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「アニー…私のことからかっているの?」台湾列車事故、親友への手紙

「一度だけでいいから、私にサプライズプレゼントをさせてくれないかな」

東京の目黒川沿いで花見をした陳品君(アニー・チェン)さん(右)と、親友の黄晨怡さん=黄さん提供
東京の目黒川沿いで花見をした陳品君(アニー・チェン)さん(右)と、親友の黄晨怡さん=黄さん提供

目次

コロナ禍で一時帰国した後も、日本へ戻る日を心待ちにしていた早稲田大学4年の陳品君(アニー・チェン)さん(22)。その命は、新学期のリモート授業が始まる3日前、台湾の列車脱線事故によって奪われた。明るくて奔放なアニーさんは、日本でも多くの友人から愛されていた。親友の一人は、突然の訃報に涙しながらも、脱線事故の翌日の4月3日、SNS上に手紙をアップした。手紙をきっかけに、アニーさんを悼むメッセージや思い出の写真がアップされる輪が広がっている。

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わき上がった感謝の思い

「アニーと友達で幸せだった。ありがとう」「ずっと忘れないよ」

手紙を書いた早稲田大3年の中国人留学生、黄晨怡さん(20)は、インスタグラムにアップされたメッセージを通して、親友のアニーさんが事故に遭ったことを知った。

めまいがして、何時間たっても現実とは思えなかった。

スマホに残っていたアニーさんとの写真をスクロールすると、楽しかった思い出がわき上がってきた。

友達が少なくて心細かった入学直後、埼玉の日帰り旅行に誘ってくれたこと。
成績が悪くて落ち込んでいる時、素敵なディナーに誘ってくれたこと。
中国と台湾で離ればなれになった後も、誕生日のサプライズムービーを作ってくれたこと。

「私はアニーに、どれだけのことをしてあげられたのだろう。いま、大好きなあなたに、思いを伝えたい」

黄さんは、涙で濡れたスマホを拭きながら、手紙を書き始めた。

口に出して言わなかった「会いたい気持ち」

台北生まれのアニーさんは、中学・高校は女子校に通い、クラスの人気者だった。高校2年生になる時に1年間休学し、アメリカ留学も経験した。

和食や日本文化が大好きで、高校卒業後の進学先に、世界中の留学生が集まる早稲田大学を選んだ。2017年秋、9月生として国際教養学部に入学した。


私たちが初めて会ったのは、2018年にあった日本語の授業の時。先生が私たち二人の名前を呼び間違えていたよね。

アニーは、いつも元気いっぱいで、楽しそうに笑っていて、周りを温かい気持ちにするイルミネーションみたいな人だったな。面白い話をして、可愛く怒って、ドジなことして、一緒に食べて飲んで遊んで、歩き回って、バカ騒ぎして……。そして、私がつらい時も大変な時も、そばにいて、寄り添ってくれた。いつも幸せと温かい気持ちを運んできてくれて、本当にありがとう。

アニー・チェンさん(左)と、親友の黄晨怡さん=2020年2月8日、黄さん提供
アニー・チェンさん(左)と、親友の黄晨怡さん=2020年2月8日、黄さん提供

昨年春。新型コロナの感染拡大を受け、二人はそれぞれ、中国と台湾に一時帰国することにした。帰国の1週間前、二人は遊びに出かけた。


最後に会ったのは、昨年3月1日。南青山と原宿を歩き回った後、麻布十番でおいしいものを食べて、色々なことを話したね。

日本を離れて半年ほど経った昨夏の深夜。台湾と中国をつないだ電話は、2時間を超えた。


この前の長電話で、アニーが「早く会いたいよ」って真剣に言ってくれた時、実はとても感動したし、私も同じ気持ちだったんだ。でも、私は、口に出して言わなかった。今になって、すごく後悔してる。

照れくさくて、素直な思いを伝えられないまま、「また話そうね。おやすみ!」と電話を切った。また、いつでも電話して伝えられる、と思っていたから。

とっておきの写真アルバム

「秋から一緒に住むシェアハウス、ネットで探さない?」
アニーさんから今年3月21日に来ていたLINEメッセージは、返信しそびれたままだった。


アニーの返信が遅いって、私はいつも文句言っていたのにね。今回、返信していなかったのは私の方だった。すごく後悔してる。

アニーさんは、新学期の授業の3日前に、脱線事故に巻き込まれた。台湾の4連休初日だった。二人がやり残したことは、まだたくさんあった。


お互いの実家に遊びに行くことを約束していたけど、結局、アニーは南京に来たけど、私は台北に行けずじまいだったね。

旅行に行く約束も、いつも先延ばし。ダブルデートの約束も、私がずっとすっぽかしちゃっていた。
一緒にシェアハウスに住む約束も、だらだらと部屋探しをせずに引き延ばしてしまっていたね。

スマホの中には、とっておきのアルバムフォルダーがある。そこには、アニーさんと撮った40枚のお気に入り写真が収められている。


アニーの誕生日にサプライズしようと思って、盛れた写真もブサイクな写真も、いっぱい保存しておいたんだよ。アニーが、私の誕生日を祝うサプライズムービーを準備してくれた、あの時みたいに。ブサイクな写真もいっぱいあったけど、うれしかった。アニーは、一番たくさんサプライズをしてくれた友達だよ。

アニー、一度だけでいいから、私にサプライズプレゼントをさせてくれないかな。

埼玉の川越で観光をしたアニー・チェンさん(右)と、親友の黄晨怡さん=2018年12月16日、黄さん提供
埼玉の川越で観光をしたアニー・チェンさん(右)と、親友の黄晨怡さん=2018年12月16日、黄さん提供

手紙につづった思い お別れの会でも

気づけば、午前3時。書き始めてから、1時間以上が経っていた。


人生で、こんなことに向き合わなきゃいけない日が来るなんて。アニーに聞いてみたくなるんだ。ねえ、私のことからかっているの?って。これを聞いたアニーの顔を想像すると、笑いたくもなるし、泣きたくもなる。アニーのことを考えるだけで胸が痛くなるくらい、大切な友達だよ。

アニーのハッピーでカラフルな生活を想像するだけで、私はとってもうれしいんだ。

アニーさんとのお別れの会は、5月23日に台北市内で開かれる。

黄さんは中国国内からのオンライン参加になるが、手紙につづった思いも、改めて伝えるつもりだ。


アニーのこと、めちゃくちゃ大好きだよ。天使みたいに美しいアニーが、安らかに過ごせますように。

東京・柴又の江戸川沿いで遊んでいたアニー・チェンさん。親友の黄晨怡さんがカメラを向けると、笑顔で振り返った=2019年4月21日、黄さん提供
東京・柴又の江戸川沿いで遊んでいたアニー・チェンさん。親友の黄晨怡さんがカメラを向けると、笑顔で振り返った=2019年4月21日、黄さん提供
※黄さんが書いた手紙の日本語訳全文を、黄さん本人とアニーさんご家族の了承のもと、公開します。原文は中国語

アニーへ

ちょうどさっきまで、スマホの写真を整理していたんだ。私たちが初めて会ったのは、2018年にあった日本語の授業の時。先生が私たち二人の名前を呼び間違えていたよね。最後に会ったのは、2020年3月1日。南青山と原宿を歩き回った後、麻布十番でおいしいものを食べて、色々なことを話したね。

アニーは、いつも元気いっぱいで、楽しそうに笑っていて、周りを温かい気持ちにするイルミネーションみたいな人だったな。面白い話をして、可愛く怒って、ドジなことして、一緒に食べて飲んで遊んで、歩き回って、バカ騒ぎして……。そして、私がつらい時も大変な時も、そばにいて、寄り添ってくれた。
いつも幸せと温かい気持ちを運んできてくれて、本当にありがとう。


「来学期こそ、一緒に旅行に行こう」「来学期こそ、一緒の授業を取ろう」って、ずっと言っていたのに、本当にごめんね。

「アニーおすすめの中国ドラマを一緒に見よう」って、ずっと言っていたのに、実は去年に一人で見ちゃったの。でも、アニーには言ってなかったよね。
アニーの返信が遅いって、私はいつも文句言っていたのに、先週、返信していなかったのは私の方だった。すごく後悔してるよ。

人生で、こんなことに向き合わなきゃいけない日が来るなんて。アニーに聞いてみたくなるんだ。ねえ、私のことからかっているの?って。これを聞いたアニーの顔を想像すると、笑いたくもなるし、泣きたくもなる。アニーのことを考えるだけで胸が痛くなるくらい、大切な友達だよ。


スマホには、にぎやかで笑顔いっぱいの日々が詰まった、アニーとのアルバムがある。アニーの誕生日にサプライズしようと思って、盛れた写真もブサイクな写真も、いっぱい保存しておいたんだよ。

アニーが、私の誕生日を祝うサプライズムービーを準備してくれた、あの時みたいに。ブサイクな写真もいっぱいあったけど、うれしかった。アニーは、一番たくさんサプライズをしてくれた友達だよ。

アニー、一度だけでいいから、私にサプライズプレゼントをさせてくれないかな。


私たち、まだまだ果たせていない約束がいっぱいあったよね。

ミルクティー代と100人民元は返してもらってないし、私も一回分の食事代をアニーに払ってもらったまま。
お互いの実家に遊びに行くことを約束していたけど、結局、アニーは南京に来たけど、私は台北に行けずじまいだったね。
旅行に行く約束も、いつも先延ばし。ダブルデートの約束も、私がずっとすっぽかしちゃっていた。
一緒にシェアハウスに住む約束も、だらだらと部屋探しをせずに引き延ばしてしまっていたね。

この前の長電話で、アニーが「早く会いたいね」って真剣に言ってくれた時、実はとても感動したし、私も同じ気持ちだったんだ。でも、私は、口に出して言わなかった。今になって、すごく後悔してる。


アニーのこと、めちゃくちゃ大好きだよ。天使みたいに美しいアニーが、安らかに過ごせますように。会えなかったこの1年、アニーはとても幸せそうだった。

前にある映画を何度もオススメしたけど、たぶん見てないよね。その映画の中で、「大切なのは、今のあなたが何をしているかだ」というセリフがあったんだ。このセリフを書くと、(今アニーがいないことが)とても残念に思えてきたけど、消したくはない。だって、今、アニーはハッピーでカラフルな生活を送っているでしょう? その姿を想像するだけで、私はとってもうれしいんだ。

これからも永遠に、幸せが続きますように。

(もし、この手紙を読んでも笑わないでね)

2021.4.2 R.I.P

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