料理人になることに影響しましたか?
それはとてもつながっています。ぼくは観光に全く興味がなかったので、食に関する行動しかとっていなかったんです。例えば、ペルーに停泊していた時、ほとんどの人がマチュピチュに行ったんですけど、僕は街を歩いて、いろんなもの食べたり、スーパーに行って何が売っているか調べたりしていました。
――世界一周後、日本に帰ってきて料理を始めたのですか?
いえいえ。まだプロとしては全くです。19歳で戻ってきて、そこから2年間漫画喫茶でアルバイトをしていました。ただ、その時から、一人暮らしをし始め、毎日料理をするようになりました。その方が安いから、ということだけです。コンビニで弁当を買う金がなかったんです。リアルに月1万円くらいで食事をしていました。
――それが今の料理につながっているんですか?
まさに、です。当時の経験から、あんまり高い食材は使いたくなくなりました。生活のための料理をそこで覚えていたからです。料理を趣味でやっている方も多いですが、僕は趣味の料理では全くないのです。
――たしかに、リュウジさんの料理は手間をかけるような料理というよりは、疲れている時にでもできる簡単な料理ですよね。
仕事として料理をすると、クオリティーを求めちゃうんですよ。でも、クオリティー求めすぎると、難易度が高くなっちゃうんですよね。だから、お店で料理をするような料理人が毎日生活のために料理しているかと聞いたら、あまりしていない方もいらっしゃるのではないかと思います。すごく手間をかけて、料理をするというのはアーティストに近いものなんで。
――なるほど。料理研究家と料理人は違うんですね。
僕のような料理研究家(料理レシピを紹介する人)と料理人(レストランなどで料理を作る人)はちょっと違いますよね。僕らは日々の食事に寄り添うので、作りやすいことを優先します。1回作って満足する料理じゃないんです。日々ずっと続けられる料理を紹介するんです。僕はそのことをものすごく大切にしているので。
本当に美味しいものを作る技術ももちろん大事ですけど、冷蔵庫の中にある食材を使っていろいろな料理をするような、応用が効く技術を持つことを大切に考えています。
――他の料理研究家との違いなど意識していることはありますか?
うまけりゃいいと思っているところですね。人間ってなんで料理するのといったら、節約のためとか、体調管理とかいろいろありますけど、根幹はおいしいもの食べたいから、ということにつきますよね。だから、とにかく、おいしさを求めています。
そして、美味しさに行き着く道筋は短ければ短いほどいい。だって、美味しいものをすぐに、簡単に食べたいんだもん。だから、そこを最短にしていますね。無駄なことを一切しない。なるべく、電子レンジを使うようにするなど、とにかく早くて簡単にできるようなことを意識しています。手間をかけることも確かに素晴らしいですが、それを押しつけてはいけないと思います。
――仕事として料理に関わり始めたのはいつですか?
直接的じゃないですけど、ホテルマンの時ですかね。21歳でホテルマンになりました。そこで料理を提供する際の大事なポイントを学びました。
料理を提供する時に、一言添えてあげると、みなさん、すごくおいしそうに食べるんですよ。「このソースはこうやって作っています」「何時間煮込んでますよ」というような一言だけなんですが。それはやってもやらなくても良いんですよ。「はいどうぞ、お魚料理です」という最低限のことしか言わない人もいるし。でも、僕はちゃんと言うようにしていました。
――それが今のYouTubeで料理の説明をする時にいきているんですかね
そうなんです。一言添えて出すことがものすごく大事。ぼくはめちゃくちゃ説明しますよ。でも、それは家庭でもそうです。家族に食事を出すときに、「こうやって、こうやってつくったのよ」と手間をかけて作ったこと伝えると、おいしく感じるんです。料理に添える言葉というのは調味料なんですよ。
――ホテルマンだった時、料理はしなかったんですか?
家ではかなり料理をしていました。なので、よく厨房とかに行って、料理長の話を聞いたり、作っているところを見ていました。「何しているんですか?」みたいな感じで。
「リゾットがうまくできなかったんですよ。どうしたらいいですか」と聞いたら、「家なら、コンソメつかって煮込めばいいよ」「スープで生米を煮とけばいいよ」みたいに、いろいろな話を聞きましたよ。僕の職場だと、ウェーターはあんまり料理に関心がある人がいなかったんです。でも、僕はよく聞くから、厨房の人はよくしてくれていましたよ。
――テレビ番組の打ち合わせなどでは、自分の意見をはっきり言うようにしていますね。
それは、自信があるからです。料理を作る人は一番強くないとダメなんですよ。それはホテルの厨房で教わりました。ホテルの厨房の料理人ってすごく偉そうな感じの人が多いんです。クリエーティブの根幹を作っている人が強くないと、ピリッとしないんですよ。冷ましちゃったり、雑な扱いをして盛り付けを崩しちゃったり、してしまう。だから、根幹を作る人ははっきり言う。そうしないと、誰も幸せにならないんですよ。料理以外のあらゆることで、そう言えるんじゃないかな。
――はっきり言うことで、距離を置かれちゃう場合もあるじゃないですか?
僕は、そもそもお金のためにやってないんですよ。だから、自分を曲げてまでする仕事はしなくていいかなと。いいコンテンツを作るためには、ものすごく喧嘩をします。喧嘩すること自体、正直、ひとつも得はないんですけどね。嫌われるだけだし。ただ、職人気質なんだと思います。
――リュウジさんにとって、いいコンテンツって何ですか?
それを見て作れるかどうかです。本当においしく作れるかどうか。それに尽きます。僕は映像の演出的なところは何も言わない。僕をいくらでもいじってもらって良いし、何してもらってもいい。でも、見てくれた人が作れる料理かどうかを監修するのが僕の仕事なんです。
――チェックするポイントは?
例えば、この前、だし巻き卵の編集をしてもらった時は、焼いているところで、途中がバッサリとカットされたんですね。でも、だし巻き卵って巻くのってむずかしいから、これノーカットで、最初から最後まで全部見せてって、言ったんです。だって、みんな、巻くのが難しいから、どこで何をしているか一通り全部知りたいでしょ? 一部でもカットされていたら、わからなくなると思うんです。だから、ここは絶対にノーカットでとお願いしました。
――料理をずっとやっていると、一般の人の感覚がわからなくなることもあるかと思うのですが、だし巻き卵の巻くのが難しいという感覚をどうやって保っているんですか?
僕が一般人だと思っているから。一般人じゃないと、一般人の気持ちはわからない。料理についてはもちろんプロだけど、みんな何かのプロじゃないですか。ホテルマンやっていた時は、接客のプロ。ホテルマンの後は介護の仕事をしていたので、その時は介護のプロだった。みんな同じように何かのプロなんですよ。でも、みんな基本的には一般の人でもある。そういう感覚をもって仕事しています。
――プロとして日々料理をしていると、できることが当たり前なのか、どうなのかわからなくなる気もします。
SNSの反応をめちゃくちゃ見ているのが大きいかもしれませんね。それがSNS時代の料理家のいいところですよね。本や雑誌で出しても、反響は出た人にはほとんど届かないんです。それがすぐに反応が見られるのがSNSの良さですね。
「おいしそう」「これならできそう」とか。そういうので、出すたびに、超感覚が研ぎ澄まされるんですよ。逆に、「これ難しい」「失敗しました」とかのコメントも来るんです。失敗しましたという投稿がたくさん付いたら、それは僕のレシピが悪かったんだなという感覚になります。公開したレシピがあまり評判良くない場合は、結構変えます。
――SDGsにおいて持続可能な働き方も注目されています。リュウジさんはインフルエンサーとして、会社の社長としても、色々な仕事をしていますが、働き方はどのように変わっていくのでしょう?
今までは人を統括している会社がたくさんあったじゃないですか。人材派遣とか、事務所とか。人をマネジメントしてお金を得る仕事ですね。そういうものは、少しずつ衰退していくんじゃないかなと思っています。
――今、芸能界でも続々とタレントがフリーになっていますよね。
自分で発信できる世の中になっているからです。僕は会社の社長といっても、会社には4人しかいない。社員4人なのに、食品メーカーやメディアや広告会社など、色々な大手の会社の方々とたくさん仕事をしています。きっと昔はありえなかったんですよ。だけど、今はフリーで仕事ができるようになってきたんです。
それはなんでかっていうと、やっぱりSNSやネットが発達して、一人一人が発言力を持つようになったということが大きいんですね。いままではテレビや新聞、雑誌とかのメディアを通さないと意見を言えなかったわけです。でも、今は自分のアピールが自分一人でできるような世の中になった。だから、それを代わりにやってくれていた企業はどんどん減っていくんじゃないかな。
――タレントやインフルエンサーだけでなく、個人でもSNSを駆使しながらフリーで仕事をしている人が最近、増えていますよね。
個人でやれることが増えているんですね。副業OKの会社も増えていますし。時代の移り変わりだと思うので、自分には何ができて、自分の特性がどういうところで生かされるのか、というのをしっかり把握して、売り込んでいくのがこれからは大事になるんじゃないかなと思います。
好きなこと仕事にしなくてもいい――取材を終えて
中学校時代の引きこもりから始まり、食事ばかりの世界一周旅行、本格的に料理を始めた漫画喫茶のアルバイト、料理と向き合ったホテルマンなど、どの経験も、今の料理研究家のリュウジさんの土台になっていることが印象的でした。リュウジさんは料理研究家としての今の自分を「成り行きでなっただけ」と言います。しかし、一つ一つの経験において、自分の頭で考え、取り組んできたことが蓄積されているように感じました。
インタビュー終わりに、インフルエンサーやYouTuberになろうと思ってがんばっている人に対して何かアドバイスをないか尋ねると、無理にがんばる必要はないのではと返ってきました。
「みんな、自分のやりたいことを実現するのが幸せと言うんですよ。でも、好きなことをやるだけが幸せじゃないと思っています。好きなことをやっていない人たちも、当然たくさんいます。やりたくない仕事をやって愚痴はあるかもしれないけど、家に帰って、大好きなビールを飲んだり、自分の大好きなゲームをやったり。そういう人生も幸せだなと思います。ぼくもサラリーマン時代はそういう感じだったので」
多様性が叫ばれる中で、好きなことをSNSやYouTubeを使って実現するキャリアが注目されています。しかし、好きなことを見つけなきゃと思って、キャリアに悩んでいる人もたくさんいます。だからこそ、好きなことをしない生き方にもしっかり光を当てなければいけないなと思いました。
やりたいことがある人は、SNSなどをうまく活用して夢を実現する。やりたいことがなければ、それ以外での幸せを見つける。いいことも悪いこともたくさんあったリュウジさんの人生から、SNS時代の多様な生き方を学びました。
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