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頭から離れない「マヌルネコのうた」 知ってほしかった動物園の使命

「マヌル ヌルヌル マヌルネコ……」

那須どうぶつ王国が制作した「マヌルネコのうた」
那須どうぶつ王国が制作した「マヌルネコのうた」 出典: 那須どうぶつ王国のYouTubeより

目次

「意外と獰猛(どうもう)」「最古なネコ」「短いあんよを見せてやんよ」――。リズミカルな歌にあわせて、マヌルネコの躍動感あるジャンプや雪の上で遊ぶ様子が流れる「マヌルネコのうた」。那須どうぶつ王国がTwitterに投稿した動画が100万回再生されています。マヌルネコの魅力とともに知ってほしかったことは、「種の保存」という動物園の使命。制作の経緯や込めた思いを聞きました。

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ツイッターに投稿したマヌルネコのうた

「マヌルネコのうた」のミュージックビデオは「国際マヌルネコの日」である4月23日に、栃木県那須町の「那須どうぶつ王国」のツイッターへ投稿されました。
出典: 那須どうぶつ王国のYouTubeより

雪が積もった枝の上を歩く様子や、木の陰から何かを狙うような姿――。歌詞には「寒いところに住んでいる」「短いあんよ」「絶滅のおそれあり」といったマヌルネコの生態や現状が盛り込まれています。

一度聞くと、サビの印象的なフレーズ「マヌル ヌルヌル マヌルネコ」が頭から離れなくなります。SNSでも「クセになる」「予想外のかっこよさ」といった反響が寄せられ、これまでにTwitterで約100万回、YouTubeで75万回超、再生されています。

絶滅の恐れがある希少動物

マヌルネコは中央アジア周辺の、乾燥した樹木のない高地の岩場や平坦な草原に生息しています。夏は酷暑で冬は氷点下という過酷な環境です。

生息環境は雑菌が少ないため感染症に弱く、飼育下での繁殖は非常に難しいそうです。ワシントン条約の付属書Ⅱに記載されており、将来絶滅の危険性が高い野生希少動物とされています。

那須どうぶつ王国では、そんな現状や、マヌルネコの独特な動きといった魅力を知ってもらおうと、まずは4月1日のエイプリルフールに「マヌルネコの歌」の予告編を出しました。

ヤツは実在した――。壮大な映画を思わせるような予告編に、「本当につくるの?」「これはウソ?」といった多くの反響が寄せられたといいます。それを実現したのが「マヌルネコのうた」だったのです。

クリエイターから「撮らせてほしい」

実は一連の動画は、クリエイティブ・ディレクターの富永省吾さんから昨年5月、那須どうぶつ王国へ「映像を撮らせてほしい」というオファーがあって始まったプロジェクトだといいます。

2019年に那須どうぶつ王国の夫婦(ボルとポリー)から生まれたマヌルネコの子ども(エルとアズ)のYouTube動画を見た富永さんは、一気にファンになったそうです。
那須どうぶつ王国で生まれ育った2頭。その前の出産では赤ちゃん全頭が死んでしまい、2019年も8頭のうちエルとアズの2頭だけが育ったそうです。アズは、姉妹園の神戸どうぶつ王国で観ることができます 出典: 那須どうぶつ王国のYouTubeより
那須どうぶつ王国の総支配人・鈴木和也さんは「富永さんはマヌルネコの希少性や、人間の経済活動で数が減っていることなどを知った上で『何かできないか』と連絡をくださいました。意気投合して『ぜひやろう!』と話がまとまりました」と言います。

ただ、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出ていたタイミング。クラウドファンディングを実施するなど園の運営を続けるのが精いっぱいで、なかなか動画制作の予算が捻出できずにいました。
出典:那須どうぶつ王国のYouTubeより
しかし、国がデジタルコンテンツの発信に新たに補助を出していることを知ります。「応募したところ幸いにも採択されて、一部を制作費に充てることができました。いろいろな幸運が重なって制作できた動画です」と振り返ります。

かわいいけれど飼えません

そのラッキーのひとつは撮影時に雪が降ったこと。スウェーデンからやってきたポリーは雪が大好きで、マヌルネコらしい動きを存分にみせてくれました。
頭を低くして、短い足を忍者のように運ぶ……そんな野生で見られる動きや躍動感が伝わってきます。

2頭のストレスにならないよう、音を立てない・カメラのレンズを近づけないなど、時間をかけて細心の注意を払って撮影したといいます。
「さわったり、おうちで飼うことはできません」「眺めて愛でましょう」と訴えます
「さわったり、おうちで飼うことはできません」「眺めて愛でましょう」と訴えます 出典:那須どうぶつ王国のYouTubeより
そしてマヌルネコのうたのラストには、「さわったり、おうちで飼うことはできません」「眺めて愛でましょう」という呼びかけも入りました。

那須どうぶつ王国の広報担当の宮地さくらさんは「そのかわいさから『飼いたい』という気持ちがわいてしまうのは分かるのですが、メディアで話題になったスナネコも含め、家畜化されていない野生動物はペットには向いていません」と指摘します。
意外と獰猛なマヌルネコ。ペットには向きません
意外と獰猛なマヌルネコ。ペットには向きません 出典:那須どうぶつ王国のYouTubeより
「コツメカワウソのようにペット化したことで密猟に遭って生息数を大きく減らしてしまった動物もいます。こういった問題を知ってほしいという思いもありました」と話します。

鈴木さんは「マヌルネコに限らず、さまざまな動物の種が減っています。『種の保存』という動物園が取り組む使命をしっかりと伝えたい」と訴えます。

初めて知って検索しました 届いた手応え

実は鈴木さんもマヌルネコのファン。「総支配人が特定の動物を推すのはよくないと思いつつも、あの動きや個性にはまってしまって……理屈ではないんです」と笑います。

ポリーがやってきた5年前は、まだまだマヌルネコの知名度が低く、そのユニークさや野生下での状況をSNSなどで訴えていたといいます。
飼育員に聞き取り、富永さんが歌詞を書きました。ポリーは「顔のパーツが中心に寄っている」そうです
飼育員に聞き取り、富永さんが歌詞を書きました。ポリーは「顔のパーツが中心に寄っている」そうです 出典:那須どうぶつ王国のYouTubeより
これまでも動物好きの人たちに伝わっているという手応えはありましたが、今回の「マヌルネコのうた」は、野生動物に興味がなかった人にも届きました。「初めて知って検索しました」といった感想も寄せられたといいます。

「いつか必ず行きたいです」という反響

鈴木さんは「裾野を広げる挑戦には、エンタメの力を借りるのが近道だと思いました。とはいえ野生動物なので、過度な擬人化をしないよう、綿密に神経を使って制作しました。応えてくださった富永さんやミュージシャンの方々には本当に感謝しています」と話します。

コロナ禍で、遠くから動物園を訪れることも難しい時期ですが、「いつか必ず行きたいです」といった声もあったといいます。
飼育員さんによると「ボルくんはマヌルの中でもイケメン」。
飼育員さんによると「ボルくんはマヌルの中でもイケメン」。 出典:那須どうぶつ王国のYouTubeより
「このタイミングなので、この動画によるリアルな集客はあまり考えていませんでしたが、『いつか行きたい』と言ってもらえて嬉しかったです。それまでは『マヌルネコのうた』を聞いて楽しみにお待ちいただければ」

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