連載
日本のゴールキーパー、世界との差は? 代表の守護神が本音で語る
権田修一とシュミット・ダニエルが対談
日本のGKとして川口能活(45)が初めて海外移籍してから20年。ほかの選手も後に続いたが、欧州トップレベルのリーグで活躍する日本のGKはまだほとんどいない。育成環境、プレーへの視線……。海を渡ったGKたちは違いをどう感じているのか。日本代表の権田修一(32)=清水=とシュミット・ダニエル(29)=ベルギー・シントトロイデン=に聞いた。
権田「お互い欧州(当時、権田はポルトガルのポルティモネンセに所属)でプレーしていて。新型コロナウイルスの影響があるなかで日本の子どもたちに何かしたいなと考えていた」
シュミット「自分もこれまで、日本のGK全体に対して、普及活動とか、できていなかった。ベルギーに行って、GKへの憧れや熱量が日本はちょっと劣っている、と感じていて。専門のGKコーチの指導を受けられる機会も少ないな、と思っていた」
シュミット「ベルギーではリスペクトを感じるんです。練習場でも、『シュミット!』と子どもからよく声をかけてもらえる。小学2~3年の子はシュート練習で全員が交代でGKの役割を回す。GKというポジションを理解し、経験する大切さが指導の段階で浸透している」
権田「ベストセーブ、ベストGKなどの表彰もあるよね。新聞ではジャーナリストがGKのプレーについて書いている。日本では見たことがないよね。セーブをゴールと同じくらいフォーカスして見ているんだな、と感じる」
権田「オーストリアでは、体の大きいDFが多かったから、クロスの対応はDFに任せろ、とか。スーパーセーブの定義も違う気がする」
権田「この前で言えば、鹿島―FC東京の試合。後半立ち上がり、FC東京の波多野豪選手がミドルシュートを打たれて、キャッチをした。鹿島はセカンドボールもちゃんと詰めてくる。その状況でしっかりキャッチできる、キャッチという技術を選択できるメンタリティ、そういうのを海外メディアの人は評価してくれるな、と。日本だと、それより、はじいたプレーのほうがナイスプレーみたいに見られちゃう」
シュミット「すごくわかる。(欧州では)シュートの状況、時間帯、難しいポジション移動を伴うかどうかを見て、厳しいシュートを難なくキャッチするプレーも評価される。メディアも含む理解の差を感じるかな」
権田「僕は20歳でイタリアに練習しに行って衝撃を受けた。冬場、ぐちゃぐちゃのグラウンドで、イタリアのセリエDのアマチュア選手がすごいパワーでシュートを止めた。僕は滑って何もできない。もっと厳しいところでやらないと相手にならないと感じた」
シュミット「僕はプロ2年目、J2熊本で試合に出られるようになったくらいから海外を意識した。試合前に海外の映像を見ていたら、いけるんじゃないかって。海外ではまず、仲間に認められなければいけない。一番難しいのは語学。父が米国人なので英語を聞くのはそこそこだけど。ゴンちゃん、アジア杯があった2019年、宿舎にめっちゃ教材もっていってなかった?」
権田「持っていったけど、やっぱり使いづらかった。僕はいつも、車を運転するときに、頭のなかで考えることを全部その国の言葉にしてみる。頭のなかで、あれ、これ英語だったらなんていうんだろうとか。ポルトガル語だったら、ドイツ語だったらなんだ、とか。その言葉が、1日生きていて使う言葉じゃないですか、結局。朝起きて、おはようっていいたい。じゃあ、ボンジーアなのか、グーテンモルゲンなのか、グッドモーニングなのか。知らなかったら、調べて使おうとする。携帯で辞書をいれておいて、それを使ってみる。必要な単語から覚えていく作戦です」
シュミット「結局、アウトプット、インプットの繰り返しで、語彙がふえていく。監督によって、よく使う単語はあるから、それさえ理解しておけば、その監督のもとでサッカーはできるかなと思うけど……。他のポジションに比べてダントツで伝えなきゃいけないことが多い。簡潔に、一番わかりやすい言葉をパッと選択する力はどれだけ学んでも身につきにくい。そうした経験を、どれだけつめるか、でしょうね」
※後編は6月4日配信予定です
世界一になるためには、世界一のGK――取材を終えて
川口能活さんが英・ポーツマスへの移籍を決めた2001年。私は、サッカーに夢中な小学6年生だった。憧れだった川口さんのセービングが世界でも通用するのか。そんな期待に、胸がおどったのを覚えている。
ただ、残念ながらこれまで欧州の5大リーグで活躍したGKは川島永嗣を除けば、ほとんどいない。なぜなのか。ドイツのクラブで働く知り合いに聞くと、「こっちには190を超える良いGKがたくさんいる。言葉も通じない日本のGKをわざわざ獲得する必要はない」。そういわれ、落ち込んだ。
日本の取り組みが進んでいないわけではない。日本サッカー協会は初めてW杯に出場した1998年、世界との差を感じ、「GKの養成が急務」と分析をした。
「世界一になるためには、世界一のGKが必要だ」と新たにGKプロジェクトも立ち上げた。全国各地でGKトレセンが開かれ、今、Jリーグで10代や20代のGKの活躍が増えているのは光明だろう。
今回の対談で、欧州5大リーグで活躍するGKを育てるには、メディアも含めた日本のGKの見方も、変えていかなければいけない、と感じた。「よろしくお願いしますよ」。権田選手に冗談まじりにいわれた言葉を胸に、今後も企画を続けていきたい。
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