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「こども庁」議論、おとなだけで決めていない?専門家が懸念すること
「子どもの権利の視点に立った議論を」と求める声が相次いでいます
自民党が創設を目指しているという「こども庁」。専門家に取材を進めると、ハコができること自体は歓迎の声が聞かれる一方で、「子どもの権利の視点に立った議論を」と求める声が相次ぎました。
「子どもの権利の視点」とは? ふたりの専門家に聞きました。
――「子どもの権利の視点」という考え方は、日本ではなじみが薄い気がします。
「子どもを大切にする」ことは日本社会で定着していると思いますが、子どもの意見(広い意味で「意思・意向」を指す)を尊重するということは広まっていませんね。
例えばコロナ禍で昨年、おとなが学校の一斉休校を求めた時、子どもの意見をどこまで考慮したでしょうか。子どもの最善の利益を、判断材料に入れたでしょうか。
子どもの最善の利益を判断するには、まず子どもの意見を聴いて判断するのが基本です。
当然、こども庁を創設する時に求められるプロセスも同じです。子どもの意見の尊重は、子どもの権利条約が認めた「権利」なのです。
――「権利」というと、「子どもの言う通りにするのか」という反発の声が聞かれます。
意見を尊重するというのは、子どもの言いなりになることとも、無視することとも違います。
どんな組織が望ましいのか、おとなが問い続けなければなりません。意見を尊重するおとなの実践力が問われます。それと同時に、子どもが意見を言ってもいいんだと思える雰囲気づくりや、意見を言う仕組みづくりも必要です。
――なぜ「子どもの権利の視点」が必要なのでしょうか。
こども庁に子どもの権利の視点がなければ、幼保の統合など、おとなが考える縦割り行政の弊害を取り除くだけで終わってしまいます。
例えば、子どもの貧困対策というと、日本では経済問題と捉えられがちですが、国連やユニセフでは「権利が奪われている状態」も貧困を指します。
こども庁創設のみの議論が先行すれば、権利の視点が後退してしまいます。
――荒牧さんは「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」実行委員会の共同代表も務めています。
子どもの権利条約の実現、そして「子ども基本法」の制定を求める個人や団体と協力しながら、政策提言をしています。
もっと子どもの意見を採り入れて、子どもとおとなが一緒につくった提言書を提出するつもりです。
さらに、キャンペーンの柱である、参加する団体を増やしてネットワーク化し、子どもの権利条約を広めていきたいです。
――こども庁のあるべき姿とは?
2020年11月、富山県で開かれた「子どもの権利条約フォーラム」で、「子ども基本法」について事前に説明し、オンラインで全国の子どもたちに意見を出してもらいました。
「本当にこんなものができるの」と懐疑的な意見もありましたが、「自分たちのための法律ができたらすごいね、どうせつくるならより良いものにしたいね」という声も聞かれました。
「こども庁」が、子どものダメなところを叱るのではなく守って助けてくれるところであれば、それだけで勇気づけられます。子どもたちが「ヤッター」と思えるような組織にしなければなりません。
――経済協力開発機構(OECD)の統計によると、日本の児童手当や保育施設への助成などを合わせた「家族関係社会支出」は国内総生産(GDP)比で1.78%で、OECD平均の2.34%を下回っています。1位のフランス(3.6%)や8位の英国(3.23%)の半分程度です。
子どもに関するお金は、国ではなく家庭で出すべきだという考え方が根強いですよね。子どもの今に投資する必要性がどれだけ認識されているか。
「子どもにお金をかけない」というのは、子どもの優先順位が低いという社会構造の表れでもあります。
予算や人員の少なさは是正していくべきですが、土台となるのは「子どもの権利」であることを忘れてはいけません。
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