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「こども庁」議論、おとなだけで決めていない?専門家が懸念すること

「子どもの権利の視点に立った議論を」と求める声が相次いでいます

「こども庁」の議論はこどもの意見を尊重して進んでいるのでしょうか
「こども庁」の議論はこどもの意見を尊重して進んでいるのでしょうか 出典: PIXTA

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自民党が創設を目指しているという「こども庁」。専門家に取材を進めると、ハコができること自体は歓迎の声が聞かれる一方で、「子どもの権利の視点に立った議論を」と求める声が相次ぎました。
「子どもの権利の視点」とは? ふたりの専門家に聞きました。

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「こども庁」構想は今年3月、自民党の若手議員による勉強会が提言としてまとめました。
「縦割り行政の打破」を念頭に、虐待や貧困、幼稚園と保育園の一体化など幅広いテーマを扱うとしています。
同じような構想は以前からあり、旧民主党も「子ども家庭省」創設を政権公約に掲げ法案までつくりましたが、実現しませんでした。

「子どもの権利条約」を基準に

■子どもの権利条約総合研究所の荒牧重人代表

――「こども庁」の創設に向けた議論が自民党内で始まりました。

大前提として、子ども政策を総合化すること、それらを担当する部署を設置することは必要です。
「子どもの視点」で議論したいと言われていますが、子どもの視点とは、国際的には「子どもの権利の視点」を指します。
おとなが一方的に考えたものではなく、子どもが権利の主体であるということです。

それは1989年に国連で採択されたグローバルスタンダードである「子どもの権利条約」(日本は1994年に批准)を基準に考えるべきです。

日本では、条約を基盤とした子どもの権利を総合的に保障する法律がないので、「子ども基本法」を整備すると共に、子どもの相談・救済機関として政府から独立した「子どもオンブズパーソン」もしくは「子どもコミッショナー」と呼ばれる機関の設置も必要です。
これらは「こども庁」とセットで行うべきです。
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「子ども基本法」とは:
子どもを権利の主体として位置づけ、その権利を保障する総合的な法律として、子どもの虐待防止や居場所づくりに取り組むNPO法人や、日本財団、NGOなどが制定を目指しています。

子どもの意見の尊重を

――「子どもの権利の視点」という考え方は、日本ではなじみが薄い気がします。

「子どもを大切にする」ことは日本社会で定着していると思いますが、子どもの意見(広い意味で「意思・意向」を指す)を尊重するということは広まっていませんね。

例えばコロナ禍で昨年、おとなが学校の一斉休校を求めた時、子どもの意見をどこまで考慮したでしょうか。子どもの最善の利益を、判断材料に入れたでしょうか。

子どもの最善の利益を判断するには、まず子どもの意見を聴いて判断するのが基本です。
当然、こども庁を創設する時に求められるプロセスも同じです。子どもの意見の尊重は、子どもの権利条約が認めた「権利」なのです。

こども庁の創設に向けて開かれた自民党の初会合
こども庁の創設に向けて開かれた自民党の初会合 出典:こども庁は「パンドラの箱」 所管官庁は複数、難航予想:朝日新聞デジタル

問われるのはおとなの実践力

――「権利」というと、「子どもの言う通りにするのか」という反発の声が聞かれます。

意見を尊重するというのは、子どもの言いなりになることとも、無視することとも違います。
どんな組織が望ましいのか、おとなが問い続けなければなりません。意見を尊重するおとなの実践力が問われます。それと同時に、子どもが意見を言ってもいいんだと思える雰囲気づくりや、意見を言う仕組みづくりも必要です。

――なぜ「子どもの権利の視点」が必要なのでしょうか。

こども庁に子どもの権利の視点がなければ、幼保の統合など、おとなが考える縦割り行政の弊害を取り除くだけで終わってしまいます。

例えば、子どもの貧困対策というと、日本では経済問題と捉えられがちですが、国連やユニセフでは「権利が奪われている状態」も貧困を指します。
こども庁創設のみの議論が先行すれば、権利の視点が後退してしまいます。

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子どもとおとなが一緒に政策提言を

――荒牧さんは「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」実行委員会の共同代表も務めています。

子どもの権利条約の実現、そして「子ども基本法」の制定を求める個人や団体と協力しながら、政策提言をしています。
もっと子どもの意見を採り入れて、子どもとおとなが一緒につくった提言書を提出するつもりです。
さらに、キャンペーンの柱である、参加する団体を増やしてネットワーク化し、子どもの権利条約を広めていきたいです。

「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」実行委員会のロゴ(荒牧さん提供)
「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」実行委員会のロゴ(荒牧さん提供)

望ましいおとな像の押しつけ?

■子どもへの暴力防止活動をしてきたNPO法人CAPセンター・JAPANの重松和枝事務局次長

――「子どもの権利を土台に」とツイッターでも訴えていますね。

こども庁の議論では、何を軸にするのかが明確になっていません。
法律の根拠が何もないままでは、子どもを家父長制や古い家庭像に押し込めて「望ましいおとな像」に近づけるためのものになってしまわないかと心配しています。

子どもの権利を保障していくという、「子ども基本法」を制定して軸に据えなければいけません。
こども庁の議論が、子どもを守るためのものになるのか、子どもの力をそいでいくものになるのか、今が分かれ目だと感じています。

――なぜそう思いますか。

学校で下着の色を規定したりチェックしたりする「ブラック校則」が話題になって久しいですが、そもそも学校に下着の色を決められること自体が人権侵害なんですよ。

社会の根底に子どもへの差別や、「子どもだから仕方ないよね」という考え方があると思います。

おとなは良かれと思って、無意識に、何の罪悪感や自責の念を持たず、子どもの権利を奪っているのです。おとなの枠の中におさめようとして、子どもから学び取ろうとせず、「子どものくせに」とすぐ言ってしまう。
子どもが意見を表明することを、おとなは恐れているんでしょうか。
出典:こども庁は「パンドラの箱」 所管官庁は複数、難航予想:朝日新聞デジタル

子どもが勇気づけられるようなものに

――こども庁のあるべき姿とは?

2020年11月、富山県で開かれた「子どもの権利条約フォーラム」で、「子ども基本法」について事前に説明し、オンラインで全国の子どもたちに意見を出してもらいました。
「本当にこんなものができるの」と懐疑的な意見もありましたが、「自分たちのための法律ができたらすごいね、どうせつくるならより良いものにしたいね」という声も聞かれました。

「こども庁」が、子どものダメなところを叱るのではなく守って助けてくれるところであれば、それだけで勇気づけられます。子どもたちが「ヤッター」と思えるような組織にしなければなりません。

――経済協力開発機構(OECD)の統計によると、日本の児童手当や保育施設への助成などを合わせた「家族関係社会支出」は国内総生産(GDP)比で1.78%で、OECD平均の2.34%を下回っています。1位のフランス(3.6%)や8位の英国(3.23%)の半分程度です。

子どもに関するお金は、国ではなく家庭で出すべきだという考え方が根強いですよね。子どもの今に投資する必要性がどれだけ認識されているか。

「子どもにお金をかけない」というのは、子どもの優先順位が低いという社会構造の表れでもあります。
予算や人員の少なさは是正していくべきですが、土台となるのは「子どもの権利」であることを忘れてはいけません。

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