MENU CLOSE

エンタメ

昭和感漂う“クズ芸人”の魅力 特異なコント師、空気階段の実力

借金・マザコン・官能小説…ラジオきっかけにブレーク

雑誌で取り上げられることも多い空気階段の2人
雑誌で取り上げられることも多い空気階段の2人

目次

昨今、ギャンブルや遅刻癖のほか、目の前の私利私欲に走ったりする“クズ芸人”が注目を浴びている。中でも、空気階段の鈴木もぐらと水川かたまりは、“借金”や“マザコン”といったプライベートのネガティブな部分をさらけだしながら、独自の世界観を築いてきた。2021年2月に行った単独ライブ『anna』では、会場チケットは即完売、配信チケットは1万枚以上の売り上げを記録するなど好評を博した。飾らない私生活と本格派コント師の顔というギャップが持ち味の空気階段。2人の活躍から、“クズ芸人”の魅力に迫る。(ライター・鈴木旭)

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」

 

鈴木旭(すずき・あきら)
フリーランスの編集/ライター。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。2021年4月に『志村けん論』(朝日新聞出版)を発売。
 

ヒゲ面のままコントを披露

鈴木と水川は、ともにNSC東京校の17期生だ。しかし、養成所時代は話したことさえなかった。それぞれ別々のコンビを組んでいたが、卒業間際でいずれも解散。同期の仲間とうまくなじめなかった鈴木が、同じ境遇にいると察した水川を誘って2012年にコンビを結成することになった。

デビュー当時から鈴木は今と同じヒゲ面だった。ある構成作家から「なんでコントやってるのにヒゲ生えてんだ?」と厳しい指摘を受けたこともあったが、彼らは容姿を変えずにコントを披露し続けた。すると、徐々にそれが彼らのスタイルとして認められるようになっていく。

2014年までは鳴かず飛ばずだったが、翌2015年に独自のキャラクター性を打ち出したコント「多重人格」で手応えをつかむ。明らかに客の反応が変わった瞬間だった。同年の「キングオブコント」で初の準決勝進出。翌2016年、2017年に若手のスター発掘を目的としたネタ番組『マイナビ Laughter Night』(TBSラジオ)では、2年連続でグランドチャンピオンに輝くなど頭角を現し始める。

2017年4月、そんな中でスタートしたのがラジオ番組『空気階段の踊り場』(前同)だ。2人のキャラクターはここでさらに開花することになった。

学生時代のもぐら「銀杏BOYZ」に心酔

650万円の借金、ギャンブル好き、ヘビースモーカーなど、昭和感漂う“クズ芸人”として知られる鈴木。しかし、そんな彼の青春時代はとても真っすぐでピュアなものだった。

その事実が明るみになったのも先述の『空気階段の踊り場』だ。青春パンクバンド「銀杏BOYZ」にまつわるエピソードを語った放送回(2019年4月5日放送)は、鈴木の内省的かつ情熱的な一面がこれ以上なく表れた内容だった。

中学2年生の頃、鈴木は銀杏BOYZの前身バンド「GOING STEADY」のアルバム「さくらの唄」を聴いて衝撃を受けた。このバンドは、モテない、冴えない自分のモヤモヤした気持ちを代弁してくれている――。作詞・作曲を担当するボーカル・ギター峯田和伸が描き出す世界に心酔した。

高校に進学した鈴木は、峯田が新たに結成したバンド・銀杏BOYZのライブに足しげく通うことになる。そのうち、峯田からも「もぐら」と声を掛けられるようになった。そもそも「もぐら」はバンドの公式サイトで使用していたハンドルネームだったのだ。金もないままライブに出向くと、峯田からハンバーガーを奢ってもらったり、同じホテルに泊めてもらったりもした。

大阪芸術大学に進学したものの、学費が支払えず除籍。芸人を目指して東京に転居すると、2017年に峯田と偶然の再会を果たす。鈴木が自信なさげに芸人になったことを伝えると、峯田から「いつでも連絡してこいよ。オレのメールアドレスわかるだろ?」と言われた。半年後、単独ライブが決まり、迷いに迷って当日のギリギリになって峯田にメールした。

すると、間もなく返信があった。峯田は「ワンマンの当日の朝4時にきてほしいって、こうしてメールしてくるお前のことがオレは好きだ」と、本当に予定を空けてライブにきてくれた。そんな峯田に改めて鈴木は痺れたという。

今年3月、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で放送された「CMオーディション」のドッキリ企画でも、鈴木は最後まで文句を言わずに出演権を勝ち取っている。ヒゲ・小太り体型といった容姿や声のトーン、語り口も魅力的だが、クズとピュアさのギャップこそ鈴木が持つ最大のポテンシャルと言えるだろう。

銀杏BOYZの峯田和伸=竹谷俊之撮影
銀杏BOYZの峯田和伸=竹谷俊之撮影
出典: 朝日新聞

マザコン、官能小説…ミステリアスな水川

一方の水川は、『空気階段の踊り場』の放送を重ねる中で“マザコン疑惑”が露呈した。

母親から「あんた絶対事故るから」と言われたことで運転免許の取得を断念していたり、1年ほど働いていた警備員のアルバイトも「あんたどんくさいから車に轢かれちゃうかもしれない」と指摘されたのをきっかけに辞めたりしている。また、親から総額1000万円以上の仕送りを受け取っていたことが判明するなど、ともすれば“鈴木以上のヤバさ”が浮き彫りになった。

さらには、過去に「熟女好き」と口にしていたにもかかわらず、2018年10月12日の放送回で2歳年下の女性と交際していた事実が発覚。すでに別れていたものの復縁を望んでいた水川は、番組のエンディングで号泣しながらプロポーズを試みる。この時点では振られてしまったが、数カ月の時を経てヨリを戻した。その後、2020年1月に入籍したが、わずか11カ月でスピード離婚……。何とも一筋縄にはいかない芸人なのである。

水川は慶応義塾大学に進学後、周囲のノリになじめず2カ月で中退。NSCに入るまでの1年半ほど引きこもった過去もある。そもそも繊細な一面を持っているのだ。

空気階段でネタの大枠を担当するだけでなく、2020年6月に発売された『Quick Japan vol.150』(太田出版)で初の書き下ろしセクシー小説『アサミ〜愛の夢〜』を発表。歪さとピュアさが入り混じる官能的な世界を描き、新たな才能を開花させた。

飄々(ひょうひょう)としていて、どこまで掘り下げても新たな事実が顔を見せる。隠しきれない隙の甘さも含め、つかみどころのない性格や言動が水川の魅力と言えるだろう。


クロちゃん・ナダル・伊藤俊介…癖のある芸人に通じる「共生感」

昨今、ギャンブルや遅刻癖のほか、目の前の私利私欲に走ったりする“クズ芸人”が注目を浴びている。ギャンブルなら岡野陽一や空気階段・鈴木、遅刻癖ならオズワルド・伊藤俊介やラランド・ニシダ、自己中心的な発言ならコロコロチキチキペッパーズ・ナダルや安田大サーカス・クロちゃんが代表的なところだろう。

彼らに共通するのは、普通なら隠したくなるような欠点を、独自のキャラクターで丸め込んでしまうことだ。ナダルやクロちゃんはその典型例で、自身の未熟さをまるで正当な行為であるかのように主張する。「自分には非がない」と悪びれることもなく押し切ってしまうのだ。

これが支持される背景には、あまりに制約の多い世の中に対する反動があるのだと思う。現在、コンプライアンスの遵守、多様性という名の同調圧力、コロナ禍による自粛疲れや経済の悪化など、息苦しい空気があたりを漂っている。私たちは潜在的にストレスを抱え、発散の場を失っているのではないか。そんな現実のガス抜きとして、クズ芸人が機能しているのだと感じてならない。

狩野英孝が自身のYouTubeチャンネル『狩野英孝【公式チャンネル】EIKO!GO !!』で配信しているゲーム実況が人気なのも同じような理由からだろう。「ゲームの上手さ」や「狙った面白さ」ではなく、ちょっとしたアクシデントに一喜一憂する狩野のキャラクターが面白く、ゲーム好きでなくとも延々と視聴できてしまうのである。

人は誰しも不完全だ。空気階段の2人もまた、ラジオ番組でそれぞれの不完全さをさらけ出している。「共生感」とも言うべきリアルさが、今の芸人には求められているのかもしれない。

安田大サーカスのクロちゃん
安田大サーカスのクロちゃん

有吉の番組と賞レースで存在感示す

“クズ芸人”としても世間に浸透しつつある空気階段だが、テレビでの露出が増えるに従い、賞レースでも着々と実力を発揮している。

2018年末に放送された『有吉のお饅頭が貰える演芸会』(テレビ朝日系)に出演すると、2019年には、『有吉の壁』や『ウチのガヤがすみません!』(ともに日本テレビ系)、『ゴッドタン』(テレビ東京系)、『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)といった番組に姿を見せ、人気芸人の仲間入りを果たした。

賞レースでは2019年のキングオブコントで初の決勝進出。翌2020年も決勝に駒を進め、3位という結果を残した。さらには、今年元日に放送された『ネタパレ元日SP』(前同)の「ネタパレNEW YEARグランプリ」で優勝を果たしている。現在、もっとも勢いのあるコンビと言えるだろう。

ブームに翻弄されない特異なコント師

空気階段が広く知られるようになったきっかけの一つに「第七世代」ブームがある。

いち早く第七世代を特集したムック本「芸人芸人芸人 面白いのが、好きだ volume1」(コスミック出版・2019年6月18日発売)には、やさしいズと空気階段の対談が収録されている。第七世代の定義こそ曖昧だったが、少なくとも次世代スターの中の1組として取り上げられたのだ。

その後、第七世代の中心メンバーはバラエティー番組で取り上げられるようになった。その軸となったのは、『ネタパレ』(フジテレビ系)に出演していた若手芸人と考えて間違いない。当初は、ハナコ、かが屋、EXIT、宮下草薙、四千頭身らが象徴的な存在として露出し、その後に賞レースで結果を残したぺこぱ、3時のヒロインらが加わり、2020年のバラエティーを盛り上げていった。

空気階段は、東京03が2019年に行った単独公演『人間味風』の追加公演に“第七世代枠”としてゲスト出演している。 昨今、6.5世代を自称するチョコレートプラネットやかまいたちの活躍も目立つ中、今年に入ってから『ENGEIグランドスラム』(前同)に初出演し、第七世代の1組としてネタを披露。時間差こそあれ、実力のある若手としてテレビでもスポットを浴びるようになった。

彼らは、近年稀に見る特異な世界観を持つコント師だ。その持ち味は、自身のラジオ番組を通して、さらに色濃くなったように思う。コント番組が増えてきた今こそ、空気階段のさらなる活躍に期待したいところだ。

関連記事

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます