話題
寒天に焼きそば…秋田の日常?無数のアレンジ「農家の嫁の表現の場」
「住んでいない人は『なにこれ?』となるかもしれないが…」
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「住んでいない人は『なにこれ?』となるかもしれないが…」
寒天の中に焼きそば?!
秋田県横手市にある道の駅に、焼きそばを寒天で固めた商品が販売されています。どのような経緯で商品が誕生したのか。他にも寒天を使った商品はあるのか。関係者に聞きました。
ご当地グルメの横手やきそばを寒天で固めた商品、「横手やきそば寒天」を販売しているのは、秋田県横手市の道の駅十文字です。
運営会社の十文字リーディングカンパニーの小川晋さんは「寒天料理は秋田県内陸南部で昔から根付いているもので、何でも固めてしまうという文化があります」と話します。
道の駅十文字で「横手やきそば寒天」の販売を始めたのは、4月に入ってからのこと。
「変わり寒天」のアイデアをお客さんに募集した中から、今回の商品が生まれました。
「道の駅のフードコートに横手やきそばを提供している店があり、なおかつ、焼きそばを寒天に固めたものは誰も見たことがなかった。寒天を作っている『さくらグループ』の方と話し合い、何回か試作を重ねました」。そして、ソース味の寒天で横手やきそばを固めた「横手やきそば寒天」が完成したのです。
この地域では昔から、マヨネーズ味のサラダを寒天で固めたものなどが各家庭で出されるなど「寒天に対しての抵抗があまりない」(小川さん)といいます。
今回の商品についても、「住んでいない人にとっては、『なにこれ?』となるかもしれないですが、地元の人は『へえ、こういうのも寒天にしたんだ』くらいの感覚だと思います」
道の駅十文字ではオープン当時の14年前から寒天商品の取り扱いがあり、「横手やきそば寒天」の他にも、ココア味の寒天で食パンを固めたものや、桜色の甘い寒天で稲庭うどんを固めたもの、胡桃をしょうゆ味の寒天で固めたものなどを販売しています。
「寒天でなんでも固めて食べる文化」は、ここまで来ました。
— おいち (@oichi0901) April 12, 2021
もう、怖いものなしです。
#yokote pic.twitter.com/yhJwzFkfn5
ところで、そもそも秋田県ではなぜ、食材を寒天で固める文化が広まったのでしょうか。2012年からの4年間、秋田の文化を紹介してきた、県のフリーマガジン「のんびり」の編集部、矢吹史子さんに聞きました。
「のんびり」では、第1号、第5号で寒天文化を特集。寒天作りに欠かせない「棒寒天」を作っている長野県の業者や、寒天を作っている県内の女性にインタビューし、寒天作りの体験記事なども掲載しました。また、「天使の寒天博覧会」として、過去2回、県内の寒天料理を観覧、試食、審査するイベントも開催しました。
それらに関わってきた矢吹さんでも「なぜ秋田に寒天文化が根付いたのかという明確な理由はわかりません」といいます。
ただ、県内でも特に寒天文化が根付く、横手市や湯沢町などは、県内でも特に甘い味付けが多い地域。
「秋田では甘いものはご馳走という考え方があり、お赤飯や納豆にもお砂糖を入れます。その『甘いもの』の代表が寒天です。昔から手作りして農作業の合間に振る舞い合ったり、婦人会の集まりに持ち寄ることが多いようです」
甘いものの代表が寒天というのは理解できる一方、寒天にどんどんアレンジが加わり、甘いもの以外も寒天になっていることが秋田の寒天文化の特徴でもあります。
アレンジされた寒天が無数に生み出される背景には「農家の嫁の表現の場」という事情があるのではないかと矢吹さんは指摘します。
「かつて農家のお母さん方は、『農家の嫁』として自分を表現できる場があまりなかった。でも、寒天作りでは色合いや材料で独創性を出せる。それを自慢できるのが寒天だったというところがあります」
「そういった意味では漬けものも同じようなところがありますが、寒天はさらに華やかさが演出できます」
現代では、スーパーの惣菜コーナーに寒天料理が並んでいるは普通の光景。
「椎茸の戻し汁を甘辛く味付け、椎茸を固めたものもあれば、サラダ寒天(ポテトサラダの具材を固めたようなもの)もある。仏壇のお供え物として色だけついた寒天も並んでいます」(矢吹さん)
冒頭の「横手やきそば寒天」を販売している道の駅十文字の小川さんはこんなことも話していました。
「寒天の商品は、比較的年配のお客様が購入しているのではないかと思います。加工品を出す方の高齢化が進めばこのような珍しい食文化も無くなっていってしまうのかもしれません」
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